高速ゆうばり号も9月末で廃止へ! 「攻めの廃線」から5年で札幌―夕張間のバス路線がついに消滅
9月末で高速ゆうばり号を廃止の意向
北海道中央バスは2024年9月末をもって旧夕張駅前にあるレースイリゾートと札幌駅前を結ぶ高速ゆうばり号を廃止する意向であることが明らかになった。北海道南幌町が発行する広報なんぽろ5月号によると、廃止理由は慢性的なドライバー不足に加え運行経費の高騰などから路線維持が困難になったことだという。
夕張市内の路線バスは、昨年2023年9月末をもって夕鉄バスが運行する夕張と新札幌駅を結ぶバス路線が全廃された。残る、新夕張駅と旧夕張駅方面を結ぶ路線バスについても1日10往復程度が維持されているが、ドライバーの残業規制が強化されたこの4月からは始発便の最終便の時刻の繰り下げと繰り上げが行われている。
北海道夕張市では、当時の鈴木直道夕張市長が「攻めの廃線」として夕張市内を南北に走っていたJR石勝線夕張支線の廃線を自らJR北海道に対して提案。2019年3月末を持って新夕張―夕張間16.1kmが廃止された。当時は、JR時代と比べて「バスが増便されバス停も増えたことで便利になった」と喧伝されたが、所要時間はJR時代の28分から49分と2倍近くに伸びたことから、全区間を通しで乗車する利用者は限定的で市民の短区間の利用にとどまっているのが実情だ。
高速ゆうばり号の廃止により、札幌から夕張へは、JRで新夕張駅まで行きそこからバスで50分かけて向かうものが唯一の公共交通機関となる。しかし、札幌から新夕張に向かうためには、えきねっと割引のない全席指定の特急列車か、千歳駅と新夕張駅を結ぶ2.5往復の普通列車しか手段がなくなる。夕張市民に対しては、新夕張駅で夕張市民であることを証明できる身分証明書を提示すれば「特急券代用証」が発行され、新夕張―南千歳間で特急料金分が無料で特急列車に乗車できるが、自家用車であれば札幌まで1時間程度で移動できることから夕張市民にとっても利用は限定的だ。また、観光客にとっては、夕張はより訪れにくい場所となる。
札幌ー夕張間は10月以降、片道2,070円から4,330円に
札幌―新夕張間を特急列車で移動する場合には、乗車券1,890円に加えて特急券1,680円の合計3,570円が片道の移動に必要となる。乗車券のみで利用可能な千歳発新夕張行の普通列車は、11時35分発と17時26分発の2本しか設定がない。さらに、新夕張駅から路線バスに乗り継いで旧夕張駅前にあるレースイリゾート前までは760円の運賃がかかる。なお、特急列車と路線バスで札幌から旧夕張駅まで行こうとした場合には、片道4,330円が必要となる。
これに対して、高速ゆうばり号は札幌駅前―レースイリゾート間の運賃は2,070円であることから、10月以降に公共交通機関で夕張に行こうとした場合には2倍以上の金額が必要となる。
「責めの敗戦」ではないのかとの声も
鈴木直道氏は2019年に夕張市長から知事選に出馬し初当選を果たし現在2期目を努めており、北海道の「観光振興に力を入れる」方針を示している。しかし、鈴木氏がかつて市長を務めていた夕張市は観光振興とは程遠い状況に置かれており、政策方針に対する言行不一致がみられる。夕張市では2024年の観光入込客数の目標を60万人に設定し、目標達成に向けて観光ホームページや市内観光マップの更新に取り組んでいるというが、2023年12月6日に行われた夕張市の定例市議会で厚谷司市長は「目標達成は厳しい状況であることは事実」と答弁している。
観光振興の観点からは、鉄道がない地域には観光振興の効果を波及させにくいという問題がある。多くの国では鉄道に乗ること自体が観光資源として認知されていることから特にインバウンド来訪の波は鉄道がある地域に波及しやすい傾向がある。この冬の観光シーズンには、ニセコリゾートエリアの玄関口となる函館本線の倶知安―小樽間でも日中に通常運行される2両編成のH100形では途中の余市駅で乗客の積み残しが発生する事態が生じたことなどから、急きょ3両編成のキハ201系が投入され輸送力の増強が図られたほどインバウンド来訪の波が波及したこととは対象的だ。
今回の高速ゆうばり号の廃止により夕張市がますます外部から訪れにくい場所となってしまうことから、SNS上では「これは『攻めの廃線』ではなく『責めの敗戦』ではないのか」という声も上がっている。
(了)