ディズニーの「メタバース」特許の権利範囲について
東京オリンピックでも使用されたドローンライトショーの基本特許(関連過去記事)やテーマパークでお土産を運んでくれるロボットシェルパの特許(関連過去記事)など、権利範囲の広い特許をしれっと取得していることが多いディズニーがメタバース関連で特許を取得したというニュースがありましたので、少し前の話ですが、その権利内容を調べてみました。
特許番号は、US11210843、発明の名称は”Virtual World Simulator”(仮想世界シミュレーター)、登録日は出願日は2021年11月18日(優先日は2020年7月15日)です。出願は米国のみです。分割出願(17/530,301)がまだ審査係属中になっています。米国以外の出願はなさそうです。
発明のポイントは、現実世界内で仮想世界をシミュレートすることで、ARヘッドセット等を不要にしつつ、特定の人だけではなく、そこにいる全員が仮想世界を楽しめるようにするところにあります。これを、「メタバース」特許と読んでしまってよいかは微妙なところかと思います。敢えて言うならば、「逆メタバース」でしょうか。ディズニーのビジネスモデルを考えれば、仮想世界で全てが完結してしまうのはまずいので、物理世界の施設で楽しめる方向性のアイデアを考えるのは理解できます。
やろうとしていることは、タイトル画像に示すように、物理世界にいる人などの位置をセンサーで検出し、それによりプロジェクターで投影する画像を調整することが中心になっています。一見、相当昔からあった慣用技術に思えます。少なくとも20年前くらいにラスベガスかどこかで見た記憶があります。スクリーンの前を人が歩くとそれに合わせてキャラクターが並んで歩いてくれるようなアトラクションです。他にも、たとえば、床に投影された水面を足先で触ると波紋が広がるような展示って普通にありますよね。
しかし、クレームをよく読み込むとさすがにこのような慣用技術そのままということはなく、新しい要素がありました。それでも、比較的自明なアイデアであることから、かなり昔の先行特許文献によって進歩性を否定され、何とか補正によって特許化に持ち込んでいます。結果的に、最終的な権利範囲が広いのか狭いのか正直よくわからず、権利行使した際にクレーム解釈、および、無効理由でもめそうな感じではあります。少なくとも冒頭で挙げた2例のように、絶妙のタイミングで出願して、驚くほど広範囲の特許を取得できたというパターンではなさそうです。
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