Yahoo!ニュース

【RISE】衝撃KOあり! まさかのアクシデントあり! 何かが起こりすぎたビッグマッチで起こったこと

藤村幸代フリーライター
K-1王者の与座(左)とRISE王者の中村の対抗戦は思わぬ結末に(C)RISE

対抗戦の不完全燃焼感は3・20 K-1に持ち越され爆発する?

格闘技のビッグマッチといえば、通常とは別格の会場の大きさに始まり、詰めかけた観客が満たす独特の空気感、勝負性や意外性のあるマッチメーク、この大会、この一戦に懸ける選手たちの熱量とのしかかる重圧、それを応援する周囲の期待値の高さなど、さまざまな背景が引き金となり、予想を超えた試合展開や劇的な結末、予想しえないアクシデントなどが発生しやすい舞台であるとの説がある。

「ビッグマッチには魔物が住む」とか「何かが起こる」と言われるゆえんだが、3月17日(日)、東京体育館で開催された『RISE ELDORADO(ライズ・エルドラド) 2024』も振り返るほどに、この説を裏付けるかのごとく何かが起きた、いや起こりすぎたイベントだった。そのひとつが、RISEライト級(63kg以下)王者の中村寛とK-1ライト級王者の与座優貴による現王者対決だ。

強烈なパンチから“人獣”の異名を持つ中村(左)だが、ローやハイにパンチ連打を織り交ぜるなど攻守に器用さを見せ、“全身凶器”と言われる与座に対して2Rにはジャッジ1名の支持を得た(C)RISE
強烈なパンチから“人獣”の異名を持つ中村(左)だが、ローやハイにパンチ連打を織り交ぜるなど攻守に器用さを見せ、“全身凶器”と言われる与座に対して2Rにはジャッジ1名の支持を得た(C)RISE

今大会では本戦15試合中5試合が各プロモーションの威信をかけた「RISE×K-1対抗戦」として組まれ、4試合終わった段階で2対2のイーブン。大将戦で雌雄を決することとなった。緊迫した試合は最終3R、与座のバックスピンキック(後ろ回し蹴り)によるKO勝ちとなったのだが、この一撃がローブロー、つまり反則の急所攻撃ではないかと物議を醸した。

試合後のコメントでも、ローブローのアピールがレフェリーに伝わらなかった中村は「歯がゆい」、勝った与座も「スッキリしない」と、両者とも不完全燃焼の思いを吐露。RISEの伊藤隆代表も「白黒つけるのが格闘技。もう1回やるべきだと思う」と、再戦が最善の解決策との考えを示した。

野性味あふれるファイトから「人獣」の異名を持つ中村だが、今回の試合では「想像より器用だった」と対戦した与座に言わせる試合巧者ぶりを発揮していた。もし再戦したら、今回以上に互いの能力を引き出し合う戦いになるかもしれない。気持ちと身体を立て直す難しさは承知しつつ、個人的にもぜひ“もう一丁”が見たい。

「RISE×K-1対抗戦」5試合の初戦となった田中佑樹vs齋藤紘也のホープ対決はダウンの応酬の末にK-1齋藤がKO勝利。もっと対抗戦らしい、バチバチのぶつかり合いだった(C)RISE
「RISE×K-1対抗戦」5試合の初戦となった田中佑樹vs齋藤紘也のホープ対決はダウンの応酬の末にK-1齋藤がKO勝利。もっと対抗戦らしい、バチバチのぶつかり合いだった(C)RISE

また本日、3月20日(水・祝)には東京・代々木第一体育館でK-1のビッグマッチ『K-1 WORLD MAX(ワールドマックス)』が開催され、ここでも対抗戦のパート2となる「K-1vsRISE対抗戦」5試合が行われる。ファンの間にくすぶる不完全燃焼感をうまく利用しつつ、爽快な勝ちっぷりで存在感をアピールする選手が出てくるか――。対抗戦の勝敗だけでなく、そこにもひそかに注目している。

RISE世界王者を吹っ飛ばした衝撃ファイター

「何かが起こりすぎた」というなかには、とんでもないファイターの出現というのもあった。その選手とはミゲール・トリンダーデ(ポルトガル)。セミファイナル(第14試合)でRISE65kg以下級の世界王者、チャド・コリンズ(オーストラリア)を左ハイキックで吹っ飛ばすなど、一気呵成の猛攻で初回KOに追い込んだ。

ONEやGLORYという世界の大手プロモーションでも実績をあげるトリンダーデ(左)が噂通りの強さを見せつけた。体格差にも泣いたコリンズだがRISE世界王者としてもこのままでは終われない(C)RISE
ONEやGLORYという世界の大手プロモーションでも実績をあげるトリンダーデ(左)が噂通りの強さを見せつけた。体格差にも泣いたコリンズだがRISE世界王者としてもこのままでは終われない(C)RISE

この試合のひとつ前、第13試合では、同じ65kg級で白鳥大珠が倒れ込んだ際にけい椎付近を打ちつけるなどアクシデントにも見舞われ、イ・ソンヒョン(韓国)に判定負けを喫した。ただ、栄養プランナーのもと19kgの大幅減量に取りくみ乗り込んできたイ・ソンヒョンは、70kgからの階級変更により33歳にして“再覚醒”した感があり、運よく勝ちを拾ったようには見えなかった。

コリンズと白鳥というRISEの顔の二人が敗れる波乱には驚いたが、同時にワクワク感も一気に高まった。RISEでは今年12月に世界規模の65kg級ワンデートーナメントを開催する予定で、参戦候補としてコリンズ、白鳥のほか前王者のペットパノムルン(タイ)、同級の日本人エースである原口健飛の名がすでにあがっている。彼ら優勝候補たちに割って入るどころか、圧勝するのでは? と思わせるに十分な実力を見せつけたトリンダーデ、そして侮れない伏兵の雰囲気が匂い立つイ・ソンヒョンを得たことで、年末のビッグイベントは「世界トーナメント」としての格や面白さも数ランク上がった気がするのだ。

3Rに左フックでダウンを奪い判定勝利したイ・ソンヒョン(左)。年末の世界トーナメントにエントリーなるか? 敗れた白鳥はXで「死ぬほど悔しい/返り咲くまでオレは諦めない」と巻き返しを宣言(C)RISE
3Rに左フックでダウンを奪い判定勝利したイ・ソンヒョン(左)。年末の世界トーナメントにエントリーなるか? 敗れた白鳥はXで「死ぬほど悔しい/返り咲くまでオレは諦めない」と巻き返しを宣言(C)RISE

至高の名勝負はまさか、まさかの持ち越しに

今大会では前半戦でもサプライズ続きだった。第1試合では欠場選手のピンチヒッターで登場したRISEバンタム級(55kg以下)王者の大﨑孔稀が、エキシビションながら強烈な左ボディでダウンを奪ってしまう見せ場を作り、次戦への期待をおおいに高めた。また那須川天心の弟、龍心がフライ級(51.5kg以下)1位の松本天志を技術で翻弄、下馬評を覆す判定勝利で6月大阪大会での王座挑戦者決定戦を猛烈アピールした。

判定勝利後、応援に駆けつけた兄の那須川天心(右)から祝福を受け笑顔で写真に納まる龍心。以前敗れている同級2位の塚本望夢に対し、王座挑戦権をかけた再戦をアピールした(C)RISE
判定勝利後、応援に駆けつけた兄の那須川天心(右)から祝福を受け笑顔で写真に納まる龍心。以前敗れている同級2位の塚本望夢に対し、王座挑戦権をかけた再戦をアピールした(C)RISE

KOのインパクトでは、バンタム級4位の大森隆之介が初回に放った右バックブローがあまりに鮮やかすぎた。その相手がシュートボクシングで13戦全勝9KOと快進撃を続ける山田虎矢太だからこそKOの価値も高く、大森は2024-25シーズンのRISE軽量級のキーパーソン候補に、一気に躍り出た。対する山田は、まさにビッグマッチの魔物の餌食となった形だが、山田本人も、送り出したシュートボクシングも、もちろんこのままでは終われないだろう。

目の覚めるようなバックブローで13戦無敗のシュートボクシング王者に初黒星をつけた大森(右)。左拳の負傷で1年3カ月のブランクがあったが、次につながる値千金の復活勝利をもぎ取った(C)RISE
目の覚めるようなバックブローで13戦無敗のシュートボクシング王者に初黒星をつけた大森(右)。左拳の負傷で1年3カ月のブランクがあったが、次につながる値千金の復活勝利をもぎ取った(C)RISE

あらゆる出来事を経てたどり着いたメインイベント、RISE世界バンタム級タイトルマッチは、王者・志朗vs昨シーズンの年間MVP・田丸辰(たまる・とき)という、至高の名勝負が約束されているような一戦だったが、1R終盤に偶然のバッティングで志朗が鼻骨を骨折。試合続行不可能により、まさか、まさかのノーコンテストに終わった。この一戦に関しては両者が望む通り、万全のコンディションまで回復した段階で一日も早い再戦を願うばかりだ。

志朗(左)v田村辰は志朗が偶然のバッティングで鼻骨を折り試合続行不可能に。「フェイントや駆け引きなど2人だけの対話ができていてハイレベルな試合ができそうだった」と志朗。次戦が待ち遠しい(C)RISE
志朗(左)v田村辰は志朗が偶然のバッティングで鼻骨を折り試合続行不可能に。「フェイントや駆け引きなど2人だけの対話ができていてハイレベルな試合ができそうだった」と志朗。次戦が待ち遠しい(C)RISE

本当にいろいろな事が起こった大会ではあったが、こうして改めて並べてみると、そのどれもが1戦だけで終わらない、終われない戦いだったことに気づく。あの二人の再戦を見るまでは、もやっと感が収まらない。あの選手の成り上がっていく姿、這い上がっていく姿を見届けたい、などなど。今回、思いがけなく張り巡らされた伏線を一つひとつ回収していくのも、今シーズンのRISE観戦の楽しみになりそうだ。

フリーライター

神奈川ニュース映画協会、サムライTV、映像制作会社でディレクターを務め、2002年よりフリーライターに。格闘技、スポーツ、フィットネス、生き方などを取材・執筆。【著書】『ママダス!闘う娘と語る母』(情報センター出版局)、【構成】『私は居場所を見つけたい~ファイティングウーマン ライカの挑戦~』(新潮社)『負けないで!』(創出版)『走れ!助産師ボクサー』(NTT出版)『Smile!田中理恵自伝』『光と影 誰も知らない本当の武尊』『下剋上トレーナー』(以上、ベースボール・マガジン社)『へやトレ』(主婦の友社)他。横須賀市出身、三浦市在住。

藤村幸代の最近の記事