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欧米の制裁でロシア資本流出―制裁長期化でプーチン政権崩壊も

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ニューヨーク大学国際問題センターのガオレッティ教授=大学サイトより
ニューヨーク大学国際問題センターのガオレッティ教授=大学サイトより

3月下旬のウクライナ南部クリミア半島のロシア編入以降、欧米を中心とした西側陣営の対ロシア制裁が続く中、新たな“東西冷戦”の始まりを象徴するように、バラク・オバマ米大統領は4月3日、上下両院を通過した11億5000万ドル(約1200億円)の対ウクライナ金融支援(融資保証と直接融資)とさまざまな対ロシア制裁措置の実施を可能にする法案に署名した。これに対し、ロシアもすでに経済が破綻状態にあるウクライナへのロシア産天然ガスの輸出価格の大幅引き上げで、同国を支援する米国とEU(欧州連合)に対しても政治的圧力を強め始めた。

今後、この東西冷戦の行方はどうなるのか、また、ロシア制裁の効果について、ロシアの専門家の論調を探ってみた。英紙フィナンシャル・タイムズは3月31日付電子版の社説で、「クリミア半島のロシア編入は、ロシアにとって1945年以来の欧州の領土獲得となる。それだけに西側陣営は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がこれを皮切りにウクライナの領土分割を目指すと懸念しているが、ウクライナの新政権との関係が悪化した今となっては、プーチン大統領はウクライナのEUとNATO(北大西洋条約機構)への参加を阻止するためにウクライナの領土分割は必要と信じている」とし、その上で、「ロシアはウクライナ国境に4万人の軍隊を集結させており、ロシア語圏のウクライナの南部と東部を占領するだろう」と指摘する。

しかし、外交や軍事力の面で圧倒的な存在感を示すロシアも経済は西側の制裁発動以前から弱体化しており、プーチン大統領の政権維持さえ揺るがしかねない状況にあることも事実。世界銀行は3月26日に西側との経済関係の悪化で今年のロシア国内からの外国資本の流出額は1500億ドル(約15.6兆円)になるとの予想を発表した。また、ロシアの今年のGDP(国内総生産)伸び率も最悪シナリオで1.8%減、ウクライナ危機が短期的で終息するシナリオでも1.1%増と、昨年12月予想時の2.2%増を大幅に下回るとしている。ロシア経済発展貿易省のアンドレイ・クレパチ次官もモスクワ・タイムズの3月26日付電子版で、1~3月期だけでも外国投資資金の流出額が700億ドル(約7.3兆円)と、昨年1年間の資本流出額627億ドル(約6.5兆円)を超え、2008年の世界金融危機以来6年ぶりの高水準に達すると予想している。

制裁長期化でロシア政権にくさび打ち込めるか

南アフリカ4大銀行の一つ、スタンダード銀行の英国チーフエコノミスト(ロシアなど新興国専門)、ティモシー・アッシュ氏は3月27日、筆者も同席取材した欧州外交評議会(ECFR)の講演で、「ロシア経済のバランスシートを見ると、財政状態は良く経常収支もここ数年は黒字、外貨準備残高も4930億ドル(約51兆円)と、10カ月分の輸入支払いが可能で、財政基金も1800億ドル(約19兆円)に達する。国内の公的債務残高も対GDP比約12%、対外債務も同35%と低く、ロシア経済は西側の制裁に十分、持ちこたえるように見える。しかし、これは経済ストックでみた限りの話で、国際取引のフローで見るとロシア経済は極めて危うい。実際、2008年のリーマンショック当時、ロシアは強いバランスシートを持ちながら、成長率はショック前の7%からショック後は2.9%に急低下している」と指摘し、「今回のロシア制裁で、ロシア経済はリセッション(景気失速)に陥り、金利が上昇し、外国からの資金流入や直接投資も減少する。その意味でロシア制裁はプーチン政権をウクライナに対し中立的な立場に向かわせ、かつ、ウクライナ政府に困難な構造改革に取り組ませるチャンスを与える」と、制裁の継続こそがロシアの膨張戦略の抑制に効果を発揮すると見ている。

一方、ロシアの安全保障問題の世界的権威として知られるニューヨーク大学国際問題センターのマーク・ガオレッティ教授も同日の講演で、西側のロシア制裁について、「すでに制裁の効果でロシアは打撃を受けており、今後、ロシアは西側に対しそれ以上の問題を引き起こすだろう。それは(内戦で揺れる)シリアや(核問題の渦中にある)イランの問題に飛び火することになる」と警告する。ただ、同教授は、「ロシア制裁が長期化すればするほど、ロシアの政治システムにくさびを打ち込むことになる。それは、プーチン大統領自身が変わるかことを意味するのか、あるいは、ロシアのエリート層がプーチン大統領の辞任を求め、新しい指導者を据えることになるのかだが、制裁が長期化すれば、国民はドイツの高級車メルセデスベンツとプーチンのどちらを選ぶかと言われればベンツを選ぶだろう。制裁の長期化でプーチン政権は倒れる」と予想する。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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