注目を集めるJR岡山エリアの取り組み 車両にまつわる話題とコロナ禍でのイベントの在り方
○「スーパーやくも」色の381系が登場
2023年2月17日、JR西日本の特急「やくも」で新たな企画が始まった。「やくも」は現在、岡山~出雲市間で1日15往復が運行されているが、このうち2往復で1994年から2006年まで運行されていた「スーパーやくも」塗装の車両が使われるようになったのである。駅や沿線にはさっそく多くの鉄道ファンが集まり、17年ぶりとなる紫色を基調とした塗装の車両をカメラに収めていた。
国鉄時代から走り続けている車両を登場当時の塗装に戻したり、昔のカラーリングを現在使われている新型車両で再現したりする、いわゆる“復刻塗装”は、全国で度々行われている。件の「やくも」で使われている381系電車も、1編成が2022年3月から「国鉄色」と呼ばれるクリームと赤色の塗装で活躍中。首都圏では、東北・上越新幹線を走るE2系の1編成が、開業時に使われていた200系のカラーリングである白+緑の塗装となったほか、常磐線を走る特急「ひたち」では、沿線のイメージにちなんでかつてE653系に施されていた5種類の塗装が、“後輩”にあたるE657系で再現されている。
ただし、E2系やE657系に施された復刻塗装は、いずれも両形式がこれまで経験したことのない色であり、あくまでも“イメージを再現”というレベルにとどまる。これは筆者の個人的な考えだが、車両のカラーリングは先頭形状や窓割りなどを考慮したうえで、その車両に最も“似合う”ようにデザインされている。その点では、人気があった、もしくは懐かしさを感じる塗装を別形式に施しても、どうしても若干の違和感をぬぐいきれない。有り体に言えば「オリジナルは最強」ということになる。
○「デビュー当初の塗装」は人気が高い?
その点、「やくも」の381系はデビュー当時に国鉄色をまとっており、また「スーパーやくも塗装」も同形式のために考案され、同形式のみに施されたものだ。裏を返せば、国鉄時代の古い車両がいまだに使われ続けている……ということでもあるが、「似合っている」という点では正にベストマッチである。人気が出るのも当然と言えるだろう。
ちなみに、「スーパーやくも」塗装の車両は、2月17日から数日間だけ4両編成で走った後、2月20日からは中間に白+えんじ色の現行色車両2両を挟み込んだ“混色編成”として運行。3月16日からは「スーパーやくも」色に統一された6両編成となる。混色編成は、車両のカラーリングが変更される過渡期にしばしば見られた光景であり、鉄道ファンから「心憎い演出だ」という喜びの声も上がっているが、JR西日本によるとこれは「車両の検査に合わせて塗装作業をしている関係で、偶然このような混色編成となった」だけで特に意図はないとのこと。とはいえ、様々なバリエーションが見られるという点ではなかなか楽しい企画である。
○新型車両や観光列車も登場
ところで、岡山エリアは近年、鉄道ファンから熱い注目を集めている。車両の塗装という点では、山陽本線や伯備線などで使われている115系は、今も2編成が「湘南色」と呼ばれる国鉄時代の緑+オレンジ塗装で活躍。津山線や吉備線ではキハ40系が、製造当時の朱色に戻されている。前述の国鉄色381系がこれらの車両と並ぶ様子は、まるで昭和にタイムスリップしたかのような光景だ。
一方、2023年2月には岡山エリアに投入される新型車両、227系500番台がその姿を現した。227系はこれまで広島エリアや和歌山・奈良エリアにも導入されているが、この500番台はその改良版。扉付近のスペースを広くとり、ラッシュ時の混雑に対応した。岡山の桃や尾道の桜、福山のバラをイメージしたカラーリングも新鮮である。岡山エリアの列車はほとんどが国鉄時代に製造された車両で運行されており、新型車両が導入されるのは久しぶりのこと。鉄道ファンはもちろん、利用者からの期待も大きい。
また、2022年7月には津山線で観光列車「SAKU美SAKU楽」が運行を開始した。「SAKU美SAKU楽」は観光列車としてはシンプルな部類であり、コース料理の提供や車内イベントの開催などはないが、その分アテンダントの沿線案内を聞きながら、ゆったりと車窓を楽しむことができる。近年の観光列車は趣向を凝らした内装やイベントが詰め込まれているものが多く、ともすれば何かに追われるように車内の時間を過ごしがちだが、時には「SAKU美SAKU楽」のような列車もいいものだ。
○「おか鉄フェス」にみる鉄道イベントの変化
こうした車両面に加えて、鉄道ファンから注目を集めている理由が、2022年に「おか鉄フェス」と銘打って開催された、様々なイベントだ。そのうちメインとなる「おか鉄!ザ・鉄道体験」では、この企画でしか楽しめない様々な体験メニューが用意された。たとえば「SAKU美SAKU楽」を使ったツアーでは、岡山~津山間で同列車に乗った後、津山駅に隣接する「津山まなびの鉄道館」を見学。さらに、保線用モーターカーや軌道自転車の乗車体験、運転士が訓練に使用するシミュレーターの体験など、まさに“プレミアム”な内容が盛り込まれており、参加者は大満足だった。
他にも、車両基地の見学や乗務員の業務体験、訓練線で鉄道車両運転体験などを開催。地元鉄道会社とのコラボイベントや記念入場券の販売なども行われ、まさに岡山エリアの鉄道を遊びつくせる企画となった。急行「鷲羽」や急行「砂丘」といった往年の名列車のリバイバル運行では、多くの人々で車内や沿線がにぎわい、各駅では歓迎イベントや物販なども盛況。訪れた人々の満足度も高く、「今後もぜひ開催してほしい」という声が多く集まったという。
コロナ禍による行動制限が続き、イベントの在り方が模索されるなか、岡山エリアのこうした取り組みは、鉄道ファンや沿線の人々だけでなく、鉄道会社としても意義深いものとなった。その一つはもちろん収益面である。大きく落ち込んだ運賃収入を少しでも補完できるという面もさることながら、これまではほとんどが無料だったイベントを有料化することで事業として成立させ、従来は不可能だった内容も盛り込むことができるようになった。鉄道ファンにとっても、有料であるがゆえに体験できることが増え、また少人数でじっくり楽しめるイベントがあるのはありがたい。
そしてもう一つは、鉄道会社で働くスタッフのモチベーション向上である。乗務員や駅員と違い、保線部門や電気通信部門、あるいは車両の検修部門などで働くスタッフにとって、こうしたイベントは利用者と接することができる数少ない機会だ。筆者が参加したイベントでも、「数年ぶりにお客様の生の反応が見られて、私たちもうれしいです」というスタッフの声を多く聞いた。まだまだ2019年以前のようにはいかないものの、ニューノーマル時代の“鉄道の楽しみ方”に向けて、様々な動きが始まっている……一連の「おか鉄フェス」では、そう感じた。
前述の通り、まもなく新型車両が運行を始める岡山エリアのJR路線。来年春には「やくも」用の新型車両も登場することが決まっており、そのイメージパースも既に公開されている。しばらく盛り上がりが続くであろう、岡山エリアでのJRの取り組みに期待したい。