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琴ノ若×豪ノ山の先輩・後輩対談 強豪・埼玉栄高校出身で仲はよくても「土俵上では非情になれる」

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
豪ノ山(写真左)と、5月場所から琴櫻を名乗る琴ノ若(写真:筆者撮影)

大相撲春場所で共に10勝を挙げた大関・琴ノ若と西前頭6枚目の豪ノ山。二人は相撲の強豪・埼玉栄高校で1学年差の先輩・後輩でもあり、普段から交流もある。先の春場所を振り返っていただくと同時に、学生時代の思い出や力士になってからの交流、さらに「同志」としての今後の目標などについて話を伺った。

春場所は共に10勝の好成績も「目標を高く取り組んでいきたい」

――お二人とも春場所お疲れ様でした。まずは大関、15日間振り返っていかがでしたか。

琴ノ若 10番勝ちましたが、もったいないところもありました。もっと勝てたと思うし、優勝争いもあったので、1月に比べると物足りない気がしてしまいます。大関として二桁取ったのはよかったと思う一方で、この不甲斐なさもいままでやってきたことの結果なので、良し悪し両方の微妙な気持ちです。

――今後克服していきたい課題は。

琴ノ若 全部でしょう。現状に満足していないし、いまもっているものも全部伸ばさないと上はない。そうやって上を目指していかないといけないと思っています。

――豪ノ山関はいかがでしたか。

豪ノ山 序盤から負け、途中で持ち直しましたが、引く相撲が多く自分のよくない部分もあった場所でした。最後は圧倒的に負けたので悔しいですし、そこはしっかりやり返さなあかんなという気持ちが強いです。結果を見たら10勝で、声援も大きい地元で勝ち越せたのはよかったですが、ホッとする気持ちはありませんでした。

――優勝した尊富士関との対戦では、お二人とも悔しい結果に。心苦しいのですが、率直にいかがでしたでしょうか。

琴ノ若 相手がどうこうじゃなくて、自分自身の問題ですね。

豪ノ山 自分は、真っ向から弾き飛ばすつもりでしたが、立ち合いから組んでしまい、自分のよくない部分が全部出て力で負けました。ただただ、自分がまだ弱い。これからも戦っていく相手なので、目標を高く取り組んでいきたいです。

――しかし、お二人とも途中は優勝争いの集団に名を連ねる局面もありました。

豪ノ山 うーん、でもあれはまだ「優勝争い」とは言えなくないですか?そういう感じは味わえていないですね。

琴ノ若 1月に比べたら余計に、でしょ。

豪ノ山 そうですね、優勝のことは何も考えていませんでした。

4月15日に行われた靖国神社奉納大相撲にて、参拝に向かう琴ノ若。春場所を振り返り「もっと勝てたと思う」と語った(写真:筆者撮影)
4月15日に行われた靖国神社奉納大相撲にて、参拝に向かう琴ノ若。春場所を振り返り「もっと勝てたと思う」と語った(写真:筆者撮影)

高校時代の思い出 キャプテンの“引継ぎ”も

――共に埼玉栄高校出身で、学年が1つ違いのお二人。初めての出会いと、お互いの第一印象を教えてください。

豪ノ山 初めて会ったのは、自分が入る前にお客さんとして来たときですが、ちゃんと話したのは入学後ですね。

琴ノ若 登輝(豪ノ山の本名)は、稽古を見ていて力があったので、強いのが入ってきたなという印象でした。レギュラーを取られないようにしないと、と思ったのを覚えています。

豪ノ山 大関は、相撲部屋の親方の息子という、サラブレッドの印象でした。でも、僕たち後輩と関わってくれて、とても優しくて、偉そうに聞こえるかもしれませんが、面倒見のいい先輩です。自分だけではなくて、学年の被っている後輩たちはみんなお世話になっていました。コンビニでジュースを1本買ってもらうのも、うれしいじゃないですか。自分も後輩ができたらこういう風にしたいなというのを教えてくれた先輩です。

琴ノ若 自分の代は同期が6人いましたが、登輝たちは4人しかいなかったので、仕事の役回りも頻繁に回ってきます。うちの代では一人の負担が軽い日もあったけど、この子たちは2人ずつで回していかないといけない。1年生のときは特にきつかったと思います。だから、一緒にちゃんこ番もやっていましたよ。

豪ノ山 基本は1年生が仕事をするんですが、それを見たり手助けしてくれたりするのが2年生で、掃除の仕方やちゃんこ番から全部教えていただきました。

琴ノ若 ずっと包丁持っていたよね(笑)。

――強豪校は人数が多くて、ちゃんこ番なども大変そうです。

豪ノ山 自分らのときは全部で20人くらいでしたかね。そこまで多くもなかったんですが、寮生活でずっと一緒にいるので、普通の先輩よりも濃い関係性にはなっていると思います。

琴ノ若 稽古も私生活も、僕らが経験して下の代に教えて、彼らは彼らで経験したことをさらに下の代にまた教えていく。その循環でした。

――お二人の思い出のエピソードは何かありますか。

豪ノ山 よく、「ステーキのどん」に連れて行ってもらっていました。普段はあまり外食しないんですが、休みの日や時間があるときにメシを食わしてもらうっていうのが、遊びとしては多かったです。

琴ノ若 たしかに、メシ多かったな。

豪ノ山 年に1回、旅行もありました。普段からみんなで過ごしていますが、みんなでバイキングとか、部屋割りを決めて寝泊まりするのが楽しかったです。

琴ノ若 そういえば、寮で同じ部屋になったことはないね。前はたまに部屋替えがあったんですけど、自分は2年生からずっと3階の部屋で変わらずだったんです。

豪ノ山 キャプテンは3階というイメージでした。

琴ノ若 結局、次に登輝がキャプテンになったので、引継ぎをした感じです。

――キャプテンとして、大変なのはどんなことでしたか。

琴ノ若 下がダメなことをしたら上が怒られる、そんな役回りですよね。でも、それだけ僕らがまとめられていなかったっていうことでもあるので。なにせ登輝の下の代は人数が多かったから、目の行き届かない部分もあったよね。

豪ノ山 そうですね、自分の1つ下は、人数も多いし強かったので。自分が2年生で、大関たちが先輩としていてくれていたあの1年は本当に楽しかったです。

琴ノ若 卒業ギリギリまで怒られていたからな(笑)。でも、それが相撲界に入って自分の身になっています。

靖国神社での稽古中、土俵周りでは常に周囲に気を配る豪ノ山の姿があった(写真:筆者撮影)
靖国神社での稽古中、土俵周りでは常に周囲に気を配る豪ノ山の姿があった(写真:筆者撮影)

今後の目標は「東西の三役すべてを栄のOBで埋め尽くしたい」

――琴ノ若関は高校卒業と同時に角界へ、一方の豪ノ山関は大学まで進学しました。中央大学での4年間、大関ら先輩たちの活躍をどう見ていましたか。

豪ノ山 先輩や後輩の相撲を見て、早くプロに行きたいなと思っていました。特に先輩たちはみんな、活躍していてあこがれの存在でした。

――5年後に入ってきた豪ノ山関を、大関はどうお感じでしたか。

琴ノ若 自分も、大学相撲の第一線で豪ノ山が活躍しているのを見ていました。気風のいい相撲を取るので、入ってきたらすぐに上がるだろうなと。若い衆の頃、うちに出稽古にも来てくれて、一緒に稽古して力強さを肌で感じたので、負けじと稽古しました。お互いにね。

――お二人のこれまでの交流は。

琴ノ若 互いの高校卒業後は、ごくたまに同年代で集まる会のときに会うくらいだったので、(角界に)入ってからのほうが交流はありますかね。

豪ノ山 でも、自分が入ってすぐコロナ禍になってしまったんです。その間は会えませんでしたが、新十両を決めた頃(2022年7月)から出稽古が解禁されて、徐々にこうして巡業も再開されて。

琴ノ若 そこからのほうが、一緒にいる時間は長くなったかもしれないね。

豪ノ山 はい、年の近い栄の先輩として、話すことも多いので。

琴ノ若 嫌な先輩もいたかもしれないもんね?

豪ノ山 いや、それはちょっと、わかんないっす(苦笑)。

――お二人の仲のよさはとても伝わってきます。

豪ノ山 可愛がってもらっています。

琴ノ若 でも、場所では激しくやり合っているからね。

豪ノ山 栄の先輩たちを越えていかないと上に行けないですからね。気にしていられません。

琴ノ若 僕たちに限らず、栄のOBみんなそうなんですが、土俵の上では殺し合いのつもりだし、そこに対して全員が非情になれるんです。先輩・後輩関係なくぶつかっていって戦うので、そこがいいところであり、先輩・後輩の深い関係を築けている理由なのだろうなと思っています。

――素敵な関係性ですね。大関は、5月場所から先代であり祖父でもある「琴櫻」の襲名を予定しています。四股名が変わることへの思いは。

琴ノ若 実は、あんまり大きな思いはないんです。逆に、意識しすぎて名前負けしたり硬くなったりしたくないので、いままで通り思い切って取るのが一番。そのなかで、自分のいいところをまた見つけていくのが重要だと思っています。四股名をいただいたら、逆にもうそれは自分のものだと思って戦っていくしかないので、いままで通り、どの場所も変わらず同じ気持ちで臨むだけです。

――豪ノ山関の来場所への意気込みは。

豪ノ山 初場所は上位でしっかり跳ね返されているので、気合で負けないようにして、三役に上がりたい。負けたくないし、上を目指して頑張っていきたいです。

琴ノ若 三役が近い人がいっぱいいるからね。実力が拮抗しているなら、抜きん出る気持ちで行かないとね。

豪ノ山 そう言われているならますます気合を入れていかないと。チャンスですからね。

琴ノ若 後輩はこうして下から上がってきているし、先輩は上位で戦っているので、三役を栄のOBで染められたらいいですね。東西どちらも、土俵入りの後ろのほうは、栄の化粧まわしで埋め尽くしたいです。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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