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藤井聡太七段(17)今期B級2組順位戦2連勝スタート 元A級の橋本崇載八段(37)に速攻から完勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月6日。東京・将棋会館においてB級2組順位戦2回戦▲藤井聡太七段(17歳)-△橋本崇載八段(37歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は19時50分に終局。結果は85手で藤井七段の勝ちとなりました。

 今期B級2組で藤井七段は2連勝。橋本八段は1勝1敗となりました。

 藤井七段は次回3回戦、鈴木大介九段と対戦します。

藤井七段、先手のアドバンテージを広げて勝利

 藤井七段は将棋を覚えてから一貫して居飛車党です。振り飛車を指したのは、奨励会で香落の上手(うわて)を持ったときぐらいだそうです。

 一方の橋本八段は居飛車、振り飛車、どちらも指せるオールラウンダータイプです。

 後手番の橋本八段は相手の出方によって、どちらにも移行できる立ち上がりです。

橋本「出たなりと言いますか。(相手の)手順によって矢倉になったり雁木になったり振り飛車になったりですけど。ちょっと(藤井七段が飛車先の歩を五段目にまで進める)▲2五歩を決めるタイミングが遅いので、矢倉ってことなんですけど。ちょっとやっぱり、後手の(遅れている)一手が痛くて、うーん・・・」

 将棋は先手側にわずかにアドバンテージがあります。藤井七段は序盤で先手番の得をいかし、主導権をキープしたようです。

 藤井七段は左美濃から腰掛銀に組んで、スキあらばいつでも速攻できる構えを作ります。

 昼食休憩後、橋本八段は28手目、△4二銀右と陣形の組み替えを目指しました。もう一手△4三銀まで指せれば「銀矢倉」と呼ばれる堅陣となります。

 藤井七段は39分考え、▲4五歩と仕掛けていきました。あとで振り返ってみれば、これが機敏な動き方だったということがわかります。

藤井「飛車、角、銀、3枚の攻めなので、少し軽いところはあるのかなと思ったんですけど。こちらの陣形が持久戦になるといけないので、仕掛けていってどうかなと思っていました」

橋本「ちょっと▲4五歩の仕掛けを軽視してましたね。あれで・・・。なんかちょっと軽いというか、感覚的になんとかなるのかな、と思ったんですけど。うーん、ちょっと・・・。スピードが違いましたね」

 藤井七段は攻めの銀を五段目に進め、引かずに橋本陣の銀矢倉を攻め続けます。

 35手目。藤井七段は▲2四歩と飛車先の歩を突きました。ここで橋本八段は1時間7分の長考に沈むことになります。

橋本「とりあえずその辺までは、△4二銀(右)と引いたからには、つじつまを合わせるためにはもうしょうがないんですけど。(▲2四歩)突いて△同歩▲4四歩となりますけど、ちょっとなんかどう応じても(藤井七段からの)攻めがつながるので・・・。そうしてみるとちょっと(苦笑)。ただ△4二銀引けないと、なんかこう、こっちはただ、なんていうんですかね、待ってるだけになって、いい時に攻められちゃう。うーん、まあ後手でどれだけちょっと、そういった条件を我慢するかだったんですけどね。△4二銀は昼休みの時になんかちょっと、これが利けばそこそこかなあ、と思ってたんですけど。うーん・・・。まあちょっとそうですね、仕掛けられてまずいという頭がなかったから、これはまあしょうがないですね。ちょっと、気がついたときにはもう、まずいなと思いましたね、はい」

 藤井七段はうまく攻めをつなげ、角銀交換の戦果を得ます。

藤井「激しい展開になるならこちらも低い陣形が生きるので、そういう意味ではある程度成功したのかなと思っていました」

 橋本八段はじっと辛抱を重ねます。

「まずいと気づいたあと、方針というか、どういうふうに挽回しようと思ったということでしょうか?」

 記者からの問いに橋本八段は苦笑しました。

橋本「いや、挽回不可能だと思ったですね、正直。やっぱり(藤井玉が左美濃に)囲えてるのと(橋本玉は居玉のまま)そうでない差があって。なんか、粘りがきかないですよね。なんかもうちょっと耐久力があるような玉形だったらまだがんばれる順もあるかもしれないですけど。(藤井七段側は)低い陣形だから仕掛けにくいと思ってたようなところもあるので。うーん、あれで攻め切られちゃうんじゃあ・・・ちょっと・・・もう・・・。うーん、ちょっと将棋のスピードが違いすぎましたね」

 57手目、藤井七段は▲8二角と橋本陣に角を打ち込んで、優位を確かなものとしました。そこで夕食休憩に入ります。

橋本「夕休のところはもう、ちょっとダメというか。指しようがないですね。うーん、しかし、あんまりなんかこう、振り返ってもそんなに悪手らしい悪手はない・・・ので・・・。ちょっと、工夫も足りなかったってのもあるでしょうし。藤井君の攻めがまあとにかく、キレがあったということですね」

 夕食休憩が終わって18時40分、対局再開。

 角銀交換の駒損で苦しくなった橋本八段は手勢をまとめ、飛車を中央に回って藤井陣を攻める反撃の形を作り、さすがの勝負術を見せます。

 一方、藤井七段は橋本陣に打ち込んだ角で堂々と左隅の香を取り、堂々たる指し回しです。

 橋本八段は中段に桂を跳ね出し、藤井陣にいやみをつけ、駒をはがしていきます。はためには気持ちわるそうにも見えるところです。しかし藤井七段は的確に受け、逆転のスキを与えませんでした。

藤井「いったん受けに回ってどこかのタイミングで反撃できればと思ってました」

 81手目。藤井七段は自陣が大丈夫と見て、頃やよしと中段に飛車を飛び出します。これが気持ちのよい最後の決め手でした。

藤井「▲3五飛車と走ったところでなんとか一手勝ちになったかなと思いました」

 適当な受けもない橋本八段。5筋に歩を成って、形を作りました。

 飛車を成り込み、勝勢の局面で藤井七段は席を立ちます。心憎いばかりの落ち着き方。

 

「勝つ人はそうなんですよ」

 ABEMA解説の深浦康市九段は、苦笑しながらそう言いました。

 盤の前に残された橋本八段は顔をあげて盤を見ず、しばらく目を閉じていました。

 盤の前に戻ってきた藤井七段は85手目、盤上中央に香を打ちます。飛車取りとともに橋本玉の逃げ場をなくす一手。

 橋本八段は腕を組み、少し宙を見上げました。そして少しうなずき、口元からマスクをずらして、紙コップを口にします。そして静かに、駒台に右手を乗せるしぐさをして、投了を告げました。

 藤井七段も深く一礼。対局が終了しました。

 藤井七段はこれで順位戦開幕2連勝となりました。

藤井「いい出だしになったかなと思いますけど、これからも厳しい戦いが続くと思うので、気を引き締めていきたいと思います」

 橋本八段は藤井七段との初対戦の印象を次のように語りました。

橋本「解説とかはよくさせてもらってるんで。対戦して・・・なんでしょうね。うーん・・・。(藤井七段は考えている時に手元で扇子をくるくる回すのが癖で)扇子を1回転させるごとに何手読んでんのかな、とか思いましたけど(笑)。ちょっと、こっちがとぼとぼ歩いてる間に、一瞬で抜き去られていく感じで、やっぱりスピードがすごいですね。ちょっと積んでるエンジンが違う感じがして。ええ。改めて強いなというふうに感じました」

「それでは感想戦を・・・」

 インタビューが終わった後、主催紙記者がそう声をかけました。

橋本「まあ、あのう、藤井君もハードスケジュールでしょうし、まあお開きにしたいと」

 橋本八段がそう笑って藤井七段を気遣います。両対局者、関係者が一礼をし、お開きとなりました。

 中2日をあけて7月9日。藤井七段は棋聖戦第3局で渡辺明棋聖と対戦します。五番勝負でここまで2勝の藤井七段はここであと1勝をあげると棋聖位を獲得。17歳11か月と、史上最年少でのタイトル獲得となります。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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