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A級棋士・山崎隆之八段(40)痛恨のうっかりミス! 相手の佐藤康光九段(51)も思わずびっくり!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 まずはこちらの中継映像をご覧ください。

 9月29日におこなわれたA級順位戦4回戦▲山崎隆之八段(40歳)-△佐藤康光九段(51歳)戦。佐藤九段がややペースをにぎっているものの、勝負のゆくえはまだまだこれからで、深夜の終盤戦に入ろうかというところでした。

 向かって画面左側、先手の山崎八段は95手目、3七の銀を一つ前に進め、▲3六銀直とまっすぐ立ちます(後述1図)。これがまさかの大ポカでした。

 まずびっくりした様子を見せたのは相手の佐藤九段です。目を見開き、信じられないといった様子で、まじまじと盤を見つめました。

 やがて山崎八段も自身のミスに気づきます。後ろにのけぞりながら頭に手をやり、大きなため息をつきました。

 何度も盤面を見つめる佐藤九段。山崎八段が重大なポカをしたのは一目瞭然ですぐにわかったでしょうが、それでもすぐに次の手を指さないのがプロの公式戦らしいところです。

 1図は盤面や持駒などを簡略化した部分図です。

 1図では後手の角と馬(成角)が先手玉のそばによく利いています。先手は1図で玉側の金を△4九馬と取られてしまうと(2図)どうしようもありません。

 2図で▲4九同玉と馬を取り返すと、後手は角の利きをいかして、先手玉の頭に△4八金と打ってきます。

 3図では先手玉は詰んでいます。

 そうかといって2図で馬を取らずに逃げるのでは、さらに他の駒も取られてひどい大差になります。プロ同士の対戦では、あまり見られないレベルの大きなミス。それが将棋界トップ10が戦うA級順位戦で出たことがさらに驚きです。

 佐藤九段は何度も確認したあと、96手目、△4九馬と金を取ります。

「負けました」

 山崎八段はすぐに投了を告げました。

山崎「△4九馬をうっかりしたんで・・・。いやあ、ひどい。手順前後もはなはだしかったです。失礼しました」

 一局を振り返る感想戦の最後、山崎八段はそんな調子でぼやいていました。実は1図の4手前(91手目)の局面で山崎八段が▲3六銀直と指していれば、形勢はわずかに佐藤九段がいいものの、山崎八段も十分に戦え、まだまだこれからといったところでした。

 ▲3六銀直と指す前に、山崎八段の残り時間は1時間26分ありました。その状況で、わずか1分の消費時間で銀を上がってしまった。山崎八段ほどの実力者が、ときにこうした信じられないようなミスをしてしまうあたり、将棋は怖いというよりありません。

佐藤「ちょっとびっくりしましたけど・・・。先の変化を考えられてて、手順前後されたのかもしれないです」

 勝利者インタビューで、佐藤九段はそう振り返っていました。先のことを考えに考えた末、比較的簡単な筋をついうっかりしてしまった、ということであれば、プロらしいミスとも言えるのかもしれません。

 全9回戦のリーグ戦。2勝2敗と「指し分け」になった佐藤九段にとっては大きな勝利。逆に4連敗で、A級残留が次第に厳しくなってきた山崎八段にとっては、なんとも手痛い負け方でした。

 振り返ってみると、山崎八段は朝の段階で、対局室を間違えるというポカもやっていました。

 朝のうっかりもまた、深夜のうっかりに続く伏線だったのかもしれません。

 ファンからの人気がとても高い山崎八段。今後の巻き返しが期待されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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