1年後のW杯に向けた新たなチャレンジ。ニュージーランド戦に臨むなでしこジャパン
【アジアカップ優勝後、初の国際親善試合】
なでしこジャパンは6月10日(日)、アウェーでニュージーランド女子代表との国際親善試合を行う。
チームは4月にヨルダンで行われたアジアカップで優勝し、アジアチャンピオンとして来年6月に開幕するフランス女子W杯に臨む。
現在、日本はFIFA女子ランキング11位。アメリカやヨーロッパ各国など、ランキング上位のチームは親善試合を積極的に組んで強化を進めている。日本もこの1年で世界で戦えるチームに仕上げていかなければならない。
ニュージーランド戦は、アジアカップを経て、“世界”に目標を定める第一歩となる。今回の遠征のテーマについて、高倉麻子監督は次のように話した。
「守備のところは全員の理解がある程度高まっているので、ここからはその強度を上げていきながら、精度も高めていきます。攻撃はアイデアやコンビネーションの部分を中心に作っていきたいと思っています」(高倉監督)
アジアカップでは、堅守をベースに、少ないチャンスを生かして勝つ試合が多かった。ただし、フィニッシュの場面ではFW岩渕真奈やFW横山久美の個人技に頼りがちな部分もあった。W杯では相手のプレッシャーもより速く、強くなる中で、シュートチャンスを増やすためにも、ビルドアップの強化は不可欠だ。
FIFAランク20位のニュージーランドは、W杯と五輪はともに3大会連続出場を果たしている女子サッカー新興国の一つ。過去の対戦成績は8試合で日本が6勝2分と圧倒しているが、勝ったゲームは1点差の競った試合が多く、全く侮れない相手だ。
ちなみに、日本がアウェーでニュージーランドと対戦するのは初めて。ここでは「寒さ」と「風」が立ちはだかる。
南半球のニュージーランドは、現在は初冬で、気温は10度前後。加えて、会場となるウェリントンは年間の平均風速が世界一とも言われる「風の街」。冬は降雨量も多いため、実際の気温よりも体感温度は低く感じる。
チームが現地入りした5日以降は悪天候も重なり、当初予定されていた3日間の2部練習は、すべて午後の練習がキャンセルになった。グラウンド上で合わせる時間が減ったのは痛いが、選手たちはホテルでコンディショニングやジムトレーニングをこなしたようだ。
【アジアカップを経て変化したチームの雰囲気】
ボールを要求する声や守備のコーチング、笑い声。寒風と雨の中でも、練習は活気に満ちていた。
メリハリのある雰囲気は、アジアカップのタイトルがチームにもたらした自信だろうか。FW川澄奈穂美は、同大会を経て、チームの変化を次のように話している。
「サッカーに対する全員の取り組み方が急に変わったということではないのですが、数字には出ないチームの雰囲気の変化を感じています。アジアカップで結果は出せましたが、『内容的にはまだまだだな』とみんなが感じたことが、取り組む姿勢にも出ているんじゃないかな、と思います」(川澄)
川澄が言うように、日本はアジアカップで最高の結果を出したが、内容的には思うようにボールをもたせてもらえず、苦しい試合が多かった。タイトルは手にしたが、「このままでは世界で勝てない」という実感を得た選手も多かったようだ。GK山下杏也加も、その思いを強くした1人だ。
「アジアカップではボールを保持できずに、内容的には負けている部分が多いと感じたので、結果につながる、目に見える部分をもっと練習したいと思っています」(山下)
山下を含め、大舞台に物怖じせず堂々とプレーした若手選手たちの活躍は、大会を通じての収穫だった。20代前半のMF隅田凜やDF清水梨紗、MF長谷川唯、DF市瀬菜々は、すでに、主力としての自覚を持って練習に臨んでいるように見える。
一方、そんな若い選手たちの良さを引き出し、試行錯誤の中でチームを支えてきた経験豊富なベテランたちにとっても、2年間の努力が報われた重要なタイトルだった。
今回も、率先して練習の雰囲気を高めているのは年上の選手たちだ。
オリンピック・リヨン(フランス)で、日本人初となる女子CL3連覇の偉業を達成したキャプテンのDF熊谷紗希は、明るさと厳しさの両面でチームを盛り上げている。6日の練習から合流したシアトル・レインFC(アメリカ)の川澄とDF宇津木瑠美のこまやかなコミュニケーションも光った。
【阪口夢穂不在の中盤を埋めるのは?】
日本は国内リーグ(現在はリーグカップ期間中)がシーズン中のため、コンディションが良さそうな選手が多い反面、ケガ人も多い。今回は、招集されていた岩渕とMF猶本光の2人がケガのため、遠征直前に不参加となった。
また、これまで2年間、中盤の核となっていたMF阪口夢穂が、膝のケガで長期離脱を余儀なくされ、初めてメンバーから外れた。阪口不在の中で、ニュージーランド戦はチームの総合力が試される。
中盤に負傷者が多い中で、高倉監督は「いろいろな選手にチャンスを」と、今回の遠征に19歳のMF長野風花と、20歳のMF三浦成美を初招集した。
2人とも、年代別代表では高倉監督のチームでプレーしたことがあり、練習の意図を理解するのが早く、違和感なく溶け込んでいる。
長野は今年、ジュニアユース時代からプレーした浦和レッドダイヤモンズレディースから、仁川現代製鉄レッドエンジェルズ(WKリーグ/韓国)に移籍。先日、移籍後初ゴールを決めた。今回の遠征では最年少ながら、物怖じしないプレーを見せている。U-20女子日本代表では中心選手であり、8月のU-20女子W杯が終われば、正式にA代表候補に加わる可能性が高い。
また、三浦は昨年まで、所属チームの日テレ・ベレーザ(ベレーザ)ではサイドハーフが本職だったが、シーズン途中に阪口が離脱を余儀なくされたため、その阪口に代わって4−1−4−1のアンカーのポジションに抜擢された。
「最初は中央のポジショニングが分からなかったんですが、ボールを受けるスペースを見つけられるようになって、守備で(ボールを)狙いに行くポイントとか、背中(にいる相手FWへのパスコース)を消すポイントも分かってきました」(三浦)
そう話す三浦は、新たなポジションで日々、進化を続けている。代表にはベレーザのチームメートも多く、コンビネーションの良さはアドバンテージとなる。
また、初招集の2人に負けじと紅白戦で存在感を発揮していたのが、アジアカップで初招集され、今回が2度目の選出となったMF阪口萌乃だ。
所属のアルビレックス新潟レディースでは攻撃的なポジションでプレーする機会が多く、本職のボランチ以外に、トップやトップ下、サイドハーフなど、複数ポジションをこなす。状況判断とテクニックを生かした攻撃参加が特長で、このチームのスタイルにも素早く馴染めそうだ。
「ボールがよく回るし、展開も早くて、いろいろなイメージが湧くので楽しいです」(阪口萌乃)
と、練習にも刺激を受けている様子で、ニュージーランド戦では、前線の選手たちとのコンビネーションから「ゴールにつながるプレーを見せたい」と意気込みを語った。
【新たな得点パターンを見出せるか】
攻撃面では、岩渕と横山の2人を欠く中で、誰が点を取るのかという点も、ニュージーランド戦の見所だ。ポストプレーに長けたFW田中美南とFW菅澤優衣香を起点に、2列目の選手が飛び出していく形は期待できる形の一つ。川澄、MF中島依美、長谷川ら、中盤には攻撃にバリエーションを生み出せる選手が多い。
ニュージーランドの前線には高さと強さを備えたFWがいるため、シンプルに縦を狙ってくる可能性もあるが、それをさせないためにも、「蹴らせない」守備で相手を自陣に押し込みたい。
左サイドバックのDF鮫島彩は、ニュージーランドと過去に3度の対戦経験があり、3戦全勝と相性が良い。最大の武器でもあるスピードは、これまでは守備面で生かされる場面が多かったが、ニュージーランド戦では攻撃面での見せ場も増えそうだ。
「アジアカップで、それまで課題だった早い時間帯の失点が減ったのは、守備の距離感が良くなったこともあると思います。今度は、そこから自分たちの時間を増やしていきたい。このままだと、負けない試合はできても、勝つ試合運びは難しい。(今回の遠征では)駆け引きの中で逆を取る動きや、相手を剥(は)がしていく作業をやっていきたいです」(鮫島)
日本はこの後、7月に4カ国対抗の国際大会「トーナメント・オブ・ネイションズ」(アメリカ)、8月にはアジア競技大会(インドネシア)と、国際大会が続く。
だからこそ、久しぶりの親善試合となるこのニュージーランド戦では、チャレンジを恐れず、多くのゴールシーンを創り出す積極的な試合運びに期待したい。
試合は10日(日)、日本時間12:10(現地時間15:10)から、Westpack Stadiumで行われる。