「今できることはすべてやる」阪神・湯浅京己、順調なリハビリ 来週にはキャッチボールの予定
■順調なリハビリ
その足取りは、非常に軽やかだった。ウォーキングに続く軽いジョギングは、汗ばむくらいまでスピードを上げていった。
「快調走まではいってないですよ。でも、今日はちょっと速くなった」。そう言って、湯浅京己投手(阪神タイガース)は心地よさそうに汗をぬぐった。
胸椎黄色靭帯骨化切除術を終え、9月3日からリハビリをスタートさせた湯浅投手。ウォーキングと、会話ができる程度のスピードでのジョギング、ネットスローから始めた。(手術についての関連記事⇒「必ずまた1軍でアツく輝く。胸椎黄色靭帯骨化症の手術をした湯浅京己(阪神タイガース)は前向きに強く誓う」)
「投げられるんだったら毎日投げて動かしたほうがいい感じだったんで、先週は1日だけ休んだのかな。30球から始まって50球までやりました」。
今週に入ってからはネットスローを1日おきにし、一昨日10日は60球、今日は70球と数を増やし、来週にはキャッチボールをする予定だという。「許容範囲でちょっとずつ上げていっています。パルスつけて、数値もいろいろ見ながら」と、しっかり段階を踏んでいる。
昨日も朝の早い時間、ほかの選手の練習前にグラウンドに出てきた。「練習が始まってからだったら新井(雄太=リハビリ担当のトレーナー)さんも時間がとれないから」。すでに室内でのトレーニングを済ませ、新井トレーナーとともにウォーキング、ジョグを行った。
■「Naboso(ナボソ)」とは
ふと、ウォーキングやジョグをする湯浅投手のその左右の手を見ると、リレーのバトンのようなものを握っている。いや、バトンなわけはない。ウエイトなのだろうかと尋ねると、「Naboso(ナボソ)です」との答え。
「神経症状が出ているから、これで神経を起こしてスイッチを入れて。手術後すぐによくなるわけじゃないから、それをだんだんよくするために、これでバランス感覚とかももっと上げていく。今まで以上に足裏を踏む感じで立てれば、よりよくなるから」。
そう言って、カバンから数々の「Naboso(ナボソ)」とやらを取り出して披露し、説明してくれた。
「Naboso(ナボソ)」なるものはボールやスティック、ボード…さまざまな形がある。姿勢と動きのサポートを目的として作られたもので、足裏のコンディションをケアすることで、よりよいバランスや姿勢、体全体の動きをサポートするものだとか。
アスリートだけでなく、一般の人もリハビリや運動機能向上の手助けとして使うことができる。
手術が決まったあと、いろいろな検査をし始めたときに神経症状が出ていることがわかり、「症状とか考えたときに、やってったほうがいいなと思って、まとめて買って、手術後からやっています。病室でもやっていたし」。
水色のボールは「一昨年とかも使っていた。試合前とかに触って、手の神経のスイッチを入れる。ブルペンで、けっこうみんなやっている」そうだが、本格的に各種取り揃えたのは手術が決まってからだ。
靴下もあり、練習時に履いているというが、「感覚がやっぱよくなる。普通に気持ちいい。トゲトゲしているから」と笑う。足裏への刺激が、神経のスイッチになるのだという。 足裏の皮膚には、姿勢やバランスをコントロールするための小さな神経機械受容器が多く存在するためだ。
■スイメックスと酵素風呂を取り入れる
そのほか、「今できることはやっている」と、室内で軽い体幹トレーニングや下半身のエクササイズを行い、「問題ないです。意外と動けるなって思った」と話す。
さらには「やっぱり傷回りとか体幹部分、上半身は全体的に固まっている感じとかあるから」と、スイメックス(流水のエクササイズ用プール)や酵素風呂も利用している。
甲子園球場のクラブハウス内にあるスイメックスには週3~4回ほど通って、泳いでいる。「水の中は浮力があるからリハビリにいい」と、患部に負担をかけずにトレーニングできる。
酵素風呂も「血流をよくするために」と新井トレーナーと探し出し、「初めて行ったときにすごく気持ちよかった」と、今後も続けていく。
■背中をたたかないで!
手術をしたことで不安が取り除け、「気持ち的にもスッキリしている」と爽やかな笑顔を見せる。だが、ただ一つ、困っていることがある。
手術した箇所は背中のちょうどド真ん中、背番号の6と5の間あたりだ。たとえばトミー・ジョン手術だったり、手足の骨折などだったりすると、固定装具を着けているから一目瞭然だが、湯浅投手の場合は服を着ているとまったくわからない。それに本人も見た目がいたって元気なので、周りの人々も手術したことを失念しがちなのだ。
「だから、普通に背中を殴られたりするんすよ、バーンって。怖い(笑)。退院して帰ってきたときも、『うぇ~』みたいなのでハグして、バーンってやられたし。『おいおい、やばいって』ってのが、けっこうあった。マル(マルティネス)とか(笑)」。
外国人選手はとくに激しいと、怯えている。
■1軍のマウンドでまた、アツアツなピッチングを披露する
常に「今できること」に全力で取り組む湯浅投手だ。たとえ落ち込んでもすぐに前を向き、できることを探す。トレーナーにももちろん頼るが、自分でもよくなる方策を貪欲に調べる。不屈の男だ。
これまで幾度も試練を乗り越え、打ち克ってきた。今回も例外ではなく、その目にはすでに光が見えている。
1軍のマウンドでアツアツなピッチングを披露する日は、きっとまた来る。その日の笑顔を楽しみにしたい。
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(撮影はすべて筆者)