バイデン米大統領夫人のおしゃれテク 柄物の着こなしがお見事
アメリカのファーストレディ、ジル・バイデン(Jill Biden)さんはファッション面でも注目を集める存在です。現役の教師だけに、ジルさんの装いは奇をてらわないものが大半ですが、メッセージ性のある着こなしもお得意。
東京オリンピック開会式にはポジティブなメッセージを伴って来日することから、当日の装いも期待されます。そこで、今回は華やかな柄物ルックを通して、ジルさん流のおしゃれテクニックに迫ります。
洋服を通して、メッセージを掲げ、思いを伝える
■働く女性の手が届くブランドをチョイス
「主役はあくまでも大統領」という意識があり、一般的にアメリカ大統領夫人はエレガンスな正統派スタイルを好みます。トランプ大統領時代のメラニアさんはモデル出身とあって、例外的にゴージャスな装いを選ぶところがありましたが、歴代夫人の多くは節度や品格を重視。アメリカの老舗ブランドが仕立てたスーツやワンピースをまとうことが多くありました。
しかし、もともと教職に就いていて、博士号も持つ、自立した女性のジルさんはいい意味で自分流の着こなしポリシーを持っているようです。装いに静かなメッセージを込めるのも、彼女の流儀。
たとえば、こちらのルックではジャケットの背中に大きく「LOVE」の文字が描かれています。しかもロック調の見え具合で、これまでのファーストレディのイメージとは異なる印象です。
こちらはイギリスで開催されたG7サミットに出席した際の装い。これ以上ないほどの重要な外交舞台ですが、ジルさんは自分らしさを守っています。このジャケットはフランスブランドの「ZADIG & VOLTAIRE(ザディグ エ ヴォルテール)」製。フレンチカジュアルが基本のテイストで、フォーマルな晴れ舞台にはなかなか異色のセレクト。自国ブランドではない点も、トランプ政権の「アメリカ第一主義」と距離を置くかのようです。
■新品ではなく、愛用し続けたジャケットをカスタマイズ
このジャケットはバイデン大統領が就任する前の2019年から愛用している私物だとか。サミット用にカスタマイズしたそうです。当日のインタビューではジャケットの文字に関して「アメリカからの愛を携えてきました」とコメントしています。おしゃれポリシーをきちんと自分の言葉で語れるところにもリスペクトを感じます。
■愛着を重んじる、服との向き合い方はサステナブル
セレブリティの中には、「同じ服で人前には出ない」とばかりに服を取っ換え引っ換えする人も珍しくありません。でも、ジルさんはこのジャケットを着て3年目。1着の服を長く着るのは、サステナビリティーの点で好ましい態度と映ります。カスタマイズを加えて、新しい表情を引き出すのも、愛着を重んじる、服との向き合い方と言えるでしょう。
この日の装いは、ドット(水玉)柄の白いワンピースの上から、ジャケットをオン。各国首脳の集まりにふさわしい、ツートーンのすっきりした見え具合です。でも、背中側から見ると、「LOVE」のメッセージがしっかり主張。前後でイメージが様変わりする「前後アシンメトリー」の着こなしに仕上がっています。
■国民を団結させたいという願いを「パープル」色でアピール
政治リーダーの妻らしく、政治的なメッセージをまとうこともしばしば。写真のマスク姿は大統領選挙の最中だった2020年10月のショットです。投票率を高める効果を意識した「VOTE」(=投票して)の4文字が口を覆っていて、まるでジルさんが「VOTE」と声を上げているかのよう。白い文字も訴えの誠実さを印象づけています。
女子テニスの大坂なおみ選手もマスクで意思表示しましたが、先の大統領選挙では「VOTE」の文字が大勢の著名人のファッションに盛り込まれました。民主党支持者が多いアメリカファッション界では有力デザイナーが相次いで「VOTE」をデザインに取り入れました。
パープルは先の大統領選を象徴する色となりました。赤は共和党、青は民主党のシンボルカラーです。赤と青を混ぜたパープルは、両党の融和を意味します。トランプ政権下で広がった分断を縮めて、国民を団結させたいという願いがパープルには込められています。カマラ・ハリス副大統領が就任式の装いにパープルを選んだのも、こういった事情が理由だとされます。
フルーツや植物モチーフで、「健康=ウェルネス」を印象づけ
■バイデン大統領まで元気に見えるような装い
大統領より目立ってはいけないと考えているわけではないでしょうが、歴代ファーストレディは無地の服を選ぶケースが多かったようです。大胆な柄物は比較的、避ける傾向にありました。しかし、ジルさんは結構、柄物を着ています。
写真は就任100日を祝うイベントでの装い。国民に元気をプレゼントするかのような、フルーツモチーフのワンピースに身を包みました。ジューシーな果物柄はナチュラル感や健康さ、フレッシュ感を印象づけるメリットがあります。広い意味での健康を重んじる「ウェルネス」の考えは、近ごろのファッション界で重視される傾向にあります。
ポジティブな装いを選んでいる背景には、横に立つ夫の事情が働いているかもしれません。バイデン大統領は史上最高齢の大統領として就任。現在も健康不安がくすぶっています。年齢の割には元気に見えるバイデン大統領ですが、装いはオーソドックス。ただ、写真のようにジル夫人が横に並ぶと、カップルでの印象は元気感がぐっとアップ。ジル夫人のチャーミングな着こなしがプラスに働いていることは間違いなさそうです。
■カオス的な柄ミックスで、多様性を表現
ファーストレディは様々なイベントやセレモニーに招かれます。催しはそれぞれ趣旨が異なるので、その場にふさわしい服装をチョイスする必要があります。場違いな装いは批判の的になりやすいからです。
ジルさんはとても適切な服選びを心がけているようです。写真のあでやかなワンピースは、ホワイトハウスで開かれたLGBTQ+関連のイベントに出席した際にまといました。こちらのワンピースは何カ所も布地の切り換えが施されている、凝った仕立てになっています。ワンピースは本来、1枚布から仕立てるので、その名前がありますが、こちらはパッチワークのような構成です。
よく見ると、あしらわれている柄も様々。スイカやバナナ、パイナップルなどのフルーツ柄のほか、花やドット、ストライプなど、本来であれば、統一感を損なってしまいかねないほど、多彩なモチーフをミックスしています。この一見、まとまりを欠くようにも映る柄の混在は、アメリカ社会における多様性の大切さを感じさせます。この場面がLGBTQ+関連イベントだということを踏まえた、ジルさん流の見事なチョイスと言えるでしょう。
大胆な動物柄ファッションで、行動力や若々しさをアピール
■羽ばたくバタフライ柄で、人々を勇気づけるように
バイデン政権が決定的に過去の政権と異なるのは、女性副大統領の存在です。女性の権利や女性へのリスペクトをあらためて強く求める動きが勢いづき、バイデン政権は女性を相次いで重要ポストに迎えました。ジルさんももちろん女性の活躍や地位向上を応援する立場です。
テキサス州を訪問したジルさんは、巨大な蝶々が舞い踊る柄の白ワンピースで空港に降り立ちました。ジルさんの顔よりも大きいバタフライモチーフが全身にあしらわれ、優美なたたずまい。このパープル系のバタフライ柄にも、メッセージ性がうかがえます。
テキサス州は最後まで奴隷制度が残っていたほど、昔ながらの気質が残る土地柄です。大統領選挙でも共和党支持が根強く、バイデン政権・民主党が融和を進めるうえでは、大事な州でもあります。パープルは先に述べた通り、政党間の融和を象徴する色。方向を定めず、思うがままに羽ばたくバタフライは、偏見や慣習を離れた伸びやかな生き方を促すかのようにも映ります。
■跳ねるシマウマ柄で、訪問の喜びを表現
ジルさんが巧みなのは、見る人を元気づけるような着こなしです。強めの色や意外なモチーフなどを生かしたおしゃれも披露してくれています。
ミシシッピー州を訪問したジルさんがまとったのは、真っ赤なワンピース。それ自体は珍しくありませんが、全体にゼブラ(シマウマ)柄が躍っています。一般的なゼブラ柄は、シマウマの全身を描くのではなく、模様の部分だけを切り出して使います。でも、こちらは頭から脚まで全部描き込んだ、生き物そのままの絵柄。しかも縦横に駆け巡るかのように配されていて、躍動的でドラマティックに仕上がっています。
ダークカラーの正統派ジャケットを重ねて、派手感をセーブ。一方、着丈はジルさんには珍しい膝上丈で、ポジティブ感を引き出しました。跳ねるシマウマの動感が装い全体に弾むようなイメージを寄り添わせています。ミシシッピー州も共和党が強く、民主党にとっては「アウェイ」の土地。そして、ワンピースのベースカラーになっている赤は共和党の色。飛び跳ねるシマウマにも何だか意味がありそうに見えてきます。
ファッションは「着る人の気持ち、居る人の共感」を働きかけるツール
ファッションには着る人本人の気持ちを盛り上げるほかにも、見る人の共感を呼び込んだり、会話のきっかけになったりと、様々な働きがあります。リーダー的立場の場合、メッセージを訴え掛けたり、人柄を印象づけたりといったイメージ戦略のパワーツールにもなり得ます。
オバマ政権下で8年間も副大統領夫人の役目を務めたジルさんは、さすがにそういった「ファッションの力」をよくご存じのよう。いろいろあった末に開催へ至った東京オリンピックの開催に、ジルさんがどんな来日ファッションでメッセージを送ってくれるのか、空港や開会式での装いを見るのが今から楽しみです。
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