北朝鮮はハマスと関係があるのか? 北朝鮮の「ハマス背後説」を検証する!
韓国のメディアはほぼ連日、イスラム武装組織ハマスと北朝鮮との関係を特筆大書している。
今朝も「北朝鮮の掘削技術がレバノンの武装組織『ヒズボラ』を通じてハマスに伝達された可能性がある」との「聯合通信」が配信した記事を載せていた。
記事をよく読むと、イスラエル安全保障団体「アルマ研究教育センター」のジェハビという名の代表が米CIAの影響下にある自由アジア放送(RFA)のインタビューに「ハマスが直接、北朝鮮から掘削技術を伝授されたのかはわからないが、北朝鮮が(レバノンの武装組織)ヒズボラに技術を伝え、ヒズボラを通じてハマスに伝わったものとみられる」と話していたことがどうやら韓国メディアの関心を惹きつけたようだ。
ジェハビ代表は「ヒズボラの地下トンネル技術は北朝鮮の知識に基づいている」との認識を示し「従って、ハマスがイスラエル攻撃に活用されたトンネルも間接的に北朝鮮技術が活用された可能性がある」と指摘していた。トンネルと言えば、韓国人の誰もが1974年から78年にかけて非武装地帯の韓国エリアで発見された北朝鮮が掘ったとされる「南侵トンネル」を反射的に思い出す。
昨日(17日)は韓国軍合同参謀本部の高官が国防部詰めの記者らに対して「中東地域のある国で『放―122』と書かれた砲弾が発見されたが、『放-122』は122mm放射砲(多連装ロケット)を意味しており、北朝鮮が延坪島砲撃(2010年11月)の際に使った砲弾である」と発言し、ハマスが北朝鮮と武器取引や戦闘教義、訓練などで直接・間接的に連携している可能性を示唆していた。
また、今回のハマスのイスラエルへの奇襲攻撃でハマスの隊員が北朝鮮の対戦車ロケット「F―7」と酷似した兵器を手にしていた映像が映しだされていたことも北朝鮮関与の疑惑を一層深めることになった。というのも、この高官が「F―7」は「北朝鮮が(対戦車ロケット発射機の)『PRG7』を輸出する際に使用する名称である」と述べていたからだ。
国防部の高官は「この兵器が(北朝鮮から)直接ハマスに渡ったとの情報は得ていない」と断りながらも「ハマスはパレスチナ周辺国や武装団体と緊密な関係を維持していることから流れた可能性は十分にある」と発言していた。
その他にも合同参謀本部はハマスが▲休日未明に奇襲攻撃したこと▲大量のロケット弾を発射してイスラエルの防空システム「アイアン・ドーム」を無力化したこと▲ドローン攻撃で境界にあるイスラエル軍の監視システムなどを破壊した後に侵入したことなどを例に挙げ、「ハマスが北朝鮮の戦闘教義を伝授されたか、訓練支援を受けた可能性がある」と、この手の戦術、手法ならばどの国、どの武装勢力でも考え得るが、合同参謀本部は北朝鮮とハマスを結び付ける理由にしていた。
北朝鮮は2009年に採択された国連安保理制裁決意「1874号」と2016年の制裁決議「2270号」によってすべての武器輸出が禁じられるまでは機関銃から携帯用ミサイル、多連装ロケット、さらには弾道ミサイルまでイラン、シリア、リビアなど中東諸国に輸出していた。おそらくその一部がハマスの手に流れた可能性は大である。
問題はイスラエルや米国、さらに韓国が疑惑の目を向けているようにハマスとの直接取引、提携があるかどうかだ。
北朝鮮は長年にわたって米国からテロ支援国に指定されている。テロ支援国にリストアップされたのは直接的には1987年に起きた大韓航空機爆破がきっかけだが、「よど号」ハイジャック犯を匿っていることや反米諸国のイランやシリア、さらにはアフリカの紛争地への武器輸出なども遠因となっている。
北朝鮮はヒズボラのバックにいるイランとは準軍事同盟関係にあるだけでなく、イランのイスラム原理主義武装勢力を北朝鮮の軍事顧問団が訓練した過去がある。また、湾岸戦争が勃発した時はイラクに軍事顧問団を派遣したこともあった。さらに、アフリカのスーダンとは1989年に誕生したバシール政権が反米政権であったことから武器の提供な協力関係を築いていた。南イエメンとも北イエメンと統一するまでの間、100人から500人を派遣し、軍事訓練を指導していた。
北朝鮮にはこうした「前科」があるだけでなく、ハマスが反米の旗を掲げ、そのハマスを同盟関係にあるイランが支援していることもあって北朝鮮がハマスを陰に陽にバックアップしたとしても決して不自然なことではない。また、イランやシリアには北朝鮮大使館があることからハマスあるいはヒズボラ組織との接触も可能である。
しかし、近年は国連安保理の制裁と監視もあって北朝鮮のそうした暗躍は影を潜め、現に一昨年アフガニスタンで再度実権を掌握したイスラム主義武装組織タリバンの政権を北朝鮮は意外にも今なお承認しておらず、友好関係にもない。ちなみにハマスはタリバンとは友好関係にある。
北朝鮮は2014年のガザ紛争の時は外務省が7月15日に声明を発表し、イスラエルの攻撃を「人道に対する罪として」非難していた。しかし、今回は声明も論評も出していない。唯一17日付の外務省のホームページの「最近の消息」の欄に朝鮮・アラブ協会書記長の名による「現在の中東事態は米国の派遣戦略の産物である」と題する一文が載っただけだ。
記事は「中東地域で武力衝突が起きた動機と原因を米国は無視し、イスラエルを『被害者』としてクローズアップさせ、軍需物資の供給に留まらず空母まで派遣し、イスラエルの殺戮蛮行を後押ししている」と米国を非難していたが、ハマスについては「米国の協力で構築されたイスラエルのミサイル防衛システム『アイアン・ドーム』がパレスチナ抗戦勢力のロケット弾攻撃によって無用物になった」と言及しただけだった。
同じ日に朝鮮中央通信も外務省軍縮・平和研究所の研究者が書いた「米国の核覇権追求は世界の平和を破壊する戦略的不安定の根源である」と題する一文を配信していたが、今回のイスラエルとパレスチナン紛争については全く触れておらず、冒頭で「米国の覇権主義策動と干渉によって、欧州と中東をはじめ世界の至る所で平和と安定が重大に破壊されている」と一言前置きし、後は米議会の戦略態勢委員会の米国の本土ミサイル防衛システムの完備と核戦力近代化の加速化に関する報告書への批判に終始していた。
署名入りの2本とも対米非難に重点が置かれており、珍しいことにハマスへの支援もパレスチナへの連帯表明も一切なかった。ハマスのテロをイランのライシ大統領が「勇敢である」と称え、またアブドラヒアン外相が「歴史的な勝利だ」と称賛し、エールを送ったのとは明らかに異なった対応である。
ハマスをテロリストではなく「パレスチナ抗戦勢力」と称したもののそれでも連帯を表明しなかったのは北朝鮮がハマスと対立するアッバス自治政府を承認しており、平壌にパレスチナの大使館を置いていることと関係しているようだ。