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不気味な北朝鮮の沈黙 金総書記も10日間、姿を現さず!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
初めて国家安全保障協議会を開いた金正恩総書記(朝鮮中央通信)

 韓国の「聯合通信」は昨日、「北朝鮮がトランプ前大統領の大統領当選勝利に1週間も沈黙」の見出しを掲げ、対外メディアの「朝鮮中央通信」をはじめ党機関紙の「労働新聞」も「朝鮮中央テレビ」もトランプ氏の当選に関するニュースを一切報じていない、と伝えていたが、その理由について筆者はすでに8日付のこの欄で説明している。

(参考資料:金総書記が「トランプ当選」に祝電を送らない理由 「ハムレットの心境」か!)

 前回の大統領選挙(2020年)では2カ月間も沈黙し、バイデン政権が発足した翌年(2021年)の1月23日になって初めて対外宣伝媒体を通じて知らせていたことから10日間の沈黙は決し異例なことではない。

 しかし、金正恩(キム・ジョンウン)総書記とトランプ次期大統領は2度も首脳会談を行った間柄でもあり、2度目のハノイ会談決裂(2019年2月)以後も何度も親書の交換が行われ、トランプ氏が2020年10月に新型コロナウイルスに感染した時には金総書記が「必ず打ち勝つと信じている」との見舞いの電報を送っていたことや北朝鮮が「トランプ当選」を密かに待望していたことから誰もが「今回は素早い反応があるのでは」と思うのは至極当然のことである。しかし、14日午前11時現在、北朝鮮からは何の反応もない。

 不気味なのは金総書記がこの夏、水害に見舞われた平安北道の被災地の復旧現場を11月4日に視察して以来、公式活動を控えていることだ。

 金総書記の10月の動静をみると、3日に特殊作戦部隊、5日に地方工業工場建設現場、6日に砲兵軍官学校、7日に国防総合大学、10日に党創建79周年記念行事、14日に国防安全保障協議会、17日に人民軍第2軍団指揮部、21日に慈江道の被害復旧建設現場、22日に戦略ミサイル基地などを訪れ、そして31日に大陸間弾道ミサイル「火星19」の発射に立ち会っていた。公式活動は延べ10回に上るが、10日間も姿を見せなかったことは一度もなかった。

 筆者は前回、「金総書記が『トランプ当選』に祝電を送らない理由 『ハムレットの心境か!』の見出しの記事で「仮にこのまま祝電も談話もなく、また外務省も反応せず、労働新聞など北朝鮮のメディアまでもが大統領選挙の結果を黙殺し続けるならば、金総書記の苦悩の証と言えなくもない」と書いたが、要は、金総書記は核兵器の小型・軽量化のための核実験やSLBM(潜水艦発射弾頭ミサイル)発射実験など来年が最終年となる「国防発展5か年計画」の中でまだ達成していない計画をこのまま実行すべきかどうかを悩んでいるのではないだろうか。

 来年1月25日に北朝鮮に融和的で、個人的に親交のあるトランプ政権が正式に発足すれば、核実験やミサイル発射などはやりにくい。しかし、交渉力を高めるためにも、またウクライナ、中東、中国重視の米国に顔を向かせるためにも軍事力の誇示も必要である。

 従って、やるとすれば、駆け込み的にバイデン政権の間に、即ち来年1月25日の米大統領就任式までに決行しなければならない。しかし、やった場合のトランプ次期大統領の対応に不安が募る。「俺の当選に水を差した」と非難されるかもしれない。

 一般的には知られていないが、トランプ大統領と金総書記は電話番号を交換していた。ホワイトハウスと党執務室の電話番号の交換ならば、トランプ大統領の退任で用をなさないが、仮に個人用の番号を交換していたならば、連絡を取り合っている可能性もないとは言えない。

 仮にこのホットラインを通じて金総書記が祝辞を伝えていれば、北朝鮮は静観したまま来年の大統領就任式を迎えることになる。

 しかし、大統領選挙期間中、それも先月25日にも人気ポッドキャスト司会者とのインタビューで「私は誰よりも金正恩のことをよく知っている」と言いふらしていたトランプ次期大統領が金総書記からの電話を伏せるはずはなく、その可能性は低いとみるべきであろう。

 北朝鮮の沈黙がいつまで続くのか、北朝鮮のウクライナ戦への派兵への沈黙と合わせて大いに気になる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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