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前世界チャンプのカムバック

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:山口裕朗

 2023年1月6日に、WBOミニマム級タイトルを手放した谷口将隆(29)。減量苦もあり、8月5日にライトフライ級で再起した。対戦相手は大ベテランの43歳、堀川謙一。5ラウンドに顎を2カ所骨折しながら、谷口は勝利を掴んだ。

 試合後、即、顎を手術し、1週間入院。ドクターは「スパーリングが出来るまでに半年かかる」と前世界王者に告げたが、8月15日より、ジムワークを開始している。

 そんな谷口に話を聞いた。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「堀川さんとの試合は、当初、探りながらやっていて、ボディが当てやすいなと感じたんです。それで序盤は何度か左ボディアッパーをヒットして、ペースを掴むことが出来ました。試合前のプランでは、ノーモーションの左ストレートを当てる予定だったのですが、ボディの方が当たるなぁと。

 1.3kgの差は大きかったです。減量に関していえばミニマム級では『キツイ』と思ってから、1kg絞らなければなりませんでした。が、ライトフライ級はそこでもうリミットでしたから。なので、精神的なゆとりがありましたね。堀川選手の肉体的な大きさや、パンチ力も正直、それほど感じなかったです」

 左ボディで流れを引き寄せた谷口だったが、5ラウンドに堀川の左アッパーを喰らい、深刻なダメージを負う。

 「自分が準備したものってありますよね。最初は、僕が相手の出鼻を挫くような左ストレートを出しながら右足に重心を置き、そこをディフェンスの起点としていたんです。ですが次の展開を考えて、後ろに体重を持っていって右の拳を上げて懐を深くしたんですよ。でも、その外側から、堀川さんの左アッパーが飛んできました。完全にカードの出し間違えでしたね」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 顎の骨折は、5ラウンドの中盤だった。

 「アクシデントが生じたのは分かりました。下の歯が飛んで行ったのか、折れたかどちらかだと思っていましたね。舌で下の歯を探したんですが、当たらないんですよ。顎がカコカコ動くので『あぁ、これは折れたな』と。

 その後も、堀川さんのパンチを躱そうとしたんです。でも、体が衝撃を覚えていました。彼のアッパーが飛んでくると、体が固まっちゃったんですね。ワンテンポ反応が遅れてるなと感じ、以降はブロックに変え、リターンを返すようにしました」

 谷口は6回以降、左ストレートで、ポイントを稼いだ。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「堀川さんは味を占めたというか、アッパーばかり打ってきました。もっと冷静にボディなんかを狙ってきていたら、危なかったかもしれません。ただ、アッパーをフェイントにした左フックは上手かったですね。

 試合内容は全然ダメでしたが、強い堀川さんに勝てたということを、プラスに捉えています。年内にもう一試合やりたかったけれど、ライトフライで生き残れたことを良しと受け止めたいですね。骨折して、物凄い痛みを乗り越えて勝てたのはプラスになりました。試合内容よりも、痛みの記憶の方が残っていますよ」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 今日もジムで汗を流す谷口は結んだ。

 「一度世界を獲って、僕を見てくれる人に"何か"を伝えられるボクサーになりたいな、と思うようになりました。人間としてもです」

 谷口は、傷を回復させながら、しばらくジムで地道にトレーニングする日々が続く。そんな経験もまた、彼を成長させるに違いない。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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