クレーからグラスへ、再浮上を目指すクルム伊達公子
2015年も、クルム伊達公子の姿が、パリ・ローランギャロス(フレンチオープンテニス・グランドスラム第2戦)にあった。
ただし、シングルスは予選1回戦で負けたため、本戦ではダブルスのみの出場となった。
ダブルスのパートナーは、2010年ローランギャロス女子シングルス優勝者のフランチェスカ・スキアボーネで、クルム伊達と初めて組んだ。クルム伊達が44歳、スキアボーネが34歳で、二人合わせて78歳のペアとなった。
二人がダブルスを組むきっかけは、4月中旬にWTAボゴタ大会(コロンビア)出場時に、クルム伊達のツアーに帯同する中野陽夫コーチの勧めがあったからだ。
「(二人が)かみ合えば、いいイメージが湧くけど、かみ合わないイメージもできた。(フランチェスカは)メンタルが強いし、土(レッドクレーコート)も強いし、終始リラックスさせてくれるし、勝負所では、プッシュしてくれるし、リードしてくれる」(クルム伊達)
女子ダブルス1回戦では、2-6、7-6(8)、6-1、逆転勝ちを収め、久しぶりにコート上で、クルム伊達の笑顔が見られた。春頃の痛みを伴うプレーから改善されて、クルム伊達の打つボールにキレが戻り、動きも格段に良くなった。
「ここのところ、だいぶ良くなってきていた。練習でも動きがよかったし、肩の心配もほぼ無くなってきている。(動けていることについて)私の中では、それほど驚きはなかった」
昨年の秋から、クルム伊達を悩ませ続けて来た右側大転子や右肩や左ひじのけがは、ようやく快方に向かい、試合の緊張感の中でプレーしても問題がなくなった。
「パリでは最後まで痛みを感じることなく、スピードを抑えることをしなくてもいいくらい打てた」
最終的にダブルスは、2回戦で敗れたものの、クルム伊達の表情は明るかった。
「体は上向き。あとはどこまでテニスがついてきて、気持ちもバランスよくなれるか、そこが難しいところ。体が動いて、いい練習が積めれば、少し時間がかかってもとは思っている。そのきっかけがダブルスになればと思っていたので、すごく大きな1勝になったかなとは思います」
現在、クルム伊達のWTAランキングは、シングルスが150位、ダブルスが38位(5月25日付け)。シングルスでは、テニスの4大メジャーであるグランドスラムだと、予選から戦わなければならない(女子では、グランドスラム本戦ストレートインの目安は108位)。また、WTAツアーの大会本戦に出場することもできないため、予選から戦うか、ツアー下部のITF大会でプレーしなければならない。
6月からは、イギリスを中心としたヨーロッパで、グラス(天然芝)シーズンが始まるが、そのシーズンのクライマックスが、グランドスラムの第3戦・ウインブルドンだ。クルム伊達は、ウインブルドンのシングルスも、予選からの出場となる。ボールが弾む時に滑るグラスコートは、フラット系のボールを打ち、カウンターショットが得意であるクルム伊達のプレースタイルに向いている。
実は、ウインブルドンの予選会場は、本戦が行われる「オールイングランド ローンテニス&クロッケークラブ」ではなく、ローハンプトンにある「イギリス銀行スポーツグラウンド」のテニスコートが使用される(ウインブルドンもローハンプトンも、ロンドン中心街から南西に位置する)。
クルム伊達は、“伊達公子時代”のプロ3年目にあたる1991年以来のローハンプトンでのプレーになる。ちなみに、初挑戦は1989年で、当時18歳の伊達は、厳しい予選を3回勝ち抜いて、ウインブルドン本戦初出場を果たしたのだった。
「コンコルドの飛行機を見て、空を見上げたのは、覚えています。あんまり記憶にないですけど、予選しながら、ゴーッと(笑)」
ようやく体が動くようになってきたクルム伊達は、試合数をこなし、リハビリをやりながら練習やトレーニングの量も増やしつつある。再びメンタルが充実して、それに伴ってバランスよくテニスのレベルを引き上げることができれば、再浮上できると感じている。
「そこに到達するのに時間はかかると思います。正直、ランキング的には、難しい位置に来ていますけど、気持ち的には、1月の頃と比べれば、テニスへ対する気持ちは、決して悪い状態ではない。あとは、テニス。けがによって落ちてしまったフィジカル、テニスの勝負勘、それらを取り戻すことが何よりも必要。何かをきっかけに、流れは変わってくれる。誰にでも起こることを待つ準備を最大限やるしかない。それで結果がついてこなければ、仕方がない。やるべきことはやり切ってみようと思っています。今は」
再浮上のきっかけを、クルム伊達は、テニスの聖地といわれるウインブルドンで、本戦出場を果たしてつかむことができるだろうか。彼女の2015年シーズン後半を左右するような大事な戦いになりそうだ。