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7月の平均速度より遅い強い勢力の台風6号がノロノロと沖縄へ 速度が遅いというだけでも危険

饒村曜気象予報士
沖縄へ接近中の台風6号の雲(7月20日16時)

台風は上空の風に流されて動く

 台風は、地球の自転の影響により、自分自身の力で北へ向かう性質をもっています。

 しかし、この力は弱く、台風はゆっくりしか北上しません。

 台風の動きは、ほとんどが周辺の風によって流されてのものです。

 一般的には、低緯度では上空の風が偏東風ですので、東風にのって西に動きながら、台風自身の力によってわずかに北上しますので、西北西へ進みます。

 上空の風が弱い緯度まで北上すると、台風はゆっくり北上し、さらに緯度が高くなって偏西風にはいると、ゆっくり北上しながら上空の西風、それも強い西風に乗りますので速度を早めて東北東に進みます(図1)。

図1 台風の動きの説明図
図1 台風の動きの説明図

 これが、台風の一般的な進路です。

 夏になると、偏東風の範囲が北に広がるため日本付近でも西へ進む台風が多くなります。

 また、偏西風の範囲は日本の北に移動し、風も弱まっていますので、日本に襲来する夏の台風は、秋の台風より速度が遅くなります。

 資料は少し古くなりますが、図2は筆者が調べた7月に西より(西・西北西・北西)に進む台風の平均速度です。

図2 西より(西・西北西・北西)に進む7月の台風の平均速度
図2 西より(西・西北西・北西)に進む7月の台風の平均速度

 これによると、7月の沖縄近海は上空の偏東風が弱いこともあり、台風の平均速度は9ノット(時速約17キロ)です。

台風6号の進路予報

 強い勢力の台風6号が沖縄近海を通過中です(図3)。

図3 台風6号と7号の進路予報(7月19日21時)
図3 台風6号と7号の進路予報(7月19日21時)

台風の進路予報は最新のものをお使いください

 なお、南シナ海にある台風7号は華南に上陸し、24時間以内に熱帯低気圧に変わる見込みですので、今後、台風6号との相互作用はなさそうです。

 台風6号を動かしている上空の偏東風は弱く、沖縄付近を西に進む7月の台風の平均速度の毎時15キロより遅く、自転車並みのノロノロです。

 そして、今後も速度が上がらない予報です(図4)。

図4 台風6号の進行速度の変化(7月21日以降は予想)
図4 台風6号の進行速度の変化(7月21日以降は予想)

 台風6号が発生した7月13日3時以降、どの時間も平均速度を下回っていますし、予報も同じです。

 沖縄付近で台風の動きが遅いということは、沖縄で暴風が吹いている時間が長くなることを意味し、繰り返し襲う強い風によって建物等を破壊する可能性が高くなります。

 また、強い雨が降っている時間が長くなり、総降水量が多くなって水害や山・がけ崩れ等が多発する可能性があります。

 台風は速度が遅いというだけでも危険なのです。

 暴風域に入る確率が、台風6号から少し離れている沖縄本島で30パーセント以上なのは、7月21日未明から朝までの9時間です。

 しかし、台風が直撃する宮古島では、7月21日の昼過ぎから23日の夜も遅くなってからまでの60時間もあります(図5)。

図5 沖縄本島南部と宮古島が暴風域に入る確率
図5 沖縄本島南部と宮古島が暴風域に入る確率

 また、総降水量は、沖縄本島でも200ミリを超え、先島諸島では400ミリを超える見込みです。

 先島諸島の多い所で1000ミリを超えるというコンピュータの計算もあります(図6)。

図6 南西諸島の72時間予想降水量(7月21日~23日)
図6 南西諸島の72時間予想降水量(7月21日~23日)

モンスーントラフ上の熱帯低気圧

 台風6号の雲の塊から、少し離れた南側から南東側に大きな雲の塊があります。

 太平洋高気圧の南縁辺を吹く東よりの風と、モンスーンと呼ばれる南西の季節風がぶつかって「モンスーントラフ」と呼ばれる低圧部ができ、雲が発達しやすくなっているからです。

 この中から、渦を巻く場所ができると、その渦が熱帯低気圧となり、台風まで発達することがあります。

 現時点で渦を巻く場所ができていませんが、渦ができる場所によっては、発生した台風が北上して東日本に接近する可能性がでてきます。

 東京2020オリンピックの開幕が7月23日ですので、オリンピック競技に影響が出るかもしれません。

 台風6号の風や雨などに厳重な警戒が必要ですが、台風6号の南側から南東側に広がる雲域の動向にも注意が必要です。

タイトル画像、図3、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:筆者作成。

図2の出典:饒村曜(昭和55年(1980年)、台風に関する諸統計(第2報)進行速度、研究時報、気象庁。

図4の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図5の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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