ウェブ記事を無断流用された個人がNHKを(なぜか著作権侵害を主張せず)提訴し敗訴
将棋関連のサイトを運営されている個人の方が、記事の無断流用でNHKを訴えた事件(本人訴訟)の判決文が公開されていました。結論は請求棄却です。
判決文では具体的な記事の内容が省略されているのですが、この訴訟の発端となった事件を報道した弁護士ドットコムの記事を読むと具体的な内容がわかります。短い文章とは言え、表現に特徴がある部分も含めてほぼ丸パクリしていますので、著作権侵害を問われても当然の事例と思います。NHKは非を認めて謝罪文を掲載しています。
この訴訟はその後に提起されたものですが、原告は人格権の侵害(精神的苦痛、名誉毀損)のみを主張し、「原告文章に係る著作権及び著作者人格権の侵害を主張しない」と自発的に著作権侵害訴訟となることを避けています。
著作権侵害についてはNHKと和解済みなので訴訟の対象にしないといった事情があるのかもと思いましたが、であれば判決文に反映されているはずです。なぜ、このような判断を行ったかの理由は不明です。もし、原告が銭金の問題ではなく気持ちの問題であると考えていたのだとしても、少なくとも著作者人格権の侵害は主張すべきだったのではと思います。
裁判所はNHKの行為を「不適切」であるとしましたが、「名誉毀損が成立するためには、人の社会的評価を低下させる事実を摘示することが必要であるところ、(中略)原告の主張する名誉毀損の可能性については、いまだ抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない」等と人格権の侵害を否定しました。
さらに、「被告が原告文章と類似する本件ナレーション等を含む本件番組を放送したことが原告の権利を侵害するかは、本来、原告文章に著作物性が認められ、原告文章に係る原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたと認められるかという観点から検討すべきであるということができる。しかし、原告は、本件訴訟において、著作権及び著作者人格権が侵害されたことを主張しないとしていることから、その要件についての具体的な主張立証がされていないため、著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を認めることはできない」としました。民事訴訟は弁論主義に基づいているので、仮に裁判官が「あーこれはどう見ても著作権侵害だな」と思っても、当事者が著作権侵害を主張していなければ勝手に判断することはできません。
明らかに著作権侵害でない事例でむりやり著作権侵害訴訟を提起するケースはたまに見られますが、著作権侵害の可能性があるのに敢えて著作権侵害を問わないケースは珍しいと思います。