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「プロ野球選手としての」最多安打記録は、イチローか、ローズか、カッブか。そして、ニグロリーグのこと

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

メジャーリーグ、マーリンズのイチロー外野手は15日(日本時間16日)のパドレス戦で2安打を放ち、日米通算で4257安打とし、ピート・ローズの持つメジャー歴代最多安打記録をこえた。

イチローが記録した4257安打は日本のプロ野球で記録した1278安打とメジャー移籍後2979安打の合計。一方のピート・ローズはメジャーリーグの通算安打数である。

そのため、イチローがピート・ローズの通算安打数に並び、さらに更新しても、メジャーリーグの公式記録とはならない。しかし、非公式記録だからといって、イチローが日本のプロ野球で初安打を記録してから超人的な、超選手的な活躍をしてきたことには変わりない。

イチローと同じようにメジャーリーグと他のプロリーグとの通算安打数を合計した場合、通算4000本安打を超える選手たちはbaseball-reference.comによると、9人いると言われている。

baseball-reference.comでは、メジャーリーグ以外の、他のリーグ(米国外のトップレベルのプロ野球リーグ、ニグロリーグ、マイナーリーグ、ポストシーズン)との通算安打数を算出している。

「プロ選手として」通算4000本安打を記録した9選手のリストを同ウェブサイトから引用した。

現役選手であるイチローの安打数は筆者が書き加えた。

ピート・ローズ    4769本

内訳

メジャーリーグ 4256本

マイナ―リーグ 427本

ポストシーズン  86本

タイ・カッブ     4379本 

内訳

メジャーリーグ 4189本

マイナーリーグ  166本

キューバ     7本

ポストシーズン  17本

イチロー       4284本

内訳

メジャーリーグ 2979本

NPB     1278本

ポストシーズン  27本

※オリックス二軍時の安打数は後に記述。

ハンク・アーロン   4245本

内訳

メジャーリーグ 3771本

マイナーリーグ  324本

ニグロリーグ   41本

プエルトリカン  84本

ポストシーズン  25本

デリック・ジーター  4219本

内訳

メジャーリーグ 3465本

マイナーリーグ  554本

ポストシーズン  200本 

ジガー・スタッツ   4093本

内訳

メジャーリーグ  737本

マイナーリーグ 3356本

ミニー・ミノソ    4073本

内訳

メジャーリーグ 1963本

マイナーリーグ 1144本 

キューバンリーグ 838本

ニグロリーグ 128本   

フリオ・フランコ   4030本

内訳 

メジャーリーグ 2586本

マイナ―リーグ  980本

NPB      286本

KBO(韓国)  156本

ポストシーズン   22本

スタン・ミュージアル  4023本

内訳

メジャーリーグ  3630本

マイナーリーグ  371本

ポストシーズン   22本

※イチローのオリックス在籍時の二軍で放った安打156本も合計すると、「プロ選手としての通算安打」でも、タイ・カッブを抜いてピート・ローズに次ぐ数字になる。

ニグロリーグ

私はイチローの日米通算安打数が取り上げられるたびに、ニグロリーグのことが頭に浮かぶ。 

メジャーリーグから黒人選手が締め出されたため、ジャッキー・ロビンソンが1947年に人種の壁を破るまで、黒人選手たちはニグロリーグでプレーしていた。

メジャーで通算3000本安打を記録したハンク・アーロンとウィリー・メイズは短期間ながらニグロリーグのチームに在籍していたことがある。同年代のアーニー・バンクスもニグロリーグを経てカブスと契約した。

もし、50-60年前にニグロリーグとメジャーリーグの通算成績という視点があったならば、ちがう評価を得た選手も過去にはいたかもしれない。

ニグロリーグはメジャーリーグに劣らぬレベルであったと伝えられている。ニグロリーグを経たアーロン、メイズ、バンクスの活躍を考慮すれば、十分に有り得ること。しかし、1900年代前半の出来事だけに振り返って検証できる資料に乏しい。公式に試合のスコアなどが記録されることもなかったようだ。

2000年に、メジャーリーグ機構では米野球殿堂博物館に資金援助をし、数年かけてニグロリーグの記録を新聞や資料から発掘し、調べるという一大プロジェクトを行ったことがあった。プロジェクトは数年かけて行われ、この調査に基づいて、2006年にニグロリーグから17選手を殿堂入りに選出した。

この記事を書くにあたって、アーロンやミノソのニグロリーグでの安打数はbaseball-reference.comのデータを引用しているが、baseball-reference.comが米野球殿堂の協力によってニグロリーグの成績等を入手したのは2012年のことだ。

メジャーリーグとニグロリーグの両方でプレーした選手の通算成績を把握するというのはそれ以前には難しかったようだし、そういった合算記録が話題になることもなかったようだ。

イチロー選手が日米を驚かせるほどの安打を量産してきたからこそ、「日米通算安打数」という視点を得ることができた。Baseball-reference.comが「プロ野球選手として」4000本安打を打った選手のリストも作成したのも、イチローを評価するための「日米通算安打数」という視点が関係していると思う。

数字の上で「プロ選手として」最もヒットを放った野球選手を調べることは楽しい。

世界の安打王はピート・ローズかイチローか。

しかし、イチローの「日米通算安打数」、ローズの「メジャー通算安打数」とを比べて、どちらが安打王かを決めることはできないように思う。

それでも、私は、この9人のリストを見ながら、超打者級のヒットマンたちが、マイナーからメジャーリーグへ、日本やキューバやニグロリーグでも安打を重ねてメジャーリーグへ、どこへ行ってもバット一本で球場を沸かせたことを思い出したり、想像したりするだけで胸が躍るような感じがする。  

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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