【コラム】日本が核戦争に巻き込まれる!?安保法制後の最悪のシナリオーイランVSイスラエル、米国、日本
仮に、安保法制(戦争法案)が強行採決され、成立した場合、日本を待ち受ける最悪のシナリオはどんなものか。端的に言えば、中東での核戦争に日本が巻き込まれるかもしれない、ということだ。事実上の核保有国であるイスラエルは敵対するイランの核開発に神経を尖らしている。イスラエルはイランと欧米6カ国の核査察合意枠組みを阻止するとの姿勢をあらわにし、イラン側もこれに強く反発している。米国でも不穏な動きがある。来年秋の米国大統領選挙で共和党が勝利すれば、現在の対話路線を捨て、イスラエルと共同で対イラン攻撃を行うかもしれない。米国、イスラエルとの戦争となれば、イラン側も全力で反撃し、核兵器、或いは「ダーティー・ボム」の様な放射能を使った兵器を使いかねない。そんな中、安倍首相は集団的自衛権の行使の条件として「ホルムズ海峡での機雷除去」を繰り返し発言しているが、同海峡に機雷を設置する国として想定されているのはイランである。中東で新たな、そして未曾有の戦争の危機が高まりつつある中で、安倍政権はわざわざ火中に日本を放り込もうとしている。
○中東の最大の火種、イランVSイスラエル
イランの核兵器開発疑惑の解決については、米国など6カ国とイランが核兵器査察の受け入れや経済制裁解除などの合意を目指し、大詰めの交渉を迎えている。米オバマ政権の対話路線、イラン側の軟化により、戦争の危機は一見去ったように見える。だが、これに神経を尖らしているのが、イスラエルだ。同国では、イランへの先制攻撃論が根強くある。つまり、イランがイスラエルに対する核兵器での攻撃能力を持つ前に、イランに対し先制攻撃を行うべきだ、というものだ。実際、イスラエルは1981年にイラクの研究用原子炉を空爆(1981年)、2007年にシリアの「核関連施設」を空爆している。最近でも、イスラエルのモーシェ・ヤアロン国防相がイランの核兵器開発疑惑に関連して、「必要な場合、米国の原爆投下のような決断を下す」と語ったとされ、これにイラン側が強く反発。国連事務総長や安保理事会に抗議の書簡を送るということがあった(関連情報)。仮に、イスラエルがイランへの先制攻撃を行えば、最悪、核兵器保有国同士の戦争に発展する恐れがある。米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、両国が互いに核攻撃を行うことを想定した研究報告を2007年にまとめているが、それによれば全面戦争による両国の死亡者数は最大でイラン側2800万人、イスラエル側も80万人に達するという。
○米国・共和党の不穏な動き
米国でも不穏な動きがある。オバマ政権がイスラエルとの距離を置く一方で、共和党は親イスラエル路線である。今年3月には、共和党が独自にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を招き、米上下両院合同会議で演説させた。ネタニヤフ首相の演説はオバマ政権の対イラン政策を強く批判し、より強硬な対応を求めるもので、これを共和党の議員らは熱狂的に歓迎した。今年3月4日付けのワシントン・ポスト紙によれば、39分間の演説中、スタジアムでの応援のような総立ちの拍手喝采が20回もあったという。同月には、米国の共和党議員47人が「核開発問題の解決についてイランと欧米6カ国とが合意できたとしても、オバマ大統領が退任後、共和党政権になれば直ちに破棄されるだろう」と警告する共同書簡をイラン政府へ送った。この共同書簡に署名した47人の中には、ジョン・マケイン上院軍事委員会長のような大物議員も含まれている。このマケイン上院議員は、2008年の大統領選では敗れたものの、その後も共和党内で発言力を増している。しかも、これまで何度も対イラン攻撃をほのめかしているのだ。
○ジャパン・ハンドラーの要求どおり動く安倍首相
このようにイランとイスラエルを中心とした中東情勢の不穏な雲行きがある中で、安倍首相が安保法制による集団的自衛権行使の要件として「ホルムズ海峡での機雷除去」を何度も主張していることは愚の骨頂と言える。名指しはしていないものの、ホルムズ海峡に機雷を設置する国として想定されているのは、イランにほかならない。これは、「第3次アーミテージ・ナイ報告書」でも、はっきり書かれていることなのだ。この報告書は「ジャパン・ハンドラー」とも呼ばれる元米国務副長官のリチャード・アーミテージ氏、元米国防次官補のジョゼフ・ナイ氏による、対日要求リストであり、そもそも日本が米国のために集団的自衛権の行使というのも、彼らの要求である(関連情報)。つまり、安倍首相が集団的自衛権の行使の要件とする「ホルムズ海峡での機雷除去」とは、アーミテージ・ナイ報告書でのシナリオ通りなのだ。ジャパン・ハンドラーの主張のままに、安保法制を定めてしまえば、米国及びイスラエルが対イラン攻撃を行う際に「日本も戦争に協力しろ」「自衛隊をイランに派遣しろ」と要求された場合、これを断ることが、果たして自民党政権にできるのだろうか。だが、上記したように、対イラン攻撃は中東での核戦争に発展しかねない。安保法制の行き着く先の最悪のシナリオは、その核戦争に、日本も巻き込まれ、同時に被曝国である日本が、核戦争に加担するということでもある。
○具体的なリスクや展望をふまえた国会審議を
以上のシナリオは、あくまで最悪の中の最悪の場合を想定したものであり、そうならないことを筆者も切に願っている。ただ、現在の国会審議を観ていると、安倍政権は具体的なリスクや展望を示さず、ただ「米国との同盟強化」「抑止力の強化」という漠然とした説明しかしていない。安倍政権も、それを批判する野党側も、米国のタカ派の対中東戦略を研究し、具体的にどのような事態が起きうるか、真剣に考えた上で国会審議を行うべきなのである。