【解説】学校における働き方改革を強力に進める!財務省・文科省「大臣合意」の最重要ポイント
文科省vs財務省と報道陣が騒いでいた令和7年度予算ですが、大臣折衝の結果、「教師を取り巻く環境整備に関する合意」(以下、「大臣合意」)が締結されました。
この「大臣合意」のポイントを、教職調整額の2030(令和12)年度までの10%引き上げ、2026(令和8)年度からの中学校35人学級とする報道が目立ちます。
しかし実は教育関係者の間では「学校における働き方改革を強力に進める」という内容がもっとも注目されているのです。
教育財政の研究者として、教員不足をなくすために文科省・財務省や主要政党と意見交換を重ねてきたロビイストとして、「大臣合意」の最重要ポイントがなぜ「学校における働き方改革を強力に進める」であるのか、解説します。
1.教員の残業代(財務省)vs教職調整額(文科省)という争点は、教職調整額の引き上げで決着
文科省vs財務省と報道が騒いでいたのは、教員の残業代(時間外勤務手当)をめぐって、異なる案を示していたからです。
財務省が教員の残業代(時間外勤務手当)に移行せよという案を、11月11日の財政制度審議会で示しました。
文部科学省は教員の残業代は支給せず、教員の本給に加えて支給される教職調整額の一律引き上げを、8月の中央教育審議会答申及び令和7年度概算要求で求めていました。
「大臣合意」では6つの合意事項が示されましたが、そのトップに教職調整額の引き上げが挙げられました。
1.教職調整額の率を令和12年度までに10%への引上げを行うこととし、時間外在校等時間の削減を条件付けすることなく、来年度に5%とし、以降確実に引き上げる。このため、給特法改正案を次期通常国会に提出する。
結局は文科省の勝ちじゃないか、教員の残業代(時間外勤務手当)を求めてこられたみなさんはがっかりされたことと思います。
しかし、財務省案には、将来的な時間外勤務手当実現の可能性にもつながるかもしれない「学校の働き方改革」の提案が示されていました。
それが「大臣合意」に反映されているのです。
2.学校における働き方改革を強力に進める!いったいどんな改革が「大臣合意」に?
財務省も学校の働き方改革にコミット
授業時数の見直し、保護者対応などの縮減、5年で月30時間程度に教員の残業時間縮減など9項目の「大臣合意」
私自身は「大臣合意」も、そこに至るまでの動きも、文科省vs財務省という対立構図でとらえること自体に疑問を感じてきました。
なぜなら文科省も財務省も、学校の働き方改革を進め、残業時間(時間外在校等時間)を減らす、という改革を必ず推進しなければならない、という強い姿勢は共通していたからです。
私が「大臣合意」の最重要ポイントとして注目している条項は次のように書かれています。
5.学校における働き方改革を強力に進めるため、学校・教員の業務見直しの厳格化及び保護者からの電話対応を含む外部対応・事務作業等の更なる縮減・首長部局や地域への移行や部活動の地域展開等による本来業務以外の時間の抜本的縮減、勤務時間管理の徹底、教育委員会ごとの業務量管理計画の策定、在校等時間の「見える化」、校務DXの推進、授業時数の見直し、長期休暇を取得できる環境整備などを行う。
こうした取組を進めることを通じて、将来的に、教師の平均時間外在校等時間を月20時間程度に縮減することを目指して、まずは、今後5年間で(令和11年度までに)、平均の時間外在校等時間を約3割縮減し、月30時間程度に縮減することを目標とする。
授業時数の見直し、保護者対応などの縮減、5年で月30時間程度に教員の残業時間縮減など9項目にわたって「大臣合意」が具体的な取り組みを列挙しています。
また、以下の条項では令和9年度以降に「働き方改革」の状況を文科省・財務省で「確認」すると明記されています。
2.中間段階(令和9年度以降)で、文部科学省・財務省両省で「働き方改革」や財源確保の状況を確認しながら、その後の教職調整額の引上げ方やメリハリ付け、その他のより有効な手段なども含めて真摯に検討・措置する。
すなわち財務省が、学校の働き方改革に具体的にコミットし続ける方針が明記されたのです。
文科行政に財務省が介入するのか、批判をされる方もおられるかもしれません。
しかし、財務省は予算をつかさどる省庁です。
文部科学省が財務省とのコミュニケーションを丁寧に行うことで、学校の働き方改革に必要な人材配置や予算確保が進展する可能性もあるという前向きな捉え方も可能です。
3.国・自治体をあげた取り組みが必要
教育委員会ごとの業務量管理計画の策定、首長部局や地域への業務移行は必須
「令和9年度以降の確認」までに問われる文科省・自治体の実行力とEBPM推進力
「大臣合意」により学校の働き方改革は新たなステージに入りました。
文部科学省・財務省両省の関与により、「学校における働き方改革」が強力に進められていくのです。
「大臣合意」には、教育委員会ごとの業務量管理計画の策定も明記されています。
「令和9年度以降の確認」では、市町村・都道府県ごとに、教員の残業時間がどれくらい減ったか減っていないかについて、なんらかの形で「見える化」が行われると予想しています。
また財務省が強力に求めている、学校・教員が行うべきでない業務の首長部局や地域への移行、についても同様の措置が取られる可能性も高いです。
教員の残業時間が減っていない自治体の存在が明らかとなるようなランキング的な手法も取られるかもしれません。
いままで子どもたちのテストスコアの都道府県・市町村ランキングを競わせるような地方自治体も少なくなく、学校に常勤専門職・支援員等も確保してこなかった自治体が当たり前の状況の中、学校の教員の負担はどんどん重くなってきました。
教育委員会だけの責任ではなく、子どもたちの教育に十分な予算・人員を確保してこなかった自治体や地方議会の責任でもあるのです。
学校・教員の負担を重くしてきた自治体の大人たちこそ、学校における働き方改革を全力で頑張りなさい。
「学校における働き方改革を強力に進める」、「大臣合意」が地方自治体に発するメッセージはこのようなものだと捉えています。
どのようなアプローチが「学校の働き方改革」に有効なのか、文科省・自治体の実行力とEBPM推進力も厳しく問われることになるでしょう。
4.教員からの提案によるボトムアップ型の学校の働き方改革も重要
教職員間ハラスメント・保護者対応の常設相談窓口も
平成レトロな校長評価も改善、学校運営協議会の役割に「学校の働き方改革」を
最後に私自身も、「学校における働き方改革を強力に進める」ためにいくつかの提言をしておきたいと思います。
まず教員からの提案によるボトムアップ型の学校の働き方改革も大切だということです。
日本の教員はあまりにも声を聞かれない存在です。
こども基本法に規定される、子どもの意見表明や参画の権利は、学校の先生方も大切に思い行動してくださる方も増えています。
いっぽうで、先生方の意見や提案について、教育改革を主導する文部科学省や都道府県・市町村教育委員会は聞いてきたでしょうか?
「教員にメンタル疾患による休職が多いのは、教職員間ハラスメントや保護者対応で異常なストレス環境に置かれているから。ハラスメント対策をなんとかしてほしい」
ある教員の声です。
実際、東京都では、ハラスメント相談受付(都内公立学校に勤務する教職員専用)を常設しています。
また、保護者対応や問題行動対応、教員の不適切指導に悩んだときに、校長先生が早期に(あるいは課題発生予防のためにも)相談できる、TEPRO学校法律相談デスク、も常設されています。
こうした、学校でのハラスメントを改善したり、課題対応を支える仕組みの整備も、「学校の働き方改革」だけでなく、教員の離職休職予防のためにも大切なものです。
また、すでに阿部俊子文部科学大臣も明言しておられますが、「働き方改革」を校長の人事評価に反映させる改革も進んでいくことも大切です(日本経済新聞・2024年11月15日報道)。
同時に、自己評価だけの校長評価ではなく、教職員間ハラスメントの予防・改善に具体的に取り組んでいるか、校長に教員が相談しやすいか、相談した事柄に対応できているか、などの教員からの評価も反映できる手法の開発なども必要かもしれません。
これは、民間企業の管理職育成で効果をあげている360度評価(多面的評価)と言われる手法です。
平成レトロな校長評価も、令和でアップデートしていけると良いですね。
私は自分の経験から、「学校の働き方改革」には保護者・地域の応援が不可欠であることを理解しています。
土日の部活動をなぜしないのか、運動会が午前だけの実施になったのはおかしい、そんな理不尽な要求を未だにしてくる保護者・住民もいるのです。
学校運営協議会の役割に「学校の働き方改革」を位置づけることで、そこに参加する保護者・住民たちがまず、どうしたら先生方の負担を減らせるのか、を考え、学校の取り組みを応援できます。
また、学校運営協議会の保護者・住民から、他の保護者・住民へも「学校の働き方改革」への理解を広げていくことができます。
あくまで私の意見です。
子どもたちのために日々、頑張ってくださっている先生方からの「こうすると働き方改革もっとうまくいく」、「この業務は減らしてほしい」を自治体が聞き、できることから実現していくことが、実効性の高い働き方改革にとって一番大切だと思います。
子どもたちのために、教員不足をなくそう。
子どもたちも先生も幸せな学校になろう。
私も「学校の働き方改革」を強力に応援します。