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新型コロナ「オミクロン株」 感染しても重症化しにくいって本当?現時点で分かっていること

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

オミクロン株が見つかってからわずか数週間で、感染者は世界中に広がっています。

この間にオミクロン株に関する多くの知見が集まってきました。

オミクロン株の現時点での広がりは?

オミクロン株が検出されている国や地域(GISAIDより)
オミクロン株が検出されている国や地域(GISAIDより)

オミクロン株による感染者は世界中で拡大を続けています。

2021年12月10日時点で、62カ国2382人のオミクロン株による感染者が報告されています。

日本ではこれまでに12例が報告されていますがすべて検疫で見つかったものであり、国内での感染例はまだありません。

しかし、アメリカ、イギリス、ベルギー、デンマーク、スペイン、アイスランドではすでに国内感染例と考えられる事例も報告されており、今後のさらなる拡大が懸念される状況です。

イギリスでは12月中旬にはオミクロン株がデルタ株を上回る試算

イギリスで5症例目が報告されてからの日数とそれぞれの変異株感染者の推移(UKHSA publications gateway number GOV-10645)
イギリスで5症例目が報告されてからの日数とそれぞれの変異株感染者の推移(UKHSA publications gateway number GOV-10645)

イギリスでは過去の変異株と比べても早いスピードでオミクロン株による感染者数が増加しています。

英国保健安全保障庁の試算では、12月中旬にはデルタ株の感染者よりもオミクロン株による感染者が上回る見込みである、と発表しています。

英国保健安全保障庁は、デルタ株と比較してオミクロン株は、

・家庭内感染が3.2倍起こりやすい

・濃厚接触者となった人が2倍感染者になりやすい

と試算しており、デルタ株よりもオミクロン株の方が感染力が強いことが示唆されます。

また、京都大の西浦先生らが南アフリカ共和国のGISAID登録データを利用した解析では、オミクロン株の実効再生産数はデルタ株よりも4.2倍であった、という結果が新型コロナのアドバイザリーボードで報告されています。

このように「デルタ株と比べてもオミクロン株の方が感染力が強い」というエビデンスが蓄積されつつあります。

オミクロン株に感染しても重症化しない、は本当?

オミクロン株が重症度に与える影響についても、徐々にデータが増えてきています。

WHOテドロス事務局長が「オミクロン株は従来の変異株よりも軽症になるかもしれない」と発言したこともあり、オミクロン株は弱毒化したのではないかという憶測が広がっています。

ハウテン州における感染者数と死亡者数の推移の比較(Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features)
ハウテン州における感染者数と死亡者数の推移の比較(Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features)

最初にオミクロン株が広がったハウテン州における感染者数と死亡者数との割合を見ると、確かにこれまでの第3波までと比べて死亡者数の増加が少ないように見えます。

しかし、これは現在の第4波ではハウテン州では50歳以上の57%がワクチンを接種していることなど、単純にウイルスの病原性だけを比較するのは困難です。

他にも、ヨーロッパで報告されている症例ではまた死亡例がないことや、アメリカで報告された43例のうち入院は1例のみで死亡者はいないことなどは、もちろん良いニュースではありますが、現在の感染者は若年者や活動性の高い旅行者が多くもともと重症化しにくいこと、過去の変異株の流行期とはワクチン接種率が異なりウイルスの病原性を比較するためにはより詳細な解析が必要なことから、現時点ではまだ「弱毒化したから大丈夫」と対策を緩めて良い状況ではないでしょう。

ワクチン効果は低下するが、ブースター接種で回復する

血清中に存在するオミクロン変異株に対する中和抗体の量について検証した実験室での研究がドイツ南アフリカ共和国スウェーデンなどから報告されていますが、いずれもデルタ株と比べて10〜30倍ほど低下するようです。

またファイザー社からは、3回目としてブースター接種をすると十分な量の中和抗体が産生されることがプレスリリースとして発表されています。

ファイザー社のmRNAワクチン2回接種後およびブースター接種後のワクチンの有効性(UKHSA publications gateway number GOV-10645)
ファイザー社のmRNAワクチン2回接種後およびブースター接種後のワクチンの有効性(UKHSA publications gateway number GOV-10645)

イギリスでは、ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ株56,439例とオミクロン株581例に対する実際の発症予防効果について検証をしています。

オミクロン株に対するワクチン効果はデルタ株よりもさらに落ちてしまうことが分かった一方、ブースター接種によって発症予防効果は80%近くにまで高まっています(ただしオミクロン株の症例数が少ないので今後の検証は必要です)。

こうした実験室や実際の症例におけるブースター接種の効果を見ると、やはりオミクロン株が国内に広がる前に、いかに国内でブースター接種を進めていくかが重要であることが分かります。

オミクロン株に対する今後の対策は?

懸念すべき変異株 VOCの特徴の比較(筆者作成)
懸念すべき変異株 VOCの特徴の比較(筆者作成)

オミクロン株が見つかってからわずか数週間で、多くの知見が集まってきました。

感染力やワクチンへの影響はデルタ株よりも強い可能性が高そうです。

また、病原性については弱まっているという憶測もありますが、今後の情報を待つ必要があります。

仮に弱毒化していたとしても、感染者数そのものが爆発的に増えてしまえば重症者は増え医療機関の逼迫に繋がりえます。

今は水際対策の強化を継続し日本国内への侵入をできる限り阻止・遅延させる必要がありますし、引き続きゲノムサーベイランスで検疫・国内での監視を行う必要があります。

オミクロン株が出現したとしても、私たちにできる感染対策は変わりません。

手洗いや3つの密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策をこれまで通りしっかりと続けることが重要です。

また、ワクチンはオミクロン株に対しても有効である可能性が高く、今後予定されているブースター接種についても時期が来ればぜひご検討ください。

ただし、ワクチン接種後もこれまで通りの感染対策は続けるようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

参考)

1. UKHSA publications gateway number GOV-10645. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 31

2. ECDC. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – data as of 10 December 2021 (12:00)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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