知られざる数億ションの世界(4)テレビに出るお金持ちの家に「生活感がない」と思ったら……
新築時の分譲価格が数億円、ときに10億円を超える高額住戸=数億ション、10億ションは、一般の住まいとは大きく異なる部分が多い。
その暮らしは、どのようなものなのか。興味を抱く人は多いだろう。自分で購入することはできないが、家の中の様子くらいは見てみたい、と思うわけだ。その思いに応えるため、ときどきテレビ番組で家の中が紹介されることがある。
有名人の室内が公開されることもあるが、あるオーナー社長の住まいなどと紹介される一般人宅のケースもある。
有名人の住まいには趣味の品物が飾られていることが多いのだが、一般人宅の状況は少々異なることが多い。
リビングが50畳、寝室は20畳、キッチンが10畳……とてつもなく広く、豪華な設備の数々が紹介されるが、その美しさとともに驚くのが、片付きのよさ。余計なものが一切なく、映画のセットのようにきれいに片付いている室内が映し出されることがあるのだ。
「さすがにお金持ちの家というものは、整理整頓が行き届いているものだ」と感心したりするのだが、違和感がないといったら、ウソになる。
テレビ取材を受けるのだから、掃除はするはず。が、あまりにも整いすぎている。そこまできれいにするためには、清掃スタッフの力を借りているのではないか。はたまた、潔癖症といえるほど家をきれいにすることで、金運が高まるものなのか……いろいろなことを考えてしまいがちだ。
もちろん、精一杯掃除をする人や、潔癖症の人もいるはず。が、ファミリーで生活をしていれば、それなりに積み重なるものや、冷蔵庫の扉に貼り付けられるものが出てくるもの。映画のセットのように、無機質な状態を保ち続けることはできない。
では、なぜ映画のセットのような、もしくは販売センターのモデルルームのような室内が実現するのか。
じつは、そこに、数億ションを購入し続ける人たちの密かな楽しみが垣間みえるのだった。
確実に存在する「転売目的の購入者」
数億ションには、「転売目的の購入者」が存在する。「このマンションは値上がりする」と予測した物件を購入し、未入居のまま数年後に買ったときよりも高い値段で転売するものだ。
マンションの場合、新築購入してから、建物が完成するまで短くて1年、長いもので3年かかる。それだけ時間があくと建物完成時に「買ったときよりも高くなった」という事態が起きやすい。
思い返せば東京五輪の招致が決まった2013年以降、東京都心のマンションでは、そのような値上がりが起きた。当時、五輪後に下がるという意見もあったが、富裕層や不動産関係者は「下がるわけがない」と考えていた。
そこで、お金に余裕のある人のなかには、値上がりしそうなマンションを転売目的で購入する人たちが少なくなかったのである。
必ず値上がりしそうなマンション、なかでもひときわ大きく値上がりしそうなマンションを物色する……その様子は値上がりしそうな株を探すのに似ている。
さらに、めぼしい物件をゲットした購入者は、さらなる楽しみを見いだした。それは、購入した住戸に好みの家具を配置し、カーテンや絨毯で心地よい空間づくりをすること。つまり、センスのよいインテリアを配置して、マンション住戸の魅力を上げるわけだ。
このマンション住戸をインテリア込みで転売する。その際、価格上昇分を上乗せするだけでなく、買いそろえた家具やカーテン等の代金も上乗せする。
希望通りの価格で転売できれば、「よい物件を手に入れて、高く転売できた」だけでなく、「自分が手がけたインテリアが認められた」という喜びも得られることになる。つまり、二重に楽しめるわけだ。
なんとも優雅というか、贅沢な趣味だ。が、そんなことができたら楽しそう、と思う人は多いのではないか。
テレビで撮影OKとなる室内は……
数億ションのような超高級なマンション室内を番組内で紹介したい……テレビでそのような企画が持ち上がったとき、なにより大変なのが、撮影させてくれる住まい探し。家の中を見せて、と言われても、嫌がる人が多いからだ。特に、家族で生活している住まいでは、キッチンや浴室など、見せたくない箇所が多いものだ。
その点、転売目的で、インテリアを仕上げたマンション住戸ならば、見せて困ることはない。きっちりインテリアが仕上げられているし、使用していないので、汚れもない。自分で仕上げたインテリアをテレビで披露することもできる。そこで、「都内の某マンションで暮らすオーナー社長の住まい」などとして、登場することがあるわけだ。
それを見て、「なんてみごとに整理整頓されている住戸だろう」と思う人が多い……数億ションには、そういう状況も生じている。