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【戦時の献立】昭和15年8月の献立で作る『スノープディング』当時、カタカナ語は禁止だったはずなのに?

Sake Drinker Diary映像をつくる人

昭和15年8月25日、日曜日。晴れ。
口にした瞬間、思わず頓狂(とんきょう)な声を上げた。
今日は家内の婦人雑誌からスノープディングを作った。

なんと一人当たり20グラムの砂糖を使う。
砂糖が切符制のいま、これは法外な分量なり。
砂糖は月に、一人当たり360グラムと決まっている。
1日にすると一人あたり12グラム。
つまりこのスノープディングを食った瞬間、すでに8グラムの超過である。
これは滅法界ぜいたくなり。

家内も私と同様、食べた直後に「甘ーい!」と頓狂な声をあげた。
これは、さわ子やはな子が喜ぶであろうナァ。
今度来た時に食べさせて、「甘ーい!」と頓狂な声をあげさせてやろうと思う。

【さわ子、はな子】
妹・ヨシコの娘。私にとって姪にあたる。遠方に住んでいるが、名前がたびたび登場する。(昭和14年11月の『お子様ランチ』など)

昭和15年8月号『婦人之友』の献立で作る『スノープディング』

【材料(三人前)】
牛乳 一合
コーンスターチ 大さじ2
砂糖 カップ半杯
卵白 1個分

ではこしらえていこう。まずは砂糖カップ半杯とコーンスターチ大さじ2杯を混ぜ合わせる。

すでに鍋に入っているのが砂糖。見るからに甘そうだ…
すでに鍋に入っているのが砂糖。見るからに甘そうだ…

カップ半杯は約60グラム。つまり一人当たり20グラム使う計算である。

そうしたらここへ、牛乳を少しずつ入れ、弱火にかけながらよく練る。

砂糖と牛乳の組み合わせは、それだけで個人的に最強である。
砂糖と牛乳の組み合わせは、それだけで個人的に最強である。

献立によると、ふつふつしないよう気をつけるべし。
また、よく練らないと粉くさくなるらしいから根気良くやるべし。

練っていると少し透明感が出てくる。これくらいを目安にするべし。
練っていると少し透明感が出てくる。これくらいを目安にするべし。

次に卵白、一個分を固く泡立てる。

黄身はその場で飲んだから安心するべし。
黄身はその場で飲んだから安心するべし。

泡立てた卵白に先ほど練った物を加え、さらに泡立て器でよく混ぜ合わせる。

あとは水で濡らしたゼリー型に入れて、冷やし固めれば出来上がりである。

『スノープディング』の完成なり

献立によると「雪のように白いプディングができます」とのこと。
献立によると「雪のように白いプディングができます」とのこと。

まさに雪のような白さである。
まず最初に、皿を左右に振ってプディングを揺らして遊んでしまった。思っていたよりも、ずっと柔らかくて驚いたのだ。

スプーンですくうと…とても柔らかい。
このぷるぷる感が伝わりづらいのが残念である。
では、いただきます。

あー、これは甘い!甘いナァ。予想以上の甘さである。
食感はプリンに似ているが、それよりもっとフワッとしていて、しかもトロッと軽い。
口の中で溶けていくのも、なんだか雪のように儚い。まさか献立を考案した人物は、そこまで考えて『スノープディング』と名付けたのだろうか…

よく見ると気泡がある。だから軽い食感なのかもしれない。
よく見ると気泡がある。だから軽い食感なのかもしれない。

家内も一口食べて「甘いね!」と一言。
しかし、なんだかんだですぐに食べきっていたから、うまかったのであろう。
食べる早さを見ていれば、それくらい一目瞭然なのだ。

ごちそうさま。またうまい物を作ろうと思う。

動画も楽しんでいただけると有り難し!

プディングのぷるぷる感がよく分かる。

もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』

戦時中の料理をレシピに忠実に作り、その味や調理方法をブログ風に伝える『戦時の献立』。
今日は昭和15年8月号の『婦人之友』の献立からお送りした。
前回の『サイダー・シャーベット』に引き続き、手軽に作れるおやつ特集から選んでいる。

シャーベットもそうだが、今回のプディングも完全に英語の名前であるのが少し気になった。
なぜなら当時は、敵対する国の言葉を『敵性語』と呼び、日常生活から排除しようという動きがあったのだ。
例えばこの年の3月、歌手のディック・ミネ氏が芸名を三根耕一に変えるなど、芸能関係の人々が改名したのは有名なエピソードである。
これは政府の内務省から、英語の芸名はイカンとお達しがあったからだ。

他にも、この献立が掲載されてから3ヶ月後の11月には、タバコの名前も改名されている。
『ゴールデンバット』は『金鵄』に、『チェリー』は『桜』に商品名が変わった。

そんな中で『スノープディング』である。
プディングはプディングとしか言いようがない物だから、致し方なし。
しかしスノーはどうなのか?
『雪プディング』にすることだってできたはずだ。
しかし献立は『スノープディング』となっている。

昭和15年8月号『婦人之友』より
昭和15年8月号『婦人之友』より

敵性語としてカタカナ語を排除!どこまでが大丈夫で、どこからはダメ?

なぜだ?なんなのだ、この差は?
まぁ、月刊誌に『スノープディング』という文字が掲載されたところで、読者の目に触れるのはその時の一回限り。だから政府も献立名まではいちいち口を出さなかったのかもしれない…

そんな風に自分を納得させようとした私は、当時の政府の広報誌『写真週報』を見ていて滅法界驚いた。

昭和15年11月6日『写真週報』の広告欄
昭和15年11月6日『写真週報』の広告欄

目薬の『スマイル』に…

昭和15年11月27日『写真週報』の広告欄
昭和15年11月27日『写真週報』の広告欄

飲み薬の『ビオフェルミン』の広告が掲載されている。

どちらも製品名で、『ゴールデンバット』や『チェリー』と同じと考えて良いだろう。
しかもこれは一般誌ではなく、当時の政府の広報誌。敵性語には、より厳しいはずである。

もうわからない。
どこまでが大丈夫で、どこからがダメなのか…

当時の『写真週報』を見ていると、これ以外にもチョコレートの広告やカタカナ表記の栄養剤の広告などが頻繁に登場している。

芸名のように政府から厳しく改名を要求される場合もあれば、特に問題なくカタカナ語を使い続けられた物もあるようだ。
一方で、改名した中には当時の情勢を考えて自主的に変えたケースもありそうである。いまで言う忖度(そんたく)だ。

今回の『スノープディング』は、そういう微妙かつ曖昧なピリピリ感が漂う頃の日本の献立である。

映像をつくる人

左利きの映像製作者。気分転換は料理です。「左利き」とGoogle翻訳に入力してみたところ「Sake Drinker」と出てきたため、それに日々の記録という意味での「Diary」を足しました。お酒は好きですが、浴びるほどは飲みません。

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