切り裂き魔にスカ勝ち!シュートボクサー海人にみる“スターの条件”
格闘家における“スター”の条件とは何か。久しぶりに考えてみた。
格闘技好きがこのテーマで議論すると、それはもう各人各様で、そのうち「じゃあ自分が思う歴代スター選手って誰よ」とか、「そもそもスターとエースとカリスマの違いって何よ」という風に話が広がり熱を帯び、結局、議論は次回に持ち越しに。このプロセスは、スター候補が出現するたびにループされることになる。
というわけで異論はもちろん承知の上で、現時点で私が思うスター選手の条件をあげてみると以下のようになる。
1. 戦績……強さは前提条件。どんなにキャラや弁が立っていても、黒星先行だとファンがノリ切れない。
2. スカ勝ち……スカッと胸をすくようなKO勝ちや一本勝ち。ここぞという正念場や大一番でこれが出ると信頼度や期待度が増し、登場するだけでドカンと湧く。
3. 幻想……「ひょっとしてあの選手にも勝てるんじゃないか?」「あの団体のチャンピオンとやったらどっちが強い?」「ああ見えて、じつはもの凄く努力家らしい」など、想像や噂話のネタになるということは、それだけファンの心をとらえているということ。
4. 感動……感動とは心の振れ幅。スランプからの脱出やライバルとの因縁の対決、屈辱的敗戦のリベンジなど、立ちはだかる壁が大きいほど乗り越えた先の感動は大きく、ファンの支持や思い入れの度合いもまた高くなる。
5. 明るさ……格闘技に限らずスターには根が明るい人がとても多いと思う。だからこその「Star」かもしれないが、中には「天然」と言われる人もいる。ポジティブで素直で他人のことをあまり気にしない。負けたときは目一杯悔しがるが、落ち込まない。落ち込んでも引きずらない。そういう人は応援しやすく夢も乗せやすい。
スターの条件について考えてみる気になったのは、立ち技格闘技の老舗団体、シュートボクシングで快進撃を続ける海人(かいと・20/TEAM F.O.D)の試合を見たからだ。
6月10日、東京・後楽園ホールで開催された『SHOOT BOXING 2018 act.3』で、海人はメインイベンターに抜擢された。そして、重責をものともしない派手な闘いをやってのけた。
対戦相手はこれまで日本人強豪をヒジ打ちで切り裂いてきたムエタイ戦士、ジャオウェハー・シーリーラックジム(32・タイ)。対する海人も6連勝中で、そのうち3試合は得意のヒジが炸裂。相手を裂傷による戦闘不能に追い込んでいる。
『SHOOT BOXING 2018 act.2』 海人vs不可思
試合前に流れる紹介映像でも「ヒジvsヒジ」の日タイ切り裂き魔対決が謳われ、両者の登場から会場の熱は高かった。さらに試合では、「ヒジで切ってやろうと思っていたが、パンチが思ったより入ったんで、パンチで決めちゃいました」と試合後、本人が語ったように、強烈な右アッパーから締めの右フックまでパンチの乱れ打ち。1ラウンド終盤で相手をのしてしまった。
厳しい自己評価をする海人は、勝っても笑顔が少ない。常々それが気になっていたのだが、会心のスカ勝ちで高揚したのか、この日は気持ちよく笑顔を弾けさせていた。
『SHOOT BOXING 2018 act.3』海人vsジャオウェハーTrailer
これで戦績は28戦24勝(11KO)3敗1無効試合に。
師であるシュートボクシング協会・シーザー武志会長も試合後「海人は強くなった。自信があるんだね。65Kgではナンバーワンじゃないか」と評価。『KNOCKOUT(ノックアウト)』参戦も示唆した。
強豪が集うキックボクシングイベントで、誰と対戦するのか? さらに11月の大一番『S-cup』でのワンデートーナメント優勝なるか? 今回の快勝で、海人が格闘技ファン・関係者の口の端に上る機会はぐんと増えるはずだ。
16歳でデビューした海人は、「イケメンすぎる格闘家」などビジュアルで語られることが多かったが、4年目を迎えた今、老舗団体のエースへと成長した。世間までその輝きが届くスターとなるには、ここからが勝負。先にあげた条件の中の「感動」をいかに生み出し、ファンと共有するかが大きな鍵となるだろう。
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