【戦時の献立】「ぜいたくは敵!」だけど、たまのぜいたくとして紹介されたおやつ(昭和15年9月8日)
もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』
戦時中の料理をレシピ通りに作り、その味や調理方法をブログ風に伝える「戦時の献立」。
今日は昭和15年9月号の主婦之友から「ポテトキャンディ」である。
この年の8月、東京では「ぜいたくは敵だ!」という看板が1500個設置された。(これについて詳しくは「サイダーシャーベット」の記事をご覧いただきたい)
そして9月になると、一層ゼイタクへの風当たりは強くなる。
当時の政府の広報誌「写真週報」を見ていると、この頃からやたらと「新體制」という文字が出てくるようになる。
「新體制」は、現在使われる漢字で書くと「新体制」。
まるで新しい時代がやってくるような、明るい印象を感じるかもしれないが、要は「これからも戦争は続くから、国民は我慢して質素な生活をしろ」ということである。
生活の「新体制」まずは外見、服装から!
これがその当時の政府広報誌「写真週報」の見開きページである。記事のタイトルは「ぜいたく夫婦よ、さようなら」
右側のページに掲載されている写真が「ゼイタクな夫婦」、左側のページが戦時下にふさわしい「新体制の夫婦」だそうだ。
それぞれの服装の細かい点に触れ、どういう服装はダメで、どういう服装は良いか、具体的に書かれている。
例えば、ゼイタクな方にはこんなことが書かれている。
【男性】
・オックスフォードの豪奢な布地で特別注文のワイシャツだ
・子山羊の皮でバックスキンのキザな仕立ての白靴などゼイタク以外の何ものでもない
・ハミルトン19石のプラチナ側の腕時計も見栄以外には大したことはないだろう
【女性】
・佐賀錦のハンドバッグ。典型的ゼイタクの一つである。
・金糸銀糸の訪問着。これ一つで普段着なら五つも出来る。ごくたまにしか着ない着物に無駄な金をかけていたのだ
といった調子である。
一方で、新体制の方はというと。
【男性】
・頭髪も適度に洗っていれば(中略)香料も不要なほどにすがすがしい。癖毛をおさえる程度のポマード
・重いの軽いのという気持ちがすでにゼイタクなのだ。帽子は日よけが第一使命
・服地はドイツだってイタリアだってスフ混紡。伸びて行く国々は身を屈して戦っている(スフとはステープルファイバー。レーヨンの短繊維のこと)
【女性】
・帯などというものは、のべつ選択する必要もなし、スフ混紡で大丈夫
・ハンドバッグも金属類が大切な今日、お母様のお古でも、金具だけを利用して快適なハンドバッグに再生させよう
・清潔にさえしてあれば、女の手は美しいもの。体さえ健康なら、爪は自然にバラ色になって来る
ここに抜き出したのはごく一部だが、頭のてっぺんから足の先まで、事細かに書かれているのだ。
さぁそんな中で「ポテトキャンディ」である。
この頃、すでに砂糖は配給制。なんてゼイタクだ!と言われないか心配になるが、婦人雑誌はちゃんと予防線を張っている。
献立の冒頭には…
配給の範囲でうまくやりくりして、普段の食事で節約した分を、たまに大盤振る舞いしても許される…ということのようだ。
ではその“たまには”許される「ポテトキャンディ」とは果たして、どんな味なのか?
ここから先は、昭和15年9月8日だと思ってご覧いただきたい
昭和15年9月8日、日曜日。朝は雨、午後からは曇りでジメジメとする。
今日は家内の婦人雑誌からポテトキャンディを作る。
どうも最近、甘いものばかり作っているが、致し方なし。ポテトキャンディという言葉の響き。
元来、子供じみている私の性質が反応したのである。
献立にもこう書かれている。
「たまにはお砂糖を奮発したこんなおやつでお子様を喜ばせましょう」
うまく乗せられたと言うほかない。
しかし献立には肝心の砂糖の分量が書かれていない。
書かれていないと、どのくらいが適量か悩ましい。
この切符制の折、私に大人としての分別があるか試されている気がする。
何より、たまの贅沢といってもどの程度がたまになのか。一週間に一度か、二週間に一度か?
しかし隣組のこともあるから、放漫もほどほどにすべし。とんとんとんからりと隣組〜♪
では、こしらえよう
【材料】
・さつまいも
・油
・砂糖(分量の記載なし)
・水(砂糖がひたひたになる程度)
まずさつまいもを洗って、三分(約1cm)くらいのさいの目に切る。
切ったさつまいもは薄い塩水にしばらく浸けておいてから水気を切り、熱した胡麻油で、少量ずつ揚げていく。
色良く揚がったら取り出して、油を切っておこう。
そうしたらフライパンを用意し、砂糖と、砂糖がひたひたになる程度の水を加える。
砂糖の分量は書かれていないが、とりあえず大さじ四杯入れてみた。
この数字に大した根拠はない。
一人大さじ一杯では普通すぎる。今回はお砂糖を奮発するんだから、一人二杯ずつ。
私と家内で、合わせて四杯。そういう計算だ。
重さにすると一人当たり18グラム。
なんと、この間作った「スノープディング」よりも贅沢になってしまった!
まぁ今回は一度で食べ切る訳じゃなし、まぁ良いかぁ。
砂糖水を弱火で煮詰めていくと、だんだんとトロミが出てくる。
それが糸が引くようになったら頃合いだ。
ここへ揚げたさつまいもを入れ、手早くかき混ぜる。
さつまいも全体に砂糖が絡まったら、大皿に移し、急いであおぎ冷ます。これで出来上がりだ。
「ポテトキャンディ」の完成なり
いただきます。
これはやれる!
大学芋のようになるのかと思ったが、全然違うナァ。
あっちはとろみのある蜜でねっとりした食感だ。しかしこっちはカラリと揚がった芋に砂糖の歯触りで、パリパリ、シャリシャリしている。滅法界うまい。
ちなみに家内はというと、小さなさつまいもがコロコロしていて可愛いとのこと。この間の「スノープディング」ほど甘くなく、お腹にもたまるのが気に入ったようだ。
ごちそうさま。またうまいものを作ろうと思う。
動画も楽しんでいただけると有り難し!
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