「金正恩を裁け!」 狭まる北朝鮮人権非難国際包囲網
インターネット上で金正恩委員長を国際刑事裁判所(ICC)に回付するよう国連安保理に求める請願運動が展開されている。ICCは個人の国際犯罪を裁く常設の国際裁判所である。
国連安保理への請願運動を展開しているのは、スイス・ジュネーブに本部を置く非政府機構「国連ウォッチ」で、このNGOは金委員長をICCに回付する理由について政治犯収容所に多くの人が送り込まれていること、拷問と飢餓で亡くなっていることなどを指摘し、無辜の被害者の人権のため国連安保理が行動するよう促している。
(参考資料:国連安保理は金正恩委員長を制裁対象者に指定できるか)
「国連ウォッチ」は北朝鮮で行われている人権蹂躙の深刻性の規模は「世界で類を見ない酷いレベルにある」と結論づけた2014年の国連人権調査委員会(COI)の報告書について喚起しているが、COIの報告書は「北朝鮮の人権蹂躙が国家政策に根拠を置いた反人道的犯罪にあたり、その責任は北朝鮮の全ての機関と最高指導者の金正恩委員長にも及ぶ」と結論づけている。
「国連ウォッチ」は1か月前に、世界的インターネットオンライン請願サイトである「チェインジ・ドットアルジ」を通じて今回の請願キャンペーンを展開しているが、国連安保理に対して「北朝鮮の人権蹂躙にこれ以上沈黙すべきではない」として、金委員長をICCに回付し、「苦痛を受けている北朝鮮の人々を保護すべきである」と要請している。
金委員長個人をICCに回付する声が上がったのは2014年2月からで、カンボジアのポルポト政権の人権侵害を調査したマイケル・ガービ前COI委員長が最終報告書で「北朝鮮の人権侵害は人類普遍的価値に反する人道犯罪である」と規定したうえで「金委員長もその責任対象から例外でない」と発言したことからクローズアップされ始めた。ICCはこれまで今後民主共和国、ラワンダ、中央アフリカ、スーダンなどアフリカの人種提訴や虐殺で責任者を起訴してきた。
北朝鮮の人権問題では国連人権理事会が2014年から今年3月まで3年連続で安保理が北朝鮮の人権状況をICCに回付することを求める決議案を採択しており、国連総会も2014年、2015年と連続して同様の決議案を採択している。
昨年の国連総会での決議案は賛成119票、反対19票、棄権48票で可決されている。反対票を投じた19か国はアルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、ブルンジ、中国、キューバ、エジプト、イラン、ラオス、ミャンマー、オマーン、ロシア、スーダン、シリア、ウズベキスタン、ベネズエラ、ベトナム、ジンバブウエ、北朝鮮。
今年も近く開かれる国連総会第3委員会で日本や欧州連合(EU)が主導する北朝鮮人権非難決議案が可決されれば、12月の国連総会に上程され、採択される見込みだ。今年の決議案の草案にも昨年同様に北朝鮮の人権状況をICCに回付し、その責任者を処罰することを安保理に付託する内容が含まれているようだ。
責任者の名前や制裁対象者については明らかにされてないが、2010年に任命され、今年7月に任期満了となったマルズキ・ダルスマン北朝鮮人権問題担当国連特別報告官が今年1月22日、「北朝鮮の人権侵害では金正恩委員長に対する刑事責任追及が必要である」と語っていたことや米国が今年7月に金委員長を人権抑圧者として制裁対象に指定していたことから金委員長が含まれるのは確実とみられている。
しかし、これまで国連総会で決議案が採択されても、中露両国の反対にあって安保理では北朝鮮の人権状況をICCに回付する問題を含め北朝鮮政府に人権侵害の責任を問うことについて具体的に討議されることはなかった。
そうしたことから昨年11月から北朝鮮人権NGOなどを中心にICC提訴の代案として国連特別裁判所の設置などを求めて声が上がっている。安保理の決議は必要とせず、国連総会の決議による設置が可能となるからだ。特別裁判所は被告人である北朝鮮当局者が欠席しても、欠席裁判が可能で、実名を挙げて裁くことが可能である。
北朝鮮はこうした動きに敏感に反発し、北朝鮮外務省は7日、「ICCに回付にすべきは米国である」とするスポークスマン談話を発表している。