【戦時の献立】昭和15年8月のレシピで作る『サイダーシャーベット』は、冷凍庫がなくても大丈夫?
昭和15年8月18日、日曜日。晴れ。
最近は日が落ちるとやや涼しくなるが、昼間は残暑が鬱陶しい。
暑気払いにと、今日はサイダー・シャーベットを作ることにした。
毛布とおひつが重要である。
これでうちに電気冷蔵庫がなくてもシャーベットが作れるらし。
最近町で「ぜいたくは敵だ」と書かれた看板を見かける。
家内に聞くと、今月初めから見かけるようになったとのこと。
私は今まで気がつかなかったが、残暑と同じで鬱陶しい限りなり。
このサイダーシャーベットを見たら、これもぜいたくだと糾弾されるのかしらん。
暑気払いの意味を辞書で調べてみると「冷たい飲み物などで体内に溜まった熱気を払い、元気に過ごすこと」とある。
ではこれはぜいたくではない。元気でいるために最低限必要なものである。
あぁ、シュワシュワとしてうまい。
昭和15年8月号『婦人之友』の献立で作る『サイダー・シャーベット』
材料(3人前)
・サイダー 1本
・水 カップ半杯
・砂糖 大さじ1
・氷 一貫(約3.8kg)
・塩 五合
ではこしらえていこう。まず用意するのは毛布と、おひつ。
この中に、氷を一貫入れて…
さらに塩を五合入れる。かなりの塩を使うナァ。
そうしたらこの中に、缶詰の空き缶を沈め、砂糖大さじ1杯を溶かした水を入れる。
あとはサイダーを1本注ぎ…
ぴっちりふたをして、毛布で包む。
一時間ほど経ったところで、一度中身を混ぜよう。
再び毛布に包んでおけば二、三時間ほどで完成である。
『サイダー・シャーベット』の完成なり
大汗をかかずに冷たいシャーベットができた。
では、いただきます。
これは確かにシャーベットだ。しかもサイダーの炭酸が残っていて、しゅわしゅわと心地良いナァ。
甘さは、やや控えめである。
子供にとっては少し物足りないかもしれない。しかし砂糖も配給制になっているから、致し方なし。
家内はというと、暑い日に火を使わずに、冷たいおやつが作れることに感動していた。
確かに。案外うまいことできるもんだナァと私も感心した。
ごちそうさま。またうまい物を作ろうと思う。
もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』
戦時中の料理をレシピに忠実に作り、その味や調理方法をブログ風に伝える『戦時の献立』。
今日は昭和15年8月号の『婦人之友』の献立からお送りした。
この時の『婦人之友』は『夏のおやつ』と題して、手軽にできる子供のためのおやつのレシピを、いろいろと掲載している。
節米が叫ばれていることや、この年の6月からは砂糖の配給制が始まっていることから、米を使わず砂糖もひかえめで済むような物ばかりである。
『サイダー・シャーベット』以外には、例えばこのような物が載っている。
- 『フルーツカクテル』
あり合わせの果物と、砂糖を少し加えたすりおろしリンゴを、各自の小皿に盛り合わせた物。 - 『くづ餡の白玉だんご』
葛粉は使わない。片栗粉と醤油、塩、砂糖を煮て餡を作り、その中に白玉を入れて混ぜ合わせた物。 - 『スノープディング』
牛乳とコーンスターチ、砂糖、卵白で作るプディング。
『フルーツカクテル』は、すりおろしリンゴに砂糖入れるのか!とツッコミを入れたくなるが、当時のリンゴは今ほど甘くなかったのかもしれない…
ちなみに『スノープディング』は次回の記事でご紹介する。ぷるぷる、とろんとした食感でうまいからおすすめである。
昭和15年8月の日本。『ぜいたくは敵だ!』のスローガンが登場
当時の日本の状況といえば…
【7月7日】
奢侈品等製造販売制限規則(しゃしひんとうせいぞうはんばいせいげんきそく。いわゆるぜいたく禁止令)施行
【7月22日】
第2次近衛内閣が成立
第2次近衛内閣では、東條英機が初入閣し、陸軍大臣となった。
この時から日本は大東亜共栄圏の実現をかかげる。
これは欧米の植民地支配下にあったアジア諸国を解放し、日本をトップにした共存共栄のアジア経済圏を作ろうという主張だ。しかしその実は、日本がアジア諸国を支配することを正当化しようとしたものである。
ちょうどこの頃、ヨーロッパではドイツが猛威を振るい、イギリスやフランスなどの大国が弱体化していた。日本は日中戦争の真っ最中であったが、これをチャンスと考え、東南アジアの国々にも侵攻しようとしたのである。
ぜいたく禁止に、戦火の一層の拡大…
これらの出来事を受けて、8月に入ると街の様子もガラリと変わってきたようである。
当時、政府の広報誌でもあった写真週報を見てみると、このような記事が載っている。
東京の人通りの多い道には『ぜいたくは敵だ!』という立て看板が1500個立てられた。
さらに銀座ではビラ配りが行われた。
配られたビラには『華美な服装はつつしみませう』『指輪はこの際全廃しませう』と書かれていた。
配ったのは東京の婦人団体。
ぜいたくな着物などを着た人、宝石のついた指輪をつけた人を見つけるとビラを手渡し、反省をうながしたという。
しかも違反者が何人いたかや、その年齢層までも集計していた。
女性のために活動するはずの婦人団体が、街中の女性に厳しい取り締まりの目を向ける。
この頃から、窮屈で殺伐とした相互監視が徐々に始まっていたということかもしれない。
今回紹介した『サイダー・シャーベット』は、そんな頃の日本の献立である。
動画も楽しんでいただけると有り難し!
Sake Drinker Diary では毎週、戦時中にまつわる動画を配信しています。
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