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40年以上、遺骨を掘り探し続ける男性との出会い。避けてきた沖縄のど真ん中の問題と向き合う

水上賢治映画ライター
「骨を掘る男」より

 沖縄出身の奥間勝也監督が、沖縄戦の戦没者の遺骨を40年以上にわたり収集し続ける具志堅隆松さんと共有した時間を通して、「沖縄」と「自身」に向き合ったドキュメンタリー映画「骨を掘る男」。

 本作を前にすると、少し考え込んでしまうかもしれない。

 なぜなら、教科書や映像作品などを通して、沖縄戦について知った気になっていなかったか、同じ日本でありながら日本という国とわたしたちは沖縄とほんとうにまともに向き合ってきたのだろうか。

 いや、そういう国や歴史や戦争という大きな枠組みだけのことではない。

 ひとりの人間の命を軽んじてはいまいか、ひとりの人間の死に対してこれほど無関心で鈍感できてしまっていていいのか。

 個人レベルでも、多くの問いと向き合わざるをえなくなるからだ。

 それほど具志堅さんの「行動的慰霊」とする遺骨収集は、多くの問いを投げかける。

 また、具志堅さんと向き合った奥間監督は自身がどこか遠ざけてきた「沖縄」と真正面から向き合い、ステレオタイプ化した沖縄ではない、沖縄戦の、沖縄のまったく別の顔をとらえる。

 それはいままでみたことのない沖縄戦と沖縄ではあるが、そこにはまぎれもない沖縄戦の現実が、沖縄の人々の心が現れている。

 本作を通して、沖縄の何を見つめ、何を語り、何を伝えようとしたのか。

 奥間監督に訊く。全七回/第二回

「骨を掘る男」の奥間勝也監督  筆者撮影
「骨を掘る男」の奥間勝也監督  筆者撮影

具志堅さんだったら、沖縄のど真ん中のテーマに取り組める

 前回(第一回はこちら)は、具志堅隆松さんとの出会いから、彼にカメラを向けて回すまでの経緯について語ってくれた奥間監督。

 話の中で、「沖縄出身の自分が沖縄を視野に入れて意識していながら、たとえば沖縄戦のことや基地のことといった沖縄のど真ん中のテーマに取り組めないできている。そのことに対して、うしろめたさというか。沖縄出身の映画作家として沖縄の重要な問題について語らないままでいいのかという気持ちが日増しに強くなっていきました。ひとりの表現者として、自身のルーツである沖縄をこのまま素通りし続けていたら、ほかのこともできないのではないか、おろそかにしてしまうのではないかと思い始めたんです。

 そこで、沖縄のことときちんとかかわって、向き合ってみようと心が決まったところがあった」と語った。

 そのように沖縄の問題に真正面から向き合って自分の作品を作ってみようとなった直接的なきっかけはあっただろうか?

「そうですね。その質問につながるかはわからないんですけど……。

 沖縄の大学を卒業後、上京して映像制作プロダクションで働き始めたのですが、そこでたとえばテレビ局のドキュメンタリーなどに多少かかわるようになったんです。

 そこでつながりができて、いい企画があったらといった話もいただくようになった。

 でも、沖縄の企画だけはもっていけないなと思ったんです。

 どういうことかと言うと、テレビで企画が通って沖縄のドキュメンタリーを作ったとします。ただ、当然ですけどテレビですから僕自身がすべてがコントロールできるわけではない。たとえばあるシーンを使うか、使わないかとなったときに若いディレクターである僕の意見が必ずしも通るとは限らない。演出も僕の考える演出が必ずというわけではなくて、プロデューサーの判断で違う演出が採用されることもある。

 で、番組が完成して放送されて、たとえば沖縄の知人に『なにあれ、なんであんなの作ったの?あそこのところとかぜんぜん自分たちのことわかってないじゃん』といった批判を受けたとする。そのときに、たとえそうであったとしても『いや、そこは自分の案が採用されなくて』とか、『あそこはプロデューサー判断で』とか、言い訳をしたくないといいますか。

 批判は全然OKなんです。でも、批判を受けたときに、ちゃんと『自分はこういう理由でこうしました』と説明できるようでないと作れないと思ったんです。

 つまりそれぐらいの気持ちがないと、沖縄のど真ん中の問題をテーマにした作品には取り組めないと思っていた。

 沖縄出身だからこそ安易に手を出したくなかったし、おいそれと手を出せないテーマでもあった。

 それで踏み出せないところがあった。で、たぶん意識はしていなかったですけど、どこかでとタイミングを計っていたところはあったと思います。

 ただ、ドキュメンタリーって難しくて、自分がこれならと思える人や出来事に遭遇しないと始まらない。というか始められない。そして、それがいつくるかはわからない。

 その中で、ようやく出会ったのが具志堅さんでした。

 具志堅さんだったら、沖縄のど真ん中のテーマに取り組めると思いました。

 もう沖縄の問題をやると決めたら、フルスロットルで取り組むことは決めていました。

 それぐらいの熱量をもって向き合わなければならない人であると思いました。

 ちょっと答えになっているかわからないんですけど、いま話した一連の考えが直接的なきっかけだったと思います」

「骨を掘る男」より
「骨を掘る男」より

遺骨の収集は生半可な気持ちで取り組めることではない

 では、話を戻すが、具志堅さんには、はじめどんな印象を抱いてカメラを回そうと思ったのだろうか?

「まず、具志堅さんの存在に圧倒されたというか。

 作品にも収めていますが、遺骨収集は生半可な気持ちで取り組めることではない。

 時間も労力もものすごくかかることで……。

 実際に現場に立ち会って、お手伝いしたときもありましたけど、たぶんみなさんが想像するよりもはるかに重労働で根気も必要で大変なんです。

 それを40年も続けているというのは並大抵のことではない。

 その遺骨を掘り続けている具志堅さんの存在に圧倒されました。

 ステートメントにも書いたんですけど、具志堅さんが収集現場でどう立ち振る舞い、動いているのか。

 遺骨収集の現場から何を受け取って、見つけた遺骨からどんなことを感じているのか。

 そういったことを映画の中で描いてみたいと思いました」

(※第三回に続く)

【「骨を掘る男」奥間勝也監督インタビュー第一回】

「骨を掘る男」ポスタービジュアル
「骨を掘る男」ポスタービジュアル

「骨を掘る男」

監督:奥間勝也

出演:具志堅隆松ほか

公式サイト https://closetothebone.jp/

ポレポレ東中野ほか全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C) Okuma Katsuya, Moolin Production, Dynamo Production

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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