”テレビ離れ世代の作るテレビ”から漂う違和感の正体
番組表をチェックしているととある番組の概要文にそこはかとない違和感があった。
11月19日に放送された「ニッポンおもひで探訪 〜北信濃 神々が集う里で〜」と題されたドキュメンタリーの内容だ。
「この番組は伝統的な紀行ドキュメンタリー」の前に添えられた「おそらく」という言葉。
「どうか旅の最後までおつきあいください」とわざわざ謳われているのも気になる。
何しろ、このドキュメンタリーが放送される枠は『ドキュメント20min.』(NHK)。番組ホームページの「この番組について」という項目にはこう掲げられている。
そんな枠で果たして「伝統的な紀行ドキュメンタリー」が放送されるだろうか。
今年1月に発売された『GALAC』2023年2月号。編集委員として参加している筆者が企画を担当した「よみがえれ!深夜」特集で同番組のチーフプロデューサーを務める城秀樹氏に『ドキュメント20min.』について寄稿していただいた。
それによると、この番組は他のNHKの番組とシステムが根本的に違うのだという。
番組が立ち上がるとディレクターはもちろん、アナウンサーや撮影などの制作部門から、営業や総務部門など部署を問わず企画が寄せられ、入局したての新人から「気持ちが若い」54歳の局員まで手を挙げたという。その結果、番組初回は、初テレビ演出となる入局1年経ったばかりの新人ディレクターが担った。
実際、この番組は、あっと驚くような挑戦的な企画が多い。
伝統的な紀行ドキュメンタリー?
「ニッポンおもひで探訪 〜北信濃 神々が集う里で〜」のディレクターとしてクレジットされているのは木村優希。木村は2020年にNHK長野局が制作した泉澤祐希主演ドラマ『ピンぼけの家族』の演出も担当していた。
舞台は同じく長野。
『ニッポン探訪 〜北信濃 神々が集う里で〜』というタイトルが画面にあらわれ、「旅人」の宍戸開が「長野県は飯山市に来ました。実り多きどんな出会いが待ってるでしょうか。楽しみです」とレポートを始める。確かに「伝統的な紀行ドキュメンタリー」風だ。
宍戸が訪れたのは、豪雪地帯にあるという集落「沓津」。
まず小川で釣りをしている老人に出会う。
杉がたくさん生えているこの地域。「この集落で花粉症はいなかった」と老人は言うが、近くにいる子供は鼻をすすっている。
天ぷらをごちそうしてくれた女性は「すぐそこに家があったんだけど、みんな潰れちゃって」とつぶやく。
神社では、住民が一丸となっておこなっているという秋祭りの準備が進められている。
のどかな風景…なのだが、どこか違和感がある。なんだか不穏な気さえしてくる。
天狗による悪魔祓いや獅子舞が「おんべ舞」と呼ばれる舞を見せる祭りが終わると、宍戸が「代々続いていくといいんじゃないですかね」と感想を述べて番組が締められる。
あれ? これで終わり?
エンドロールが流れ始めるが、20分あるはずの番組なのにまだ約10分しか経っていない。
その時。宍戸があるものを見つけ、番組の”本編”が始まるのだ。
思えば番組冒頭に表示されたタイトルも事前にアナウンスされていたものと微妙に違っていた。
ここから予想とはまったく違う方向に番組が進む。
それはテレビだからこそできる、素敵な挑戦だった。
ぜひ、これ以上の前情報を入れずに見てほしい。番組は22日にBS1で放送される他、NHKプラスやTVerで27日の午前0:19 まで配信されている。
「わかりやすさ」への拒否感
前出の城CPは『ドキュメント20min.』の企画に共通する点をこう綴っている。
「ニッポンおもひで探訪」から漂った違和感も、その仕掛けだけが理由ではなく、そうした通常のテレビ番組とは違う意思から来るものだったに違いない。
そして城CPはこう締めくくっている。