「あなたの番です」最終話の視聴率が急増したのは当然か?
「あな番」最終話の視聴率急増はなぜか?
9月8日に最終話を迎えた日本テレビのドラマ「あなたの番です」。2クールの挑戦が見事に功を奏し、視聴率は19.4%となった(関東圏のデータ)。直前回の第19話が12.3%だったので、7%も上がったことになる。謎が謎を呼び、ネットでは視聴者が「考察」を披露しあって大いに盛り上がった結果だが、それにしても7%も上がるのは珍しい。「3年A組」が最終話15.4%だったので、それを大きく上回っている。8日は台風15号が関東を直撃し、外出していた人が少なかったことが大きいと言われた。実際、19話のタイムシフト視聴率を見ると合点がいく。
ビデオリサーチは放送後9日程度でタイムシフト視聴率を発表している。「8月26日〜9月1日」のデータによると、上のような数値だった。タイムシフト視聴率が8.3%で、総合視聴率(リアルタイム+タイムシフトから重複分を引いた数値)では19.0%。なるほど、確かに直前回をタイムシフトで見ていた人が、台風で家にいるし最終回はリアルタイムで見よう、となだれ込めば最終話の視聴率になるというわけだ。
ところが、今週になってビデオリサーチ社が発表した最終話のタイムシフト視聴率を見ると、よくわからなくなった。
19話でタイムシフト視聴をした人がこぞって最終話をリアルタイム視聴したのなら、最終話のタイムシフト視聴はガクンと減りそうなものだ。だが最終話ではリアルタイムとともにタイムシフト視聴者も増えている。さらに総合視聴率、つまりリアルタイムであれ録画であれ最終話を見た人が25.0%にまで膨らんでいるのだ。
視聴率の内訳を、19話から最終話でどう動いたかまでもう少し調べたくなった。そこで、調査会社であるインテージ社に頼んで、彼らが持つi-SSPという調査パネルのデータを出してもらった。このデータは人びとのあらゆるメディア行動を把握するもので、テレビ視聴についても細かに分析することが可能だ。
まずは「あなたの番です」をタイムシフト視聴した人が、リアルタイム視聴にどれくらい移行したかをグラフにしてもらったのがこれだ。
ある回をタイムシフト視聴した人が、翌週の回でリアルタイム視聴した数が示されている。これを見れば19話でタイムシフト視聴した人が最終話でリアルタイム視聴に移行した数が格段に多いことがわかる。台風効果、最終回効果だろう。だがよくよく見ると、リアルタイムへの移行は毎回ある程度起こっており、最終話の視聴率がこれだけで上がったかどうかははっきりしない。
最終話をリアルタイムで見た人は19話をどう見たか?
そこで今度は、最終話でリアルタイム視聴した人が、19話をどう見たかの数値を出してもらった。まず、両方ともリアルタイム視聴した人がどれくらいいたか。
最終話をリアルタイムで見た人を100とすると、その中で19話もリアルタイムで見た人は40.9%となった。意外に少なくないだろうか?あの怒涛の展開、毎回何が起こるかハラハラするドラマはリアルタイムで毎回見たくなりそうなものだが、クライマックスとなる最後の2回を両方続けてみた人は4割に過ぎない。残りの6割は19話をどう見たのだろうか?それを示したのがこの図だ。
わかりにくいと思うので、じっくり解説したい。まず最終話をリアルタイムで見た人のうち、19話をタイムシフトで見た人は17.1%だった。これも意外に少ないと思う。
さらに、最終話をリアルタイムで見た人の中で、19話をリアルタイムでもタイムシフトでも見た人は3.0%。これは二つの円の重複部分にあたる。
そうすると、残りは100-40.9-17.1+3.0=45.0となる。これはつまり、最終話をリアルタイムで見た人のうち、45.0%は19話をリアルタイムでもタイムシフトでも見てない、つまりまったく見ていない人が45%いた、ということだ。
なんと、びっくりだ!
あの、毎回すごい勢いで様々な事件が起こり、さて真犯人は誰かというドラマの最終回を見るのに、直前の回を全く見ていない人が半分近くもいるなんて!毎週欠かさず見てきた熱烈な視聴者のひとりとして、19話を見ないで最終話だけ見て面白いの?と言いたくなる!
もちろん、その中には19話は見てないがそれまで少しずつは見ていた、という人もいるだろう。だがそれにしても、45%というのは衝撃だった。1話完結ものでなく、続けて見ないとついていけないと思っていたのだが。
視聴率を高めたのは「熱意」と「熱」
これもまた台風のおかげだ、という声もあるだろう。確かにこの日は、視聴率が全体に高かった。家に縛り付けられ、なんとなく話題だから「あなたの番です」ってのを見るか、と消極的選択をした人も多かったにちがいない。
だが筆者はここで思うのが、最終回だけでも見てもらう努力というか仕組みというか、張り巡らせていたことだ。まず直前の一週間、とくに金曜日土曜日は様々な番組に主要キャストの田中圭、西野七瀬、横浜流星が出て番宣をしていた。今が旬の彼らが呼びかければ効果は絶大だ。
そしてそれ意外に、「まとめ」的なコンテンツをあちこちで展開していた。YouTubeに置かれた「あな番まとめ動画」では、まだ解明されていない4つの謎を解説していた。なんとナレーターは山寺宏一。本編には出てこない豪華なナレーターを起用することで謎を丁寧に紹介する。それを見れば、過去回を見なくても最終回を見ることができただろう。
さらには、前に筆者が書いた「考察」を披露するYouTuberたちも、ここぞとばかりに力を込めて考察を繰り広げていた。
「あなたの番です」で盛り上がる「考察」という新しいドラマの楽しみ方(6月28日:Yahoo!ニュース)
こうしたネット上の公式動画やファン動画が一体となって最終話に向けて盛り上げた。
そしてまた、これらを拡散させる莫大な数のツイートも影響力を発揮する。
例えば最終話当日のこの公式アカウントのツイートは1.5万もリツイートされ、動画は130万回も再生されている。
ツイッターの影響を軽く見る人もいるが、リツイートされるとそれぞれのアカウントのフォロワー数の分だけリーチする可能性がある。1.5万のリツイートはその数十万〜数百万倍の影響力を持つのだ。
作り手の「最終回だけでも見て欲しい」という熱意、それを形にしたまとめ動画の力、さらにファンによる考察動画、そうしたコンテンツを拡散するファンたちの熱。熱が増幅して「見てなかった人たち」まで巻き込み、大きな視聴率アップにつながったのだろう。
見てもらうための努力。それをネット上で形にできるようになった。「あなたの番です」ではたまたまそれが視聴率に露わになった。だが世帯視聴率に明らかに出なくても、いまは個人視聴率やコア視聴率など各局が独自の指標で結果を見ている。「努力」や「熱意」の結果が数字で確認できる時代だ。もちろんファンの盛り上がりもそうした数字に影響するはずだ。作り手とファンが一体となってドラマを盛り上げることができるようになった。「あなたの番です」はそんな時代を象徴する例だと受け止めた。