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バルニエEU交渉官の発言と、バックストップに期限をもたせる新提案:ブレグジットとイギリスの立場

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
ジョンソン首相の委任を受けてブリュッセル入りするデヴィッド・フロスト英主席交渉官(写真:ロイター/アフロ)

バルニエ氏の率直な発言

ミシェル・バルニエEU主席交渉官は、10月5日(土)に、『ル・モンド』紙が主催する「ル・モンド・フェスティバル」のイベントに登場して、ブレグジット問題について語った

『ル・モンド』の論説委員のシルヴィ・カウフマンと、英『ガーディアン』のジョン・ヘンリーと3人の対話だった。

バルニエ氏(中央)を囲んだカンファレンスの様子。ル・モンドのホームページより
バルニエ氏(中央)を囲んだカンファレンスの様子。ル・モンドのホームページより

バルニエ氏は、言葉を選びながら語った。

先日、英国の代表団を受け入れた。彼らはとても有能でプロフェッショナルな人たちだ。ただ、彼らの言うことはあくまで英国政府の主張である。驚くことではないのだが。でも合意とは双方向でするものである。

合意は可能だが、とても難しい。私は27カ国の首脳と議会の委任を受けているが、もし彼らが変更をしないのなら、このままでは我々はどうやって先に進めていいのか、私にはわからない。

しかし、私は合意したいと望んでいる。我々は再度、こちらの提案を説明した。特にアイルランドに関しては、大きな問題が2つあるーーと。

2つの問題とは、国境管理の問題と、北アイルランド自治政府に与える拒否権の問題だ。

イギリスは連帯よりも孤立を選んだ

同紙によると、「双方の合意」は既にメイ前首相と昨年の11月に行ったと何度も語り、「この条約(合意)が、もし英国が秩序だった離脱をしたいのなら、唯一の可能性だ」と言ったという。

しかし、もしジョンソン首相側がアイルランドの問題に関するヨーロッパの提案を聞くことに同意した場合は、「私は合意に至るために、向こう数日間引き続き交渉を行う用意がある」そうだ。

そしてもし交渉が再び失敗したら、「これらの交渉は、最初から負けー負けだったことになる」。

「私たちは、合意なき離脱の準備はできている。たとえ私たちがそれを望んでいないとしても。もしそうなったら、それはEUの選択ではなく、イギリスの選択である」

「合意なき離脱になろうとなかろうと、これは話の終わりではない。英国との将来の関係全体は、まだ定義されていない」

ブレグジット問題から引き出せる教訓について、バルニエ氏は、ポピュリズムの温床となる「社会的怒り」に答えること、市民にヨーロッパについて話すこと、そして将来的に一つに統一されたヨーロッパを訴えることを勧めることだーーという。

また彼は「英国は連帯よりも孤立を決めた」と表現した。

「現在の世界の進化に伴って、欧州の国々は2050年には、個々には世界の大国のテーブルにいないだろう。もし私たちが尊重されて、新しい世界秩序に参加したいのならば、テーブルに着かなくてはならない。そしてそこにたどり着くための唯一の方法は、27カ国がまとまることである」と繰り返したという。

交渉に応じない週末

このようにバルニエ氏がイベントに参加しているように、EU側は週末の話し合いを断った。イギリスからは、首席交渉担当者のデヴィッド・フロストと十数人のチームが、ブリュッセル入りしている。

英『ガーディアン』の報道によると、10月4日の金曜日、ミシェル・バルニエEU主席交渉官は「根本的にポジションを修正する」必要があるといって、週末の集中的な話し合いに応じなかった。フロスト英首席交渉官が、自分は首相から全権委任されていると訴えても聞き入れなかったという。

欧州委員会の広報担当者は、「月曜日に(英国側担当者と)再会して、彼らに提案を詳細に提示する機会を与えます」と語り、提案は「合意を締結するための基礎を提供するものではないです」と付け加えたという。

EU側は、英国では非難の応酬(blame game)をしている危険性を承知していて、この対応が「非妥協的だ」と非難される恐れがあるとわかっているという。

EU側の提案とは

バルニエ交渉官が言った「EU側からの提案」が気になる。一体何だろう。

今まで何度も主張されている、メイ前首相との合意内容のことだろうか。でもそれでは交渉にならないはずだ。英議会で3度も否決されているのだから。

この部分に関する詳細な情報は、英仏日の3つの言語で探したが、なかなか出てこない。

唯一「これは」と思ったのは、ブルームバーグの情報で、EU側はバックストップに期限を設ける妥協を考えているーーというものだ。これは新しい提案だ。この場合は北アイルランド自治政府の意向が重要になる。ただ、アイルランド側が譲歩しないかもしれないという。

もしかしたらこの線かもしれない。EUがジョンソン首相に受け入れを迫っているのは、この話かもしれない。今までEU側は、期限をもたせることを拒否してきたのだ。

北アイルランド自治政府については、イギリス側が主張するように、自治政府に選択権を与える可能性はゼロではないのではないか。ただし4年は短すぎるので、8年とか10−12年とか長いスパンで考える、「拒否権」というダイレクトな措置ではなく、拒否の意向を踏まえたら対処する措置を用意する等、方法はないわけではないと思う。

ジョンソン首相はEU側の「北アイルランドを関税同盟に残す」ことは期限付きで妥協、EU側はイギリス側が言うように「北アイルランド自治政府に一定の発言権を与える」ことを妥協ーーという形にもっていくことは不可能ではないのではないか。

合意には妥協しかない

妥協せずこれ以上引き伸ばしても、泥沼にはまるだけではないのだろうか。

たとえ英議会のいうとおり離脱の延長をしても、なにか実りのある結果が得られる可能性は低い。

もっとも、政治の不安定、経済の停滞という実害をこうむるのはイギリスのほうで、EUのほうは特に大きな実害はないかもしれない。永遠に根比べをすれば、おそらく勝つのはEU側だろう。

ジョンソン首相は、EU各国の首脳と会って話したがっているが、電話会談に応じるだけで、メルケル首相もマクロン大統領も、会おうとしない。オランダやデンマークの首相にも、電話で説得を試みているという。マクロン大統領などは「バルニエ氏と話してほしい」と突き放したそうだ。

筆者は相変わらず、合意に至るのではないかという気がしている。ジョンソン首相は「合意なき離脱の強行」もできないわけではないが、もし妥協するとしたら、それはEUとの関係を考えてではなく、連合王国の解体を恐れてのことだろう。

5日土曜日、スコットランドの首都エディンバラでは、親EUと言われる独立派の大規模デモが起きた。北アイルランドにこだわるあまり、スコットランドの危うさが増している。連合王国の命運は、今この時にかかっているのかもしれない。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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