Yahoo!ニュース

モンチの置き土産と副作用。「スペイン化」を推し進めるセビージャが歩む道。

森田泰史スポーツライター
ゴールを量産するベン・イェデル(写真:ロイター/アフロ)

リーガエスパニョーラで、今季初めてレアル・マドリーに土をつけたのは、セビージャだった。

2017年夏、伝説的なスポーツディレクターであったモンチが、ローマへと去っていった。彼がいなくなって、1年あまりが経過した。数多の才能を世界中から発掘し、セビージャで爆発させ、のちの売却に繋げるという手腕は、誰にも真似できないものであった。

モンチの後任にはオスカル・アリアスが据えられた。だがクラブに落ち着きがもたらされることはなかった。セルタで結果を残したエドゥアルド・ベリッソ監督(現アスレティック・ビルバオ)はわずか6カ月で解任の憂き目に遭った。クビを切られる1カ月ほど前に前立腺がんを患っている事実が判明したベリッソ監督だが、その際にクラブは指揮官へのサポートを約束していた。解任の理由は成績不振だとされた。セビージャがシーズン途中に監督を交代したのは、2013年2月以来のことだった。

そしてセビージャはヴィンチェンツォ・モンテッラ監督を招聘する。しかし、コパ・デル・レイ決勝でバルセロナに0-5と大敗すると、スポーツディレクターのアリアスが解任される。この時点で首脳陣は指揮官の続投を決めていたが、最終的には9試合未勝利が続いたことが引き金となり、シーズン終了を待たずしてモンテッラも解任された。

■スペイン化とマチンの就任

1年間のうちに、3人の監督と2人のスポーツディレクターがめまぐるしく入れ替わった。まさにカオスの状況で、挽回を図るため、ホアキン・カパロスに声が掛かる。昨季終盤に「臨時監督」を務めたカパロスが、スポーツ部門を立て直すため、今季開幕前に正式に入閣した。

モンチの退任で、セビージャは確かに苦境に陥った。だが補強理念は受け継がれている。今夏、スティーブン・エンゾンジ、クレメント・ラングレ、ホアキン・コレア、ギド・ピサーロ、ダビド・ソリアらを売却して、9200万ユーロ(約120億円)を得た。

またカパロスを迎えたクラブが掲げている目標のひとつは、チームの「スペイン化」である。モンチの目は世界中に向けられていた。それが彼の補強策だった。ただ、その副作用として、セビージャはいつからか多国籍軍となっていた。

セビージャがこの夏に獲得したのはアンドレ・シウバ、イブラヒム・アマドゥ、マクシム・ゴナロン、セルジ・ゴメス、アレイシス・ビダル、トマーシュ・ヴァツリーク、ロケ・メサだ。S・ゴメス、再獲得のA・ビダル、完全移籍のメサがスペイン人選手である。

加えて、セビージャはスペイン人の指揮官を就任させる。昨季ジローナを1部に残留させたパブロ・マチン監督を招聘した。

マチン監督はジローナで3-4-2-1という、特殊なシステムを用いて、成果を挙げた。4-4-2が主流だった昨季のリーガにおいて、3バックと縦の4ラインは異質だった。セットプレーで11得点を挙げ、欧州5大リーグでトップの数字を残すなど、ジローナでは守備的なフットボールを実践。一方で、クリスティアン・ストゥアニ、ポルトゥといった選手を開花させた。

■攻撃を牽引する新2トップ

だがマチンはセビージャで3-5-2を採用することになるかもしれない。ウィサム・ベン・イェデル、アンドレ・シウバという強力な2トップがいるからだ。

A・シウバはすでにリーガで6ゴールを記録している。ベン・イェデルは、今季のリーガ第5節レバンテ戦(6-2)でハットトリックを達成した。セビージャに移籍して、4度目のハットトリック。これはダボール・シュケル以来、22年ぶりの記録だ。

ホルヘ・サンパオリ、ベリッソ、モンテッラ、どの監督もベン・イェデルに定位置を保証しなかった。事実、セビージャは今夏、ストライカーを狙っていた。ポルトゥ、ボルハ・マジョラル、マリアーノ・ディアスが候補に挙がり、マリアーノに関しては個人合意に至っていたと言われている。レアル・マドリーが優先権を行使しなければ、マリアーノを獲得していたはずだ。

だが首脳陣の心配は杞憂に終わった。ルイス・ファビアーノ、フレデリック・カヌーテ、カルロス・バッカ、ケヴィン・ガメイロ...。数多のストライカーが、セビジスタに歓喜を届けてきた。だがベン・イェデルは彼らに決して引けを取らない。およそ119分に1ゴールという得点率は、2000年以降セビージャでプレーした選手の中で最高の数字だ。

そのベン・イェデルを見いだしたのは、やはり、モンチだった。2016年夏、前シーズンにトゥールーズで23得点を挙げていたストライカーを、モンチは注視していた。そして、移籍金900万ユーロ(約1億円)で、彼の獲得を決めたのである。

2017-18シーズン、セビージャはチャンピオンズリーグでベスト8に進出した。現在のフォーマットにおける同大会で、クラブ史上初となる快挙を成し遂げた。一方で、宿敵ベティス(6位)より下位の7位でリーガを終え、セビジスタはフラストレーションを溜めた。

リーガ第6節で、セビージャはレアル・マドリーに快勝した。また、同日に行われた試合でバルセロナがレガネスに敗れている。バルセロナとレアル・マドリーが同節で敗れたのは、2014-15シーズンのリーガ第17節以来のことだ。「2強時代」に風穴を開ける。その道は開かれている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事