アイルランドラグビーの至宝、100キャップのセクストンが周りから愛されるワケとは
まるでセクストンのゲームだった。「魂のラグビー」と形容されるアイルランドの至宝、SOジョナサン・セクストン。36歳。6日の地元ダブリンでの日本代表戦で100キャップ(国代表出場数)を達成し、チームを60-5の勝利に導いた。
何というか、感動的なシーンだった。試合終了後のピッチ上でのインタビュー。「キャリア最高の試合だった」。主将のセクストンはそう涙声で漏らすと、右手でさっと顔をぬぐい、言葉に詰まった。ピッチ上のアイルランド選手たちから拍手を受け、スタンドの観客も総立ちで「スタンディング・オベーション」を送った。小雨の中、大歓声が流れる。
主将は言葉をつづけた。
「自分自身にとって、家族にとって、ここにいる一人ひとりにとって、信じられないような特別な日になった。何といっても、チームメイト、観客からの称賛がうれしい。この2年、空っぽ(無観客)のスタンドには心を痛めていた」
後半の序盤には、モールの右サイドを突き、SH流大のタックルをはじき飛ばし、右隅に自らトライした。この時のチームの喜びようといったらなかった。
「あのコーナーへのトライは、一生、忘れることができないだろう」
24歳だった2009年、フィジー戦で代表デビューを果たしてから12年間。2011年、15年、19年のラグビーW杯代表となり、2018年のワールドラグビー年間最優秀選手にも選ばれた。積み重ねてきたテストマッチがついに100試合となった。
輝かしい実積はもちろんだが、ファンから愛される理由はそのプレースタイルにある。試合では、からだを張る。188センチ、92キロ、日本ならロックのごとき体格。「ひたむき」、かつ献身的なプレーでチームを引っ張ってきた。この日の試合も、的確な判断と大小のパスで攻めにリズムをつくりながらも、スペースを見つければ自らタテを突き、日本のディフェンスを混乱に陥れた。
キックのキャッチでも競り合い、激しいタックルも見せた。まさに『魂のラグビー』の象徴といっていい。からだを張るから、ケガも多く、『静岡の衝撃』といわれた2019年ラグビーワールドカップの日本代表戦(●12-19)は欠場していた。休養のため、ことし7月の再戦(〇39-31)でもスコッドには入っていなかった。
ラグビーにおいて、『ひたむきさ』と『タックル』は信頼とリスペクトの条件となる。試合後、日本代表の主将、フランカーのピーター・“ラピース”・ラブスカフニはピッチ上で日本刀レプリカをプレゼントした。サムライ魂の象徴としてだろう。ラピースは記者会見でこう、説明した。
「彼(セクストン)は、偉大な選手だ。サプライズで、日本を象徴するものを渡したいと思ったのです」
日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチも賛辞を惜しまない。
「(セクストンは)非常に勇敢な選手だ」
トイメンとして戦った日本代表のSO田村優は、「特にアタックで勢いを感じた」と脱帽した。
「これまでとは違う脅威を感じていた。自分たちが常にゲインラインを突破されていた」
セクストンは、ダブリン出身。妻との間に3人の子どもを持ち、子煩悩で知られている。ラグビーでは、38歳で迎える2023年ラグビーW杯フランス大会まで現役を続行する意向を示している。確かに体力やスピードは落ちているが、ラインを前に出す勢いとゲームメイクの上手さ、正確なキック力は変わらない。
秋の代表シーズンを記念すべき勝利でスタートした。アイルランド代表は来週、地元でニュージーランド代表オールブラックスと対戦する。
セクストンは言葉に実感をこめた。
「いいスタートが切れた。この年齢までプレーできたことを神に感謝しながら、これからも一瞬一瞬を大事にしていきたい」
今を生きる。日本代表の大敗は悔しいけれど、英雄の記念試合と輝きを見ることができた。