殺人スズメバチ擬態で恐怖を誘うトラカミキリ=昆虫の超絶擬態を暴く⑧
虫捕りや虫撮りをしていて、一番怖いのはスズメバチだ。日本ではクマに襲われて死ぬ人よりも、スズメバチに刺されて死ぬ人の方がずっと多い。そんな恐ろしいスズメバチの中でも最大、最強のオオスズメバチは、まさに殺人蜂だ。気の弱い昆虫記者は、オオスズメバチが近づいてくると、恐怖で凍り付いてしまう。
そんなオオスズメバチに色、模様、大きさともそっくりなカミキリ虫がいる。それがトラカミキリ(トラフカミキリとも言う)だ。強力な毒針を持つオオスズメバチに似ていれば、天敵に襲われにくくなるというメリットがある。
トラカミキリに出会う機会はそれほど多くない(まだ数回しか見たことがない)ので、見つけたら絶対に捕まえて写真を撮りたいといつも思っているのだが、昆虫記者は一度、このスズメバチ擬態に騙されて、トラカミキリを取り逃がしたことがある。
その時は、すぐ目の前までトラカミキリが飛んできたのだが、恐怖のあまり思わず身をかがめてしまったのだ。その虫が飛び去って行く姿を見てようやくトラカミキリだと認識したが、もはや後の祭り。いまだにあの時の悔しさは忘れられない。
しかし、オオスズメバチをトラカミキリと思って捕まえて、大惨事になるよりは、逆の思い違いの方がまだましだとも言える。トラカミキリに出会う確率よりもオオスズメバチに出会う確率の方がずっと高い。なので、一般の人々は、トラカミキリが飛んできても、まずはオオスズメバチだと思って接触を避けた方がいい。
トラカミキリよりかなり小さいヨツスジトラカミキリは、大きさ的にアシナガバチに似ている。アシナガバチに刺されてアナフィラキシーショックで死亡する例もあるので、やはり怖い。ヨツスジトラカミキリは、トラカミキリよりずっと数が多く、「毎年何十匹も目にしているので、蜂と見間違うことはない」と言いたいところだが、目の前に飛んでくると、やはりビビってしまう。昆虫記者は非常に憶病なのである。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)