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『ポケモン』ランターンの光は、深海から海面まで届く。光の強さを計算したら、オドロキの結果に……!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

かわいい系のポケモンはいろいろいるけど、ランターンも、とてもかわいい。

「たかさ1.2m おもさ22.5kg」のライトポケモン。パッチリとしたつぶらな瞳を持ち、頭から伸びたツノの先には黄色いボールが2個ついている。同じく深海に棲むネオラントと、エサを奪い合ったりしているという。

ポケモンのなかには、危険な力を持つものも多く、たとえばルギアが翼をはばたくと嵐が40日間も続き、レシラムが尻尾から炎を出すと世界の天気が急変し、ゼクロムは稲妻で世界を焼き尽くすという。

いずれも、一歩間違うと地球を壊滅させるかもしれない能力だ。

それに比べると、ランターンはかわいいし、キケンは少なそうだし……などと油断してはなりませんぞ。

ポケモンも外見や攻撃力だけで判断してはいけない。空想科学的に考えると、ランターンこそ、ビックリするほど恐ろしいポケモンなのだ!

◆深海から、光が届く!

ランターンの何がそんなにすごいのか。それは、頭の上の2つのボールが放つ光が、きわめて強烈らしいことだ。

ポケモンの図鑑には、次のような記述がある。

「夜の海面を覗き込んで輝く星のような光が見えたら それはランターンだよ」(『サン』)

「深海を泳ぐランターンの明かりは水面まで届く。深海の星と呼ばれている」(『ブラック・ホワイト』など)

「深海の星」とはずいぶんロマンチックな響きだが、ランターンの棲む深海とは、どれほど深い海なのだろう? ポケモン図鑑によれば、

「ランターンのだす光は5000メートルの深さからでも水面まで届くほど明るい」(『金』『リーフグリーン』など)

なんと水深5000m! そんな深いところで発した光が、水面まで届くというのだ!

水は透明だから、光をいくらでも通しそうな気がするが、そうではない。

『深海生物学への招待』(長沼毅/NHKブックス)によれば、どんなに清澄な海でも、水深100mまで届く光は、海面の100分の1程度だという。

すると恐るべきことになる。

届く光が、水深100mで「100分の1」に減るということは、さらに100m深い水深200mでは「100分の1」の「100分の1」で、1万分の1になる。

水深300mだと、「100分の1」を3回繰り返して100万分の1になる。

すると水深5000mの場合は、「100分の1」を50回繰り返すことになる。具体的には、

10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000分の1!

0が100個! 日本語でもっと大きな数を表す「無量大数」でえ、1のあとにつく0の個数は68個だから、もはや日本語では表せない数ということだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

5000mも離れ、こんなに弱くなっても、「深海の星」にたとえられるほど、海面からもはっきり見えるというランターンの光。

水深5000mの海底では、いったいどれほど強い光を放っているのだろうか?

◆宇宙には存在しない明るさ!

ヒントになるのは、前掲の図鑑の「夜の海面を覗き込んで輝く星のような光が見えたら」という記述だ。

「星の光」にはさまざまな明るさがあるが、ここでは海面から見えるランターンの光の明るさを、肉眼でギリギリ見える6等星と同じと仮定しよう。

この場合、ランターンが水深5000mの深さで放っていた光の強さは? 計算してみて、モノスゴク驚いた。なんと、

2100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000(0が94個)kW!

これは本当に恐ろしい数字である。

えっ、太陽より明るいか? いやもう、そんなモノは比較になりません。全宇宙の星が放つ光の

56000000000000000000000000000000000000000000000000(0が48個)倍。つまり、この宇宙には存在しない明るさということだ。

◆えっ、宇宙が滅亡……!?

ランターンが発する、すさまじいまでの灼光。

人間がこれを直接目で見たら、どれほど眩しいだろうか? などと心配になるが、いやいや、眩しいどころの騒ぎではない。

ランターンの光が、深海5000mから海面上に届くまでに1000……(0が100個)分の1にまで弱くなるということは、そのエネルギーはほとんど海水に吸収されるということだ。ここで吸収されたエネルギーは、どうなるのか?

答えは「熱に変わる」。つまり、全宇宙の星が放つ光の56000……(0が48個)倍もの光のエネルギーが、ほぼまるまる、熱に変換されるのだ!

そんな熱を受けたら、地球の海など一瞬で蒸発する。

それどころか、地球さえ瞬時に蒸発する。あなたも私も電光石火で蒸発。幸か不幸か「わー眩しい」などと思うヒマさえない。

その後、海水などのランターンの光を遮るものはなくなって、それは全宇宙に向かって放出される。

これほど強烈な光は、そのほとんどが生物に有害なγ(ガンマ)線になる。これによって、地球から3100000000000000000000000000000(0が29個)光年離れた星の生物も死滅してしまう。

というか、この範囲は、いま考えられている宇宙の半径よりもはるかに大きい。ってことは、うわっ、全宇宙が滅亡しました!

あんなにかわいいポケモンが、これほど恐ろしいチカラを秘めているとは……。

深い。ポケモンの世界は、深海のように深い。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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