量販店の女子トイレで盗撮した副校長 なぜ軽犯罪法違反で書類送検されたか?
岩手の量販店にある女子トイレで盗撮したとして、公立校副校長の男が書類送検された。「5年前から10回以上やった」と供述し、容疑を認めているというが、適用された罪名は軽犯罪法違反だった。なぜか――。
「盗撮罪」はない
この男が盗撮に及んだのは今年7月のことだ。スマホを使い、個室ドアの下から中の女性を撮影したが、気づかれたために逃げた。店の通報で捜査を進めた警察から8月に取調べを受け、自宅謹慎となり、9月に書類送検された。10月に入って県教委がこの事実を公表し、現在、検察による処分待ちの状態だ。
ただ、わが国には「盗撮罪」のような形で盗撮一般をストレートに規制し、処罰する法律がない。軽犯罪法が「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としているので、これを使うことになる。盗撮も「ひそかにのぞき見た」にあたるからだ。
しかし、刑罰は拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)か科料(千円以上1万円未満の金銭罰)に限られ、スマホやインターネットの普及で盗撮やその動画の拡散が社会問題化している現状からすると、あまりにも軽すぎる。
条例は自治体によってバラバラ
そこで、いまでは各自治体が迷惑防止条例を続々と改正し、「卑わいな言動」の一つとして盗撮を幅広く規制するという流れとなっている。この条例には懲役刑や罰金刑があるので、軽犯罪法よりも重く処罰できる。
その際に問題となるのが規制の範囲だ。もともと公的な空間における迷惑行為を処罰するための条例なので、不特定多数の人が利用、出入りできる「公共の場所・乗物」での盗撮が規制される点に変わりはない。駅や電車などがその代表だ。
問題は、これらに加え、よりプライベートに近い空間のどこまで規制の範囲を広げるかだ。例えば「公衆が衣服の全部・一部を着けない状態でいる場所」を規制の対象としていれば、温泉の浴場や脱衣場、海水浴場やプールの更衣室、衣料品店の試着室、駅や公園、コンビニ、飲食店、量販店のトイレでの盗撮を処罰できる。
さらに「公衆」を「人」と変え、「人が衣服の全部・一部を着けない状態でいる場所」を規制の対象にすれば、個人宅の浴室やトイレ、寝室、学校や会社の更衣室やトイレ、ホテルや旅館、民泊の客室、病院の診察室など、より私的な空間での盗撮まで条例違反に問える。
このほか、学校や塾の教室、会社の事務室、カラオケボックスやネットカフェの個室、貸し切りバスやスクールバス、タクシーの車内など、どの空間まで盗撮を規制するかについては自治体ごとに判断が異なる。
岩手は規制の範囲が狭い
現時点で規制の範囲が最も広いのは大阪と三重だ。府下や県下のあらゆる空間における盗撮が処罰される。一方、最も狭いのは青森、長野、広島のほか、今回の岩手だ。いまだに「公共の場所・乗物」での盗撮しか規制されておらず、量販店のトイレ内での盗撮を条例違反に問うことはできない。
長野や広島は規制拡大に向けて条例改正の作業を進めているが、実現はまだ先の話だ。このため、岩手など4県では、原点に戻って格段に軽い軽犯罪法違反で立件せざるを得ない。
もっとも、男は盗撮目的で女子トイレに立ち入っているので、刑法の建造物侵入罪に問うことはできる。最高刑は懲役3年、罰金だと10万円以下だ。軽犯罪法違反と併せて立件、起訴することも考えられる。ただ、これでは卑劣な盗撮行為そのものを正面から重く処罰したことにはならない。
同じ東北でも、宮城や山形、秋田、福島の条例であれば、量販店のトイレ内での盗撮を処罰できる。同じような場所で同様の盗撮に及んでも、ある自治体だと処罰でき、別の自治体だと重く処罰できないというのは不合理だ。盗撮規制について自治体ごとに差を設ける合理的な理由や必要性などないからだ。
本来は自治体任せにせず、国が法律で盗撮罪を創設し、犯罪の成立要件を明確化した上で、全国一律で規制するとともに、厳罰化することが望ましい。(了)