吉田麻也、冨安健洋・・・世界で戦えるセンターバックは顔で決まる?
「吉田麻也は本当にいい顔つきをしている。“絶対に、ここを通さない”というディフェンスとしての集中力と意志を強く感じさせる」
元ヴィッセル神戸監督のファン・マヌエル・リージョは、そう洩らしていたことがある。冗談ではない。顔つきの良さを、真剣にほめていた。
センターバックは顔で決まる
ディフェンス、特にゴールの前に立ちはだかるセンターバックは、「守りの番人」のようないかめしさが不可欠だと言われる。まさに、仁王像のような威厳というのか。敵をその門から通したら、失点に直結するのだ。
簡単には通させない――。そういう強い意識でプレーし続けることによって、その顔つきは作られると言う。迫りくるアタッカーと対峙し、戦いを重ねることで、自然に拵えられる表情だ。
それはボランチとも、ゲームメーカーとも、サイドアタッカーとも、ストライカーとも、まったく違う。無骨だが、強い責任感を感じさせる。不屈さというのか。決して、スマートな感じではない。むしろ、不器用で融通が利かなそうで、不細工とも言える。相手の進撃を止めるためなら、どんな手も使える。その覚悟が出るのだ。
「ウルグアイのセンターバックだったディエゴ・ルガーノは、シュートに対して絶対に顔をそむけなかった。顔面でも何でも、(失点を)止めるためには体を張れた。その姿が、チームに勇気を与えるんだ」
リージョは、センターバックのあるべき姿をそう語っていた。ヴィッセルの選手たちにもそれを伝えている。
守りの番人としての資質
昨今、センターバックもボールを持って、運び、的確なパスをつけられることが一流の条件になりつつある。高いレベルで戦うには、必要な要素と言えるだろう。蹴り返すだけのセンターバックは、もはや生き残れない。
しかし、“うまさ”はセンターバックの素養とは言えないだろう。守りの番人は、まず守ることに責任を持てるか。小手先の選手はすぐに化けの皮をはがされる世界で、屈強さがないとやっていけない。
技術的な問題は重要だが、特化すべきではないだろう。守りの強さを習得できないセンターバックは先がない。泥臭く守ることを修練したセンターバックは、後天的に技術を向上させることによって、トップレベルでプレーしているのだ。
例えば世界最高のセンターバックだったカルレス・プジョルは、バルサのスカウトに「タフさ」を評価されて下部組織に入団している。もともとFWやサイドアタッカーを務めていたが、技術的には一番下手でも、守備にキャラクターが向いていた。右サイドバックにコンバートされた後、ルイス・フィーゴをしつこく力強いマーキングで完封。一気にその名をあげ、集中して守り抜く中、そのプレーを高めていった。そしてセンターバックになってから、守備の柱としてチームを支えた。
プジョルがピッチで長髪を振り乱して戦う様は、荒々しく動き出した仁王像のようだった。一戦一戦、ストライカーと対峙するたび、能力を高めた。興味深いことに、ディフェンス力だけでなく技術レベルも向上していったのだ。
中澤と松田
練習を重ね、試合で鍛錬し、日々、センターバックとして成熟する。その点、日本では代表選手としても活躍した中澤佑二も近いケースだろうか。
「誰よりもストイック」
横浜F・マリノスのチームメイトに言わしめた性格とサッカーへの向き合い方が、硬質なディフェンスを身につけさせた。
プジョルと同じく中澤も、とても頼もしい顔つきをしていた。戦い続けてきた守備者だけが得られる厳かさ。空中戦でも、足元でも、相手の”襲来”を防いだ。
やはり仁王のようだった松田直樹と並んだセンターバック。それはJリーグ史に残るコンビだった。松田の熱と激しさは相手を寄せ付けず、跳ね返し、中澤と調和した。
現代表では、吉田を筆頭に、昌子源、冨安健洋が、”いい顔”に当てはまる。今シーズンのJリーグでは、マリノスのブラジル人チアゴ・マルチンスが最高か。若手では、優勝争いするFC東京でポジションをつかんだ渡辺剛も有望だ。
センターバックの本性は、“顔に出る”のかもしれない。