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世界の感染者100万人突破の今 怖がるトランプ氏 結果からみる致死率:米国=35%、日本=11%

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ロサンゼルス市長もマスクを推奨。写真:abc14news.com

 世界の新型コロナウイルスの感染者数が100万人を突破、死者数は5万人を超えた。

 外出禁止令下、1週間ぶりに食料品の買い出しに行った。目に見える風景がまた変わっていた。

LA市長もマスクを推奨

 いつも行くスーパーのトレーダー・ジョーズ。客が列を作る入り口には、6フィートの社会的距離ごとにチョークでラインがひかれていた。しかし、それだけではなかった。ラインの上には励ましの言葉も記されていたのだ。

 Stay Positive!(ポジティブでいよう!)

 We’re here for you!(力になるよ!)

 陰鬱な日々(「この従業員、感染していないだろうか……」ロックダウン心理的ストレスの恐ろしさ)に束の間、光が差す。

 ショッピングバッグの使用方針も変わっていた。それについて、従業員が列に並んでいる客に説明した。

「持参したショッピングバッグを使いたい人は、購入した商品は自分で入れて下さい」

 従業員は、客が持参したショッピングバッグについては、感染予防から手を触れない方針に変わったのだ。もっとも、同店のペーパーバッグを使う場合は、レジ係が購入した商品を入れてくれる。

 また、先日まではタマゴは1世帯1パックしか購入できなかったが、1世帯2パックまで購入可能に変わっていた。

トレーダー・ジョーズでは、6フィートごとに区切るライン上に、励ましの言葉も記されている。筆者撮影。
トレーダー・ジョーズでは、6フィートごとに区切るライン上に、励ましの言葉も記されている。筆者撮影。

 日系スーパーのミツワは1週間前は入店者数の制限を行っていなかったが、1度に最大20人までしか入れないよう制限を始めていた。

 クローガー系のスーパー・ラルフスも入店者数の制限を開始しており、レジ前には透明なスクリーンが設置されていた。

 どの店も、1週間前より、マスクを身につけている人は明らかに多くなっており、ゴム手袋をはめている人も目についた。マスクの代わりに、バンダナやスカーフを口の周りに巻いている人もいる。

 ロサンゼルス市のガルセッティ市長も市民にマスクを身につけるよう訴え、米国時間4月1日に行われた記者会見では、自ら黒いマスクを身につけてみせた。

 また、コストコは、米国時間4月3日から、メンバーカード1枚につき2人までしか入店できなくなる。

ロサンゼルスのスーパー・ラルフスでは、レジ係と客の間に透明のスクリーンを設置し、感染予防を行っている。レジ係もビニール手袋を身につけ始めた。筆者撮影。
ロサンゼルスのスーパー・ラルフスでは、レジ係と客の間に透明のスクリーンを設置し、感染予防を行っている。レジ係もビニール手袋を身につけ始めた。筆者撮影。

死者数は今年末までに最大24万人か

 変わっていく生活風景を見ると、米政府が進めている「社会的距離戦略」が確実にアメリカ人の間に浸透しているのを感じる。しかし、現在行われている「社会的距離戦略」は感染予防にどれだけの効果をあげることができるのか?

 その答えは、米国時間3月31日に行われた、新型コロナタスクフォースの記者会見の際に、対策調整官を務めるデボラ・バークス氏が行った説明の中にある。

 それは、今アメリカで行われている「社会的距離戦略」が万全だとしても、死者数は今年末までに10万人〜24万人となり、「社会的距離戦略」が取られない場合、その数は150万人〜220万人になるというものだ。つまり、最善のシナリオでは10万人が亡くなり、最悪のシナリオでは220万人が亡くなることになる。

対策を講じない場合はベタ塗りのエリアの感染者数となり、講じた場合は斜線のエリアの感染者数になると予測されている。出典:channel411news.com
対策を講じない場合はベタ塗りのエリアの感染者数となり、講じた場合は斜線のエリアの感染者数になると予測されている。出典:channel411news.com

あんなトランプ氏見たことない

 そんな数字を目の当たりにしたからだろう、この時の記者会見では、トランプ氏にいつもの覇気が感じられなかった。声のトーンが沈んでいた。

「これまで見たことがないような3週間になるだろう。この見えない敵に引き起こされた死、信じられない。この国がこれまでに体験したことがない辛い3週間になるだろう。アメリカは大きな試練の真っ只中にいる」

 誰よりそんなトランプ氏の様子に驚いたのは、CNNのジム・アコスタ記者だった。

 アコスタ記者を覚えているだろうか? 記者会見場でトランプ氏に挑戦的な質問を浴びせてトランプ氏と口論となり、ホワイトハウス入館禁止となって注目された、トランプ氏にとっては宿敵と言っていい記者だ。

 そのアコスタ記者が会見場で「パンデミックを深刻に捉えるまで時間がかかり過ぎたのではないか?」という質問を投げると、いつもなら反撃に出るトランプ氏は「そうだな」と言って否定しなかったという。

 そんなトランプ氏の様子についてアコスタ記者はCNNでこう話した。

「こんなに驚いた記者会見はありません。寒気がしました。あんなトランプ氏は見たことがない。彼は今とても怖いんだと思います。記者会見場の誰もがそう感じていたでしょう。いつものトランプ氏と違っていた。トランプ氏は(怖さが)わかったんだと思います」

 ニューヨーク・タイムズのエリック・リプトン記者もこうツイートした。

「今日のトランプ氏は違う。死者数の多さで、トーンが変わった」

 新型コロナを「ただのインフルエンザだ」と言って軽視していたトランプ氏もやっと現実を直視したようだ。

 米国時間4月1日の記者会見では、

「新型コロナは非常に感染力がある。多くの人々が、感染している誰かと一緒にいるだけで感染している。インフルエンザは決してそうではない」

と話している。

結果からみる世界の致死率20%に上昇

 トランプ氏はまた「これは生きるか死ぬかの問題だ」とまで言及した。それだけ状況は切迫しているのだ。

 数字がその切迫した状況を物語っている。

 筆者は前回の投稿で、結果からみる世界の致死率の高さについて書いた。その時の致死率は18%だったが、現在、その致死率は20%。わずか4日で2%上昇したのだ。

 結果からみるアメリカの致死率に目を向けてみる。アメリカではこれまでにどれだけの感染者が完治して生還し、どれだけの感染者が死亡したのか?

米国時間4月2日、結果からみる世界の致死率は20%に上昇した。出典:worldometers.com
米国時間4月2日、結果からみる世界の致死率は20%に上昇した。出典:worldometers.com

 世界の感染者数が100万人を超えた直後のグリニッジ標準時4月2日18時3分時点で、アメリカの感染者数は23万5747人。うち、完治した人は1万324人、亡くなった人は5620人となっている。結果からみるアメリカの致死率は35%を超えている。つまり、これまでに、3人に1人以上が亡くなっているという状況だ。この致死率が高いのは医療崩壊寸前のニューヨークの死者数が反映されているからだろう。

 もしこの時点で、感染している人々(Active Cases)=21万9803人が、現在の結果からみる致死率35%で今後亡くなると仮定した場合、死者数は7万6931人となる。4月半ばまでは感染者数が急増すると予測されているので、米政府が出した最善のシナリオにおける死者が少なくとも10万人というのは現実的な予測と思われる。

いち早く社会的距離戦略を

 ところで、前述のデボラ・バークス氏は、

「ニューヨーク州やニュージャージー州よりも、ワシントン州は2週間早く、カリフォルニア州は1週間早く、感染者数が増える前に、地域の人々に呼びかけ、感染者数の軽減措置をとった。だから今、大きな違いが生まれている」

と言って、カリフォルニア州やワシントン州が、いち早く、不必要なビジネスや学校を閉鎖する措置を取り、それにより感染者数がニューヨーク州のように激増していない状況を評価した。

 つまり、少しでも早く「社会的距離戦略」を取れば、ニューヨーク州で起きているような感染者数の激増を抑えることができるのだ。

 今、日本の感染者数は増加の一途を辿っている。

 日本の場合、厚生労働省の4月2日19時のデータによると、これまでに完治して生還した人は505人、死亡した人は60人。結果からみる日本の致死率は現在のところ約11%となる。

 そんな状況ながらも、日本では「社会的距離戦略」が進んでいるとは言えない。

 正社員におけるテレワーク(在宅勤務)実施率も13.2%と低い。街にも、普通に出かけている人がまだ数多くいるときく。それに、議員がズラリと並んで座っている国会、あれは、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)がとっくの前に禁止した50人以上のイベントと何ら変わりないのではないか。

 “第2のニューヨーク”にならないためにも、ロックダウンを含む厳格な「社会的距離戦略」を一刻も早く導入することが急務だ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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