大坂なおみの「主張」する服 ステートメントルックにブームの兆し
女子テニス界の女王的存在となった大坂なおみ選手はファッションの世界でもおしゃれリーダーと評価されています。彼女の着こなしがすごいのは、自分らしい「主張」をしっかり表現しているところ。この「ステートメントファッション」は世界的なトレンドであり、日本でも広がる兆しが見えています。権利や立場、主義などのメッセージを服に託す表現は、自負を帯びた誇らしい着映えに導いてくれます。私たちの装いにも取り入れていけそうな「大坂流ステートメントルック」を読み解いていきましょう。
身にまとう服は自分を表現できる最高のツール
全豪オープン・女子シングルスで優勝した翌日に撮影された記念の写真では、「ルイ・ヴィトン」のジャンプスーツ(上下がつながったオールインワン)を着用しました。ブランドを象徴するモノグラム柄という、家紋のようなモチーフを特大サイズで描き込んだデザインです。
こういった主張の強い演出は「ステートメント」と呼ばれ、ファッション界でもその人らしさを押し出しやすい装いとして関心を集めています。この服の名前も「ゲームオンマクロモノグラムフラワーステートメントショートジャンプスーツ」と、ステートメントの言葉が入っています。花柄は平和や自然、安心などのメッセージを象徴するモチーフであり、穏やかさを求めたくなる今の状況にふさわしい柄と言えます。
こちらのジャンプスーツはショートパンツが一体化したワンピースで、この春夏のトレンドアイテムです。作業着でおなじみの「ツナギ」と同じ構造であり、性別にとらわれない「ジェンダーレス」の流れにもマッチ。パンツ部分が長いタイプが一般的ですが、あえてショート化することによって、スポーティーな着映えに整えてあるところも、アスリートである大坂選手にぴったりです。
「ルイ・ヴィトン」は2021年春夏コレクションを披露したランウェイで、ステートメントルックを打ち出しました。ファーストルックでは「VOTE」の文字を特大サイズでプリント。当時はアメリカ大統領選挙の時期だったので、選挙への参加を呼びかけたものと見られています。
ステートメントルックはこのようにポジティブな変化を後押しする試みであり、そうした世の中との向き合い方は、社会的なメッセージを発することの少なくない大坂選手のスタンスにも通じるところがあるように見えます。
今、ファッションの世界では女性の「強さ」を引き出すような装いが勢いづいています。「#MeToo(ミートゥー)」運動が起きて以降、女性の権利や女性へのリスペクトをあらためて求める動きが強まっていることが背景にあります。
女性に限らず、主張すべきところはしっかり声を上げていくという考えが広まっていて、ファッションを通した発言が重視されるようになってきました。たとえば、2017年春夏コレクションの「ディオール(DIOR)」は「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS」(=私たちは全員、フェミニストであるべきだ)というスローガンをプリントしたTシャツを発表して、話題を集めました。
大坂選手が広く支持を集めるのは、テニス界での華々しい活躍だけが理由ではありません。著名人にふさわしい発言や意思表示も、リスペクトを集める理由です。黒人の人権を訴える、一連の「Black Lives Matter(ブラックライブズマター)」運動に関しても、積極的に発言。2020年の全米オープンでは、1試合ごとに異なる名前を書いた黒いマスクで試合会場に現れました。それぞれの名前は過去にアメリカで警察からの暴力被害で命を落とした黒人犠牲者のもの。その中にはブラックライブズマター運動が再び勢いづくきっかけになったジョージ・フロイドさんの名前もありました。
大坂選手は落ち着きを感じさせる身のこなしにも特徴があり、やや派手めの服を上手に着こなしています。服に負けない着こなしを披露することによって、さらに芯の強い印象が強まるというプラスの連鎖が起きている感じです。トップアスリートならではの豊かな筋肉美がインパクトのある服の着こなしに生きていると見えます。いくらか素肌を露出するような服も、おじける素振りを見せずに凜々しくまとっていて、きれいな姿勢や堂々とした所作がファッション表現でも重要なことを教えてくれます。
インパクトのあるディテールと色柄で「ポジティブ×ヘルシー」な装いを
この春夏は健康的なセクシーさがトレンドに浮上しています。新型コロナウイルス禍を受けて、世の中の気分がよどんでいる時期だけに、ファッションの面から元気で健やかなムードを押し出していこうという考えの表れだといわれています。
トップアスリートである大坂選手は今のこうした流れにも目配りしているかのようで、先の全豪でもオレンジ色のスコートとオレンジのリストバンドを着けて登場。トップスにはカムフラージュ(迷彩)風の柄をあしらうという、テニスウエアでは異色の装いで、コートでのプレーに華やぎとパワー感を加えました。
フェミニンな装いも得意な大坂選手は、2019年全豪オープン・女子で優勝した後のフォトセッションで、カラフルなドレス姿を披露。こちらのドレスを仕立てたのは、ミシェル・オバマ元米大統領夫人もお気に入りだという、ニューヨーク発ブランドの「クシュニー(CUSHNIE)」。赤やイエロー、グリーンなどのマルチカラーが躍るデザインは、多様性(ダイバーシティー)を物語るかのよう。タイトなワンピースがかえってたくましいアスリート感を引き出していました。
ドレッシーな装いも見事に着こなす大坂選手のファッションは常に関心の的。2018年全米オープンで優勝した後のフォトセッションでは、川久保玲氏がデザインする日本ブランド「コム デ ギャルソン」の真っ白のワンピースを着用。袖のフリルがロマンティックで、ピュアホワイトでありながら、内なる強さを印象づけるかのようです。グランドスラム初制覇にふさわしい、すがすがしさと凜々しさが同居するような装いで、新女王の誕生を予感させました。
服で生き方やポリシーを映し出す「ライフアート」を
大坂選手の装いは、着る人本人の生き方やポリシーを映し出した「ライフアート」とも呼べそうな着こなしです。ステートメントを帯びた装いが広がる中、日本でもフォロワーが相次ぐかもしれません。
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