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ホンダN-BOXが日本で一番売れるクルマである理由。【動画アリ】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

ホンダN-BOXがフルモデルチェンジをして、新型へと生まれ変わった。

しかしこのN-BOX、実はモデルチェンジなんてしなくても良い1台でもある。

なぜなら、新型が登場する直前でも先代モデルの売れ行きは陰ることなく、新車登録台数ランキングでトップの座を維持している。

実際に数字で見ても、N-BOXが新型へとフルモデルチェンジしたのは8月31日。しかし2017年7月の乗用車車名別販売台数と軽四輪車通称名別新車販売速報においてN-BOXが1万4503台/月と、登録車と軽自動車を含めた全体のトップとなっている。そしてこれは、17カ月連続トップを更新したことにもなる。要は日本で一番売れている軽自動車が、日本で一番売れているクルマ、ということだ。

では、果たしてどんな理由でN-BOXは日本一の座についているのだろうか?

フルモデルチェンジを果たしたN-BOXの試乗会場で、本田技研工業株式会社広報部でこのN-BOXを担当する徳本優さんに話を伺った。

すると徳本さんがまず挙げたのが、一部改良や特別仕様車の多さだった。

「N-BOXは発売直後からお客様の声を伺って、頻繁に改良等を重ねてきました。また同時に、特別仕様を数多く送り出してきました」

という。実際に調べてみると、2011年の11月末に発表されたN-BOXは、翌2012年12月には、燃費向上(24.2km/L)や快適性向上、使い勝手の向上やターボモデルの拡大を行うなどの改良を施している。特に装備の充実に関してはきめ細やかで、フルオートエアコンの標準化やアルミホイール採用などを行なっている。

さらに2013年5月には特別仕様車「SSパッケージ」や「SSターボパッケージ」を発売。同年12月には再び一部改良を行い、燃費向上(25.2km/L)やシティブレーキアクティブなどを含む安全装備をパッケージオプションとした「あんしんパッケージ」を用意している。

そして2014年5月には再び特別仕様車「SSパッケージ」「SSターボパッケージ」を発売。2015年にはまず2月にマイナーチェンジを施して燃費を向上(25.6km/L)した他、スライド機能を新たに加えた「チップアップ&ダイブダウン機構付スライドリアシート」やその他を用意。LEDライト等も採用するなどトレンドも外さない。

さらに7月には三度の特別仕様車「SSパッケージ」や「SSターボパッケージ」を発売し、11月には早くも一部改良して装備の拡大を図るなど、当初上位グレードのみだった装備を下位のグレードに落とし込むなどして充実を図った。そして2016年の8月には特別仕様車「SSパッケージ」を発売した。こうして2017年を迎えることとなったわけだ。

ここに記しただけでも、いかにきめ細やかに改良を施すと同時に、特別仕様車を常に設定して需要を換気してきたかが分かるというものだ。

そして徳本さんは2つ目の理由として、N-BOXの下取り価格の高さをあげた。これは卵が先か鶏が先かの話でもあるが、現在人気車種であるN-BOXは下取り価格も高い傾向にあるという。加えて軽自動車ならではの事情も関わっているだろう。というのも軽自動車の場合は、インセンティブがないのが基本で値引きも少ないのが実際。しかしながらその分、下取りで頑張るという傾向がある。ここに人気車種として引く手数多の状況が加わることで、N-BOXを中心とした健全なエコシステムが生まれるわけだ。

事実、これほどの改良と特別仕様車構成があることによって、「N-BOXからN-BOXの買い替え需要もかなり多い」と徳本さんは語る。また同時に、「他銘柄からの乗り換えも多く、このN-BOXが初めてのホンダという方も多い」という。

もちろんその背景には、度重なる改良によってユーザー目線で使いやすさを追求してきた歴史があるからだろう。特にラゲッジにおいては、

「リアシートをワンタッチで畳めることに加えて、自転車をそのまま積めるのですが、その時にラゲッジ開口部の下端が低いこともあって積みやすいという評価もいただいています」と、地味ながら他に差をつける要素も人気を後押ししているのだろう。

またこうした事情に加えて、ホンダのファイナンシャル・サービスのひとつである「残クレ」も相当に効果を発揮している。実質年率1.9%の残価設定型クレジットの実施なども手伝って、新車としての導入に始まり、買い替え、他銘柄からの乗り換え等をうまく取り込んでいる実績もあるようだ。

そうした様々な条件が重なって、N-BOXは日本で一番の優良クルマ銘柄となっているのである。

そうした状況の中にあって、ついに新型が登場した、というのが現時点。まだ発売から2週間しか経過していないが、既に月販目標1万5000台の2倍となる3万台を受注しているという(2017年9月7日時点)。果たして今後も、N-BOXの天下が続くかが、業界の注目点であることも間違いない。

といった具合で、N-BOXが日本で一番売れているクルマである理由は多数にあることがわかった。そしてホンダはそうした要素を全て把握しているわけだが、果たしてホンダは軽自動車以外の登録車でも同様のビジネスを実践できるのだろうか? 登録車の2017年7月度ランキングでは、フィットが4位(1万1908台)、フリードが8位(7399台)となっている。また小型車だけでなく、先日発表されたシビックに関しても、同じような対応ができるかどうかは難しい部分かもしれない。

そうした背景を踏まえて、新型N-BOXを試乗したわけだが、なるほど現代の自動車生活に求められるほぼ全てが備わった一台となっており、その人気にも納得がいく仕上がりだった。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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