韓国代表を苦しめたフィリピン代表が強いワケ。日比ハーフの佐藤大介らスタメン11人が混血という事実
まさかの大健闘、と言っていいかもしれない。サッカーアジアカップで韓国代表と対戦したフィリピン代表のことだ。
UAE現地で韓国対フィリピンの試合を取材した私は、韓国代表の勝利を予想していた。初戦という難しさはあるものの、それも圧勝でだ。
だが、完全にその予想は覆ることになる。90分を戦い終えてみればスコアは1-0。
後半22分にFWファン・ウィジョ(ガンバ大阪)のゴールで先制し、それを守り切ったわけだが、どうしても後味が悪い。
ボールポゼッションも81.8%と韓国が圧倒的優位だったにも関わらず、チャンスをものにできなかった。
韓国が勝ち点3を得たのは、結果的に良かったかもしれないが、問題は試合内容にあった。
前半から韓国が優位に試合を進めると思っていたが、相手の堅守に得点チャンスを作り出せず、逆に韓国DFの裏を積極的に攻めてくる相手FWに苦戦した。
FWパティーニョにペナルティエリア内で3回ほど得点チャンスを作られたが、GKキム・スンギュのスーパーセーブがなければ失点していてもおかしくなかった。
チャンスのたびに沸き起こる観衆の声援も完全にフィリピンサポーターのほうが大きく、優勝候補と言われる韓国に一泡吹かせてやろうとの意気込みがフィリピン選手から感じ取れた。
フィリピン代表「DAISUKE SATO」は何者?
アジアカップ最終予選でフィリピン代表は3勝3分の負けなしで本大会出場を決めており、アジアでも急速に力をつけているチームの一つ。
試合に出場するスタートリストの選手のことを調べると、思わぬ事実が浮き彫りになった。
先発選手11人のフィリピン代表選手がすべて、“純血”のフィリピン人でなかったことだった。
現地でフィリピン人記者に話を聞いたところ、フィリピン代表にはタガログ語で「アスカルス(雑種犬の群れ)」の愛称がつけられているという。
日本ではあまり知られていないだろうが、フィリピン代表にDF佐藤大介(セプシ/ルーマニア)という名前の選手がいた。左サイドバックで献身的な守備で、韓国に得点チャンスを許さなかった。
試合が始まる前、スタートリストの「DAISUKE SATO」の文字に一瞬目を疑ったが、彼の母親はフィリピン人。浦和レッズユース、仙台大学出身で日本とのゆかりを持つ。
ほかの先発10人もドイツ系が5人、スペイン系が2人、英国系が1人、オーストリア系1人、デンマーク系が1人だったことに驚いた。
現地取材に来ていたフィリピン人記者が教えてくれたのだが、キャプテンのMFステファン・シュレック(セレスFC/フィリピン)は、ドイツ人の父親とフィリピン人の母親を持ち、ユース時代はドイツ代表としてプレーした。
彼は今大会のキャプテンとして、縦横無尽にピッチを駆け巡っていた。それに屈強なフィジカルは、韓国選手にも負けておらず、むしろ競り勝つシーンのほうが多かった。
ハーフ選手が多い理由
しかし、なぜ混血選手が多いのか。現地記者に簡単に話を聞くと、こういう説明だった。
「フィリピン人には世界各国で働く人が多く、現地で結婚し移住する割合も少なくない。そこで生まれた子供たちの中で、例えばドイツ、イングランド、スペインなどの先進国でサッカーを学ぶ子がいる。そんなハーフ選手を代表に積極的に呼びよせているからだ」
そんな背景があるとは知る由もなく、そうした現実に驚かされた。Jリーグにもフィリピンのハーフ選手が数名いるが、彼らにも代表への道が開かれているのだろう。
こうした形での代表強化には、もしかしたら賛否があるかもしれない。
それでも、先進国のフットボールを学んだハーフ選手たちが展開する試合は、かつて私が見てきたフィリピン代表とはスタイルもイメージも180度も違っていて、楽しんで見ることができた。
体格は欧州選手に近く、フィジカルでも韓国に簡単に負けることはなかった。技術もしっかりしている。あとは細かな戦術理解度を高めれば、アジアでもいずれトップクラスになるのではと感じるほどだった。
“名将”エリクソン監督も満足げ
それにフィリピン代表指揮官は、イングランド代表などを歴任した経歴を持つスウェーデン人のスベン・ゴラン・エリクソン監督だ。
昨年10月にフィリピン代表に就任した名将は、韓国代表について「フィジカル、キープ力、展開力においてもピッチでボールがたくさん動いていた。すべての面でとてもいいチームだ」と称賛していたが、自分たちの力を示せたことに満足げだった。
アジアカップの初戦で、前回王者のオーストラリアがヨルダンに0-1で敗戦したが、韓国もフィリピンに辛勝。
優勝候補と言われる日本の初戦の相手、トルクメニスタンはどうだろうか――。
韓国対フィリピンの試合は、アジアのレベルの差が、徐々になくなりつつあることを感じさせてくれた一戦だった。