「忘年会って本当に必要なの?」 この素朴な疑問に答えてみる
■ 忘年会って必要?
「忘年会って、本当に必要なんだろうか?」
あるクライアント企業の経営者から、珍しい相談を受けた。
年の瀬となり、すでに忘年会は計画されているが、毎年この時期に「忘年会の必要性」について考える、と言う。
「どうしてそのように思われたんですか」
「素朴な疑問だよ。私は社長だから、どちらでもいい。社員はどう思ってるのか」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成するコンサルタントだ。忘年会もいいが、業績や資金繰りなど、もっと別の相談事があるだろう。そう突っ込みたくなるのをガマンして、私なりに考えてみた。
忘年会の必要性か……。
考えたこともない。
だから、思わず、
「ほとんどの会社でやってるでしょうから、やればいいんじゃないですか」
と答えそうになった。しかしすぐに躊躇した。
忘年会は、すでに日本の慣習として定着している。しかし、その「前提」を社長は疑っている。それならロジカルシンキング(論理思考)よりも、ラテラルシンキング(水平思考)で考えるべきか。
理屈で考えられないのだから、意外と難題だなと思った。業績アップの相談のほうが、よほど簡単だ。
■ 働き方改革時代に忘年会は?
たしかに、世の中の忘年会すべてが必要かと問われれば、そうではないはずだ。当社でも部署ごとに任せてあり、忘年会をする部署もあれば、やらないところもある。忘年会はやらないが、新年会はやる、というチームもある。
日本の企業、約350万社、すべてがやる必要があるとも思わないし、反対に、すべての企業が忘年会をやる必要がないとも思わない。
過去、いろいろな調査機関が「忘年会の必要性」について調査している。
それらを見てみると、「必要だと思う」という肯定派、「必要だと思わない」という否定派、どちらの意見も五分五分。肯定派54%、否定派46%(ORICON STYLEで緊急調査した『“社内”忘年会 必要か否か?』の結果から)といったように、いつも結果は拮抗している。
若い人のほうが否定的かというとそうでもなく、役職者のほうが必要性を感じているかというとそうでもない。いろいろだ。
ただ、ハッキリしていることがある。
それは、年賀状やお歳暮と異なり、個人の判断では決められない、ということ。
「私は今年から年賀状を出しません」と宣言できても、「私は忘年会の必要性を感じられないので、今年から出席しません」という言い分は、常識的に通らない。
同調圧力により、急な仕事とか、体調不良とか、特段の用事がない限り、欠席することは難しいだろう。
「うちの社員は、100%出席する。若い人も楽しそうに参加してるよ」
先述した社長が言う。
「だけど働き方改革の時代だ。いろいろなことに疑問を持ちたいと思ってる」
■ なくても困らないもの
私の考えはシンプルだ。「片付け」の基本に習い、
「あったらあったでいいが、なくても困らないもの」
は、まずなくす。
何事もなくしてから考えればいいのだ。工場設備やオフィス家具のように、有形のモノなら、なくすのに勇気がいるだろう。しかし会議や資料、社内イベントなどの無形のモノはなくしてから考えればいい、と思っている。
「じゃあ、忘年会はいったんなくしてから考えればいい、ということか」
「いや、そうとは限りません」
「え」
「例外があります」
人と関係を構築・維持するためのモノは、むやみになくすべきではない。挨拶や面談、朝礼、夕礼、サンキューカード、誕生会、懇親会など……。
なくしてもすぐに影響はないだろうが、少しずつ人間関係がギスギスしていく。組織風土に亀裂が入っていく。
「ビタミンとかミネラルのようなものです。不足すると、徐々に調子が悪くなっていきます」
「会社を起ち上げたころは、誕生会や懇親会など、やってなかった」
「会社が若かったからですよ。人間と同じように、若いころはご飯と肉だけ食べててもよかった」
「そうかもしれんな」
社長も私も50歳を過ぎている。健康のために、毎日の食事には気を遣っているし、サプリで足りない栄養を補給している。
「働き方改革だからといって、何でもかんでもなくしてしまってはダメだな」
「会社の意向で企画できるイベントですから、うまく利用しませんか」
私はここで提案した。
この会社は、それぞれの部署では日ごろからランチ会や飲み会を、積極的にやっている。風土は良好だ。しかし部署間の連携がイマイチなのが残念なところ。営業部と生産管理部にいたっては、強固な連携が必要なのに、あまり仲がよくない。
「2つの部署で忘年会をしろと?」
「そうです。営業部と生産管理部、総務部と情報システム部とか。20人以内に参加者を抑えれば、それなりに交流ができますよ」
「今年はムリだが、来年からそうするかァ。毎年やれば、いずれ効果が出てくるかもしれん」
■ 忘年会とエンゲージメント
昨今、企業の風土を高めるうえで「エンゲージメント」という用語がよく使われる。エンゲージメントとは「絆」とか「愛着心」という意味合いだ。
エンゲージメントが高い社員が多い企業ほど、社内の雰囲気はよくなり、反対にエンゲージメントが低い社員が多い企業ほど、雰囲気は悪くなる。
当然、組織風土がいい企業の社員ほど忘年会は必要だと言うし、風土の悪い企業の社員ほど、忘年会など意味がないと訴える。社歴や性別など関係がない。
なら、社員の言い分を聞けばいいのかというと、いや、それは逆だ。
エンゲージメントが低い組織ほど、相互交流する場が必要だからだ。だからこそ、あまりに仲が悪い組織ならともかく、そうでもないなら、あえて忘年会はやったほうがいい。
そのときに気を付けるべきことは、座る位置だ。ふだんあまり交流がない人をあえて隣同士にしたり、その近くに気遣いができる同僚や先輩を配置したり。
適度に席替えをするなど、全体の雰囲気を考え、円滑なコミュニケーションができるよう配慮するのだ。
1回の忘年会で組織の空気がよくなるわけではないが、このような季節行事を使わない手はない。
個人が企画するのではなく、組織で企画するものだから、忘年会はひとつの社内イベントと受け止め、目的を明確に決めて遂行すると効果がある。
もちろん、上司の自慢話や、過去の武勇伝を聞かされるだけの忘年会なら、やらないほうがいいだろう。