ロシア軍施設で爆発事故、原子力推進巡航ミサイルの可能性
8月8日、ロシアのアルハンゲリスク州にあるロシア海軍の実験場で爆発事故があり、セヴェロドヴィンスク市の市民保護局が一時的な放射線レベルの上昇を発表しました。しかしロシア国防省はこれを否定。ロシアの主要メディアでは「液体燃料式エンジンの爆発事故」とだけ報道されていましたが、8月10日になって国営原子力公社「ロスアトム」がこの事故で職員5名が死亡したことを公表、原子力事故であることが確実になりました。
しかし依然として「液体燃料式エンジンの爆発事故」だとして、ロスアトムの職員は「液体推進剤の為に開発された放射性同位元素」の試験で事故に遭ったという整合性の付かない説明が続いており、爆発事故の詳細を未だ伝えていないままです。液体燃料式の弾道ミサイルにしろ、ジェット燃料を搭載した巡航ミサイルにしろ、エンジンの試験や発射試験では核弾頭を搭載しないので爆発事故が起きても放射線レベルが上がるはずが無いのです。宇宙ロケットでもなければ原子力電池を積むことも通常はありません。それでは液体燃料の為の放射性同位元素とは一体何なのでしょう?
原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェスニク」
しかし事故が起きれば必ず原子力事故となってしまうミサイルが唯一あります。ロシアが開発中の原子力ジェットエンジンを搭載した原子力推進巡航ミサイル「9M730ブレヴェスニク」、NATOコードネーム「SSC-X-9スカイフォール」。このミサイルの試験が爆発事故のあった実験場で行われていました。
ロシア国防省の原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェスニク」紹介動画 Крылатая ракета с ядерным двигателем ≪Буревестник≫
現在までにロシア当局は原子力推進巡航ミサイルが事故に関連しているとは一切公表していません。あくまで憶測でしかないのですが、爆発事故がそのまま原子力事故となるミサイルなので、事故原因として注目されています。しかし当然ですが原子力推進巡航ミサイルの燃料は液体式ではありません。固体燃料ロケットブースターで打ち上がった後に原子力ジェットエンジンで飛行する方式なので、液体燃料は搭載しない筈なのです。
ロシア当局は機密性の高い原子力推進巡航ミサイルの事故を秘匿したいがために、正確な発表を行っていない可能性があります。あるいは通常の弾道ミサイルないし巡航ミサイルに、放射性同位元素が関わるなんらかの装置が開発されたのかもしれません。どちらにせよロスアトム職員が爆発事故で死亡した原子力事故であることに変わりが無く、アメリカをはじめ各国はロシア軍が何をしていたのか情報収集に躍起になる重大事件となりました。
なおロスアトムの説明では「沖合の海上プラットフォームで試験が行われていた」「液体燃料ロケットエンジンの爆発」「放射線源に関連する作業が行われていた」としています。これが正しい場合は液体燃料式の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の事故ということになりますが、SLBMに原子力電池が搭載されていた可能性があります。
しかし、もし過去にもそのような弾道ミサイルへの原子力電池の搭載例があったならば発射試験失敗の度に空中に放射性物質がバラ撒かれてきたことになりますが、弾道ミサイル試射での前例は聞いたことがありません。すると今回の試験で初めて試みたのか、それとも別の理由=原子力推進巡航ミサイルの隠れ蓑なのかもしれません。