懸念されるコロナ禍におけるいじめ問題 子供を守るために大人たちの振る舞いも見直そう
緊急事態宣言の延長も決定し、まだまだ終わりが見えない新型コロナウイルス禍。社会の不安が高まる中、教育現場ではコロナにかかわる、いじめの問題が懸念されています。子供の問題だけではなく、大人も自分自身を見直すべき問題として、あらためて「コロナいじめ」の問題を考えたいと思います。
■「コロナいじめ」は子供の問題だけでない 大人も見直すべき社会の問題
2019年度のいじめ認知件数は61万2496件で、過去最高でした。新型コロナ問題の深刻さが増した2020年8月の調査では、教員の9割が「今後いじめが増えるだろう」と懸念していました。実は、京都府教育委員会の調査によれば、2020年度1学期のいじめ件数は、前年度同期より3割減でした。しかしこの減少は、休講や分散登校が原因だと思われます。
沖縄県教委の9月の調査によれば、コロナいじめが13件発生したとしています。コロナいじめに関する大きな調査はまだ行われていないようですが、文科省は通常のいじめ以上に、新型コロナによる偏見や差別、いじめは、「断じて許されるものではありません」と強い姿勢を示しています(文科省通知5月27日)。
いじめはいけません。偏見や差別はいけません。問題は、いじめている子供は、それがいじめだとわからないということです。いじめは良いか悪いかと質問すれば、子供は「悪い」と答えます。そのように教育されているからです。ところが子供たちは、自分では正当な行為と考えていじめをしてしまうのです。
誰かをいじめたと叱られた子は、「だって、〇〇さんが〜するんだもん」と反論するでしょう。
これは、大人も同じです。偏見を持っている人は、いつも自分の偏見に気づきません。自分では正しい考え、正当な区別と信じながら、客観的に見れば人権侵害の差別を行ってしまいます。ただ不安だからという理由で、怯えながら差別をする人もいます。本人は適切な対応と信じて疑わない偏見をもとに、人権を侵害してしまうのです。
子供のいじめ問題改善のためには、大人のいじめ体質も見直さなければなりません。コロナいじめの問題は、特にそうです。自粛警察がずいぶん問題視されている今でも、 高齢者施設勤務の女性宅に「コロナばらまくな」という中傷ビラが貼られたとの報道があり(1月26日FNNプライムオンライン)、また看護師らの風評被害が3ヶ月で700件とも報道されています(2月4日読売新聞オンライン)。
いじめ加害は、悪い子だけの問題ではありません。いじめ被害は、弱い子だけの問題ではありません。すべての子供たち、そして私たちみんなの問題です。コロナが広がる中で、いじめ問題はさらに先鋭化されています。放置すれば、悲劇が起きます。しかし、コロナいじめ、コロナ偏見差別が続発する今だからこそ、私たちはそこから学び、子供たちは成長できるのかもしれません。
■なぜ子供は「コロナいじめ」をするのか
いじめる側の子供の心理には、次のようなものがあります。
満たされない権力欲(いばりたい、支配したい)、傷つきやすい自己愛(自分が中心でなければイヤ)、人間関係の不安、わがまま、社会的ルールの未学習(しつけられていない)、ストレス発散、自己嫌悪感(自分のことが嫌いだと周囲も嫌いになりやすい)、歪んだ正義感、同調への圧力。
このようないじめ衝動を持った子が、いじめを許されるいじめ許容環境に置かれ、そこにイジメのターゲットが現れると、いじめが起きます。
いじめられる子が悪いわけではありません。しかし、いじめ衝動を持った子は、相手のささいな弱点を見つけて、いじめます。方言があるからといっていじめ、標準語だといっていじめ、成績が良いからといじめ、成績が悪いからといっていじめます。
いじめられている子を守りたいと思いながら、自分がいじめられるのが怖くて、いじめる側に回る子もいます。
コロナ禍の今、ストレスをためている子供達が大勢いるでしょう。そして、コロナに関連していじめられるきっかけを持ってしまう子もいます。
コロナに感染した子だけでなく、本人や家族がPCR検査を受けた子が、バイキン扱いされることがあるでしょう。そのせいで学校行事などが中止になれば、責められることもあると思います。
家族が医療従事者であるためにいじめられる子もいれば、コロナとは無関係に休んだだけなのに、コロナだと中傷される子もいるかもしれません。校内でコロナ感染者が出たときに、誰が感染者かとみんなが探し出そうとするだけでも、当事者はひどく傷つきます。
いじめたい子がいて、いじめられやすい子がいる。さらに、コロナ感染者を排除しようとする大人社会の雰囲気が子供社会にも影響を与えれば、コロナいじめが許される環境が出来上がってしまいます。
■いじめによる被害は今だけでなく、将来にわたる
いじめは、心を深く傷つけます。客観的に見れば小さな出来事でも、心は非常に傷つきます。強いストレス、抑うつ、不安、自尊感情の低下(自信喪失)、孤独感。さらに、摂食障害、自殺念慮、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、解離性障害(自分が自分である感覚の喪失など)が生じることもあります。
現実的な問題としては、成績の低下、部活動の停止、転校、転居など望まない環境変化もあるでしょう。
学校内で誰かがコロナいじめを受ければ、次は誰が感染してもおかしくないわけですから、みんながコロナいじめに怯えることになります。実際のコロナいじめが起きなくても、コロナいじめが起きるのではないかとの不安が高まるだけで、大きなストレスでしょう。コロナいじめの被害が起きれば、家庭や社会全体のコロナストレスに加えてのいじめストレスですから、ダメージはいっそう大きくなるでしょう。
また、心の問題も、現実的な問題も、その悪影響が大人になっても続くこともあります。
いじめ被害による不登校で、希望の学校へ進学できず、人生設計が変わってしまう人もいます。大学生への調査では、かつてのいじめ被害によって、今も自信喪失や活動意欲の減退、人付き合いの消極化などが見られました。ある精神科クリニックの調査では、患者の25パーセントがいじめ被害経験者でした(ただし、もちろん多くの人がいじめ被害を乗り越え、そして以前よりさらに成長できることもあります)。
また、いじめ加害者の中には、大人になってから自分の行為の意味を知り、苦しみ続けている人もいます。
■コロナいじめから子供達を守るために
まずは、もちろん被害者保護です。いじめ被害者は、しばしば大人には何も言いません。親に心配かけたくないとか、大人に話しても何も解決しないと思って黙っていることもあります。
親には心配かけても良いと伝えましょう。お母さんが看護師だから自分がいじめられているなど、お母さんに話せないと思っている優しい子もいるでしょう。でも、子供が一人で苦しんでいる方がもっと辛いから話して欲しいと伝えましょう。
いじめ問題は簡単には解決できないでしょう。コロナ騒ぎも、いつ終わるのかわかりません。しかし、頼りない大人では、子供は話してくれません。「絶対に君を守る」という姿勢を伝えましょう。
一番良いのは、いじめの防止です。学校全体、社会全体で、コロナいじめは絶対に許さないという雰囲気を伝えましょう。
社会的距離を取ることや、消毒することは正しくても、バイキン扱いや「あっち行け!」と怒鳴ることは間違っていると教えましょう。大人自身が、手本を示しましょう。家庭の中での、感染に関する詮索、感染者を忌み嫌うような言動は、子供のコロナいじめを助長します。
親も先生も、コロナ感染者への思いやりや、医療従事者、エッセンシャルワーカーに対する感謝の思いを示しましょう。何もしなければ、コロナによるいじめや人権侵害は起きてしまいます。だから、積極的に模範的な言動をとりましょう。
人権問題としては、いじめは加害者が100パーセント悪いです。しかし、教育問題としては、いじめっ子もまた、誰かの援助を必要としている子です。いじめ被害者が傷つくのは言うまでもありませんが、ただ見ていただけの傍観者でも、傷つく子がいます。いじめに関わる全ての子を、いじめから守らなければなりません。
いじめ被害者を、ただの弱虫と見てはいけません。むしろ、いじめに耐えてきた勇気あるサバイバー、勇者として認めましょう。いじめられた可哀想な子と見すぎてしまうと、さらに自信を失ってしまうからです。うっかりすると、大人は事実の解明や、いじめっ子を罰する方向にばかりいってしまいますが、最も大切なのは被害者保護ということを忘れてはいけません。
また、いじめは悪い事ですが、コロナいじめの加害者を、ただの悪い子として見るだけでは、問題は解決しないでしょう。いじめっ子は、もしかしたら、感染への不安が高かったのかもしれません。あるいは、相手の感染予防のルール違反を指摘しようとしたのかもしれません。
もちろん、悪気がないなら良いわけではありません。いじめ行為には、毅然とした態度が必要です。ただそれでも、頭ごなしに否定するだけでは理解も反省もしないでしょう。大人社会でも、自粛警察と呼ばれる人たちは自分たちを正義と感じているでしょう。ただ否定するだけでは、社会に断絶が生まれかねません。事が起きてから人権侵害と指摘するのは簡単ですが、当事者は適切な感染予防活動と思っているケースもあるでしょう。
いじめ加害者には、チャンスを逃さず、個別に、話し合う必要があります。相手の話を聞きながら、矛盾をつきましょう。そうして、自分の行為がいじめであり、間違っていたことを理解させなければいけません。
その上で、いじめっ子が自暴自棄にならないようにしましょう。本当は良い子なのに、それなのにとても悪いことをしてしまった。だから、きちんと反省し謝罪して、行動を改めようと導く必要があるでしょう。
■コロナいじめと希望
新型コロナは、強大な敵です。大人たちも翻弄され、感染者への偏見や差別による人権侵害が起きています。こんな時こそ、希望が必要ではないでしょうか。
いじめ被害者にも、いじめ加害者にも、いじめ傍観者にも、希望が必要です。そのクラスにも、学校にも、希望が必要です。
突然の休校、学校行事も部活の大会も中止延期。子供達も苦しんできました。でも、ある高校生は言っていました。正式な大会は中止になったけれども、地域で代わりの大会を開催してくれた。努力は無駄にならないんだと学びましたと。
大人から見れば小さなことで子供は傷つき、小さなことで希望を持ちます。それは、苦しみの中の大人も同じかもしれません。今は苦しくても、希望があれば、人は我慢ができるし、経済も上向きます。いじめっ子も、いじめられっ子も、希望を失ってしまうことが最悪の事態を生むでしょう。
コロナ騒動は、体の健康や命の問題だけではなく、多くの人権問題を引き起こしています。しかしそれは、誤解を恐れずに言えば、コロナ騒動は人権を考える絶好の教材なのかもしれません。そして、希望は悲しみと苦しみの中から生まれます。
SKE48の福士奈央さんは、新型コロナに感染しました。自分が仕事を休むだけでなく、グループの仕事も中止になったものもありました。けれども、病気が治り仕事に復帰すると、たくさんのスタッフ、メンバーが「おかえり」と温かく迎えてくれたそうです。コロナ感染を通して、自分はみんなに支えられていると感じられたと、福士さんは語っています(日本テレビ「new szero」1月26日)。
コロナ禍で、悲劇も生まれれば、希望も生まれます。新型コロナは大変だったけれども、私たちは思いやりと希望を失わなかったと、次の世代の子供たちにも伝えていきたいと思います。
<新型コロナウイルス感染症に関連したいじめを考えるマンガ教材:東京都教育委員会>
<「感染したら、いじめられるの?」――不安を抱える子供たちへ【#コロナとどう暮らす】>
【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です。】