「スペースインベーダー」オンライン展示から見えたゲームアーカイブの新たな可能性
グーグルは、世界各地の文化遺産を鑑賞できるオンラインプラットフォーム「Google Arts & Culture」の運営を2011年から続けている。
本プラットフォームは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)、オルセー美術館、東京国立博物館など世界中の文化施設が参加しており、これらの施設が所蔵する芸術品の写真や動画、文化史などの解説を誰でも無料で見ることができる。
そんなプラットフォーム内に、実は昨年から日本の老舗ゲームメーカー、タイトーのページが開設されている。
同社のページでは、1978年に稼働を開始し、全国各地で大ブームを巻き起こしたアーケードゲーム「スペースインベーダー」と、「スペースインベーダーの進化」と題した2つのストーリー(オンライン展示)が公開されている。すでに公開されて久しいが、同社の展示は日本の熱心なゲームファンの間でもあまり知られていない感がある。
貴重な資料を多数公開、大ヒット作の歴史が学べるページ構成
筆者がタイトーに取材をしたところ、同社のページが本プラットフォームに開設されたのは、グーグルの協力により昨年7月に配信を開始したARアプリ「スペースインベーダー ワールドディフェンス」で縁ができ、招待を受けたことがきっかけだったという。
「弊社のページは『スペースインベーダー ワールドディフェンス』のグローバル配信に合わせ、2023年7月18日に公開しております」(タイトー広報)
「スペースインベーダー」のストーリーを見ると、本作の基板や筐体(きょうたい)、ポスターのほか、ブーム期に続々と誕生した「インベーダーハウス」(ゲームセンター)店内の貴重な写真が、社会現象となった当時の出来事の解説文とともに公開されている。
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「スペースインベーダーの進化」のストーリーでは、手書きによる「スペースインベーダー」の貴重な開発資料のほか、シリーズ第2弾にあたる「スペースインベーダー・パート2」をはじめとする、歴代の主なシリーズ作品が紹介されている。
さらに「スペースインベーダーの進化」のストーリーでは、元祖「スペースインベーダー」のプレイ動画も2本公開されている(※動画は6年ほど前にタイトーが公式YouTubeチャンネルで公開したものと同内容)。
単に資料を並べるだけでなく、プレイ動画も用意することで、読者にゲームの内容がより伝わりやすくなっているように思われる。しかも公開中の動画は、ブーム当時にプレイヤー間で有名になった「名古屋撃ち」と「レインボー」の裏技を再現したものであり、ブーム期のトレンドをアーカイブするという意味でも、とても良い試みであるように思われる。
タイトー広報によると「弊社からは積極的な宣伝活動は行っていないこともあり、弊社にユーザーの方々からのお声が直接届くことはごくわずかです。そんな中でも、タイトーページを読んでくださった方々からは『想像以上に充実していた』『素晴らしい活動』などお褒めの言葉を頂戴しています」とのこと。
また、今後は「スペースインベーダー」以外のページも公開する予定があるのかと筆者が尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
「芸術や文化を発信する新時代のプラットフォームである『Google Arts & Culture』の主旨に賛同し、まだ具体的にお話しすることはできませんが、これからも弊社が保有するアセットをデジタル公開する活動を続けていければと考えております。
『Google Arts & Culture』を弊社作品に関する情報リソースのひとつとして活用いただいたり、ゲームを芸術・文化という観点から眺めることで新たな発見をしていただいたりと、この活動を通じ、ゲーム文化に貢献できればと考えています」
「オンラインゲーム博物館」のさらなる普及に期待
すでに多くのメディアで報じられているように、任天堂の公式資料館「ニンテンドーミュージアム」が京都府宇治市に間もなく完成する予定だ。またコーエーテクモゲームスは、2026年に横浜のみなとみらいに竣工予定である、世界初のゲームアートミュージアムに関与するのではないかとも報じられている。もっとも、これらの大規模施設に取り組めるのは豊富な資産を持つ、一部の大手メーカーに限られるだろう。
だが十分な資産、とりわけ広大な土地や建物を持たないメーカーであっても、「Google Arts & Culture」のようなバーチャル空間を利用すれば、自社のミュージアム構築が容易に可能となるのではないか。本稿で紹介したタイトーの展示は、実機によるプレイ体験はできないものの、内容はとても充実しており、新たな形でゲームアーカイブが促進される可能性を示したように思えてならない。
タイトーの試みを機に、今後は同社以外のメーカーも「Google Arts & Culture」内に展示コーナーを設けるようになるのか、大いに注目したい。
提供:Google Arts & Culture
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