部下をメンタル不調に追い込む「目標設定」TOP3 ダメ上司と優秀な上司の決定的な差とは?
部下には健全に成長してほしい。そしてやりがいをもって会社に貢献してもらいたい。そう思って丁寧に、丁寧に接してきたつもりだが、いつの間にか「メンタル不調」を訴え、会社にこなくなってしまった――。
そんな嘆きを訴える上司が急増している。なぜ、こんなことが起こるのか?
そこで今回は、部下指導――とくに目標設定について焦点を合わせる。部下をメンタル不調に追い込む目標設定とはどんなものがあるか? そして、どのように目標を設定したら部下は健全に成長するのか、しっかり解説する。
部下指導に悩んでいる多くの経営者、マネジャーはぜひ最後まで読んでもらいたい。
■メンタル不調を起こす「目標設定」TOP3
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。「目標を絶対達成する秘訣とは?」と聞かれたら、「秘訣は目標設定の仕方」だと即答する。目標の設定を間違えたら、絶対達成なんてあり得ない。では、どんな目標設定はダメなのか? TOP3を紹介しよう。
(1)目標がない
(2)目標が曖昧
(3)目標が高すぎる
まず(1)について解説する。
「え? 目標がない?」
と驚く人がいるかもしれないが、最近はとても増えている。上司が「過度のプレッシャーを与えたくない」と思うからだ。
しかし、これは完全に間違っている。なぜなら、目標がないことによって部下たちは「どうしたらいいか、わからない」状態から抜け出せないからだ。目的地を教えずに地図だけ渡される人の気持ち、わかるだろうか?
目標を言わずに、
「ボチボチやればいいから」
「徐々にステップアップしていこう」
などと心掛けだけを伝えても、部下はどうすればいいかわからない。覚えてほしいことがある。目標には、必ず次の2つの要素がある。
・具体的なゴールイメージ
・期限
資料を作ってもらうのも、お客様に電話してもらうのも、何か企画を考えてもらうのも、
「いつまでに、何がどうなっていたら達成なのか?」
を上司はハッキリさせるべきだ。そうでないと、部下は迷子になってしまう。それに仕事の依頼をする上司も、期待通りの仕事が見られなかったら、ダメ出しをするか、
「ありがとう。あとはこっちでやるから」
といって、見切りをつけて仕事を引き取ってしまうだろう。目標を与えていないのだから、上司の期待通りの成果を出せないのはあたりまえだ。当然、部下は気分よく仕事をすることができない。
■部下を「迷子」にさせる曖昧な目標とは?
次に(2)についてだ。曖昧な目標を言い渡すのはやめよう。
「この資料、なるはやで頼む」
「いい感じでやっておいてくれ。Bさんのやり方を真似たらいいから」
これでは、具体的なゴールイメージを持つことができない。上司の頭の中にはイメージがあっても、部下の頭にはそれがない。これを「情報の非対称性」と呼ぶ。
深い霧の中で歩いていたら、誰だって気持ちが萎えてくる。そのような場所に導いたのが上司だったら、どうか? 当然、上司に対する信頼も揺らぐことだろう。曖昧な目標を言い渡すということは、そういうことだ。
また、部下に強く言えないので、優柔不断な目標を口にするダメ上司もいる。
「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人は集客してほしい。ただ、あくまでも目標は目標だから、難しいのなら、それはそれで問題はない。もちろん私としては、10人は集客してほしいんだけど……」
これを言い換えれば、次のようになる。
「今夜7時までに、新宿駅東口のAというビルのエントランスまで来てほしい。もし難しいのなら、新宿駅の東口の辺りまででもいいし、何なら新宿駅まで来るだけでもいい。JRの改札でもいいし、小田急のほうでもいい」
こんなことを言われたら、頭を揺さぶられているようなものだ。当然、以下のように伝えられたほうが部下は安心する。
「今夜7時までに、新宿駅東口のAというビルのエントランスまで来てほしい」
曖昧な目標は、相手を「どうしたらいいか、わからない」という状態に追い込んでしまうものだ。
■「高すぎる目標」など現実的には、ない
最後に(3)について。「目標が高すぎる」だ。
おそらく多くの人が、「ダメな目標設定」と聞いたら、最初に(3)を思いつくのではないか。しかし目標達成の専門家からすると、それはあり得ない。単なる印象で決めつけているに過ぎない。
そもそも「高すぎる目標」とは何なのか? 現実的には、あり得ないと私は考えている。あり得るのは、
「不可能な目標」
「非現実的な目標」
である。日本の東京に住んでいて、
「これから1時間以内にニューヨークへ行ってくれ」
と言われたら「目標が高すぎる」だなんて思わないだろう。「不可能だ」「非現実的だ」と笑って言い返すことができる。
「どうしたらいいか、わからない」
なんて、頭を悩ますこともない。では、
「東京から大阪まで、車で6時間で行け」
と言われたら可能かもしれない。高速道路の状況にもよるが、理論上は達成可能だ。しかし、
・10年間、車の運転をしたことがない
・高速道路を走行した経験がない
・出発する時間が夜の11時
このような条件が加わると、「不可能」ではないが「難しい」となる。目標が高すぎるので、もっと低くしたらいいだろう。
「休みながら運転して、10時間かかってもいい」
「出発は朝でもかまわない」
などと条件を緩和すれば、「高すぎる目標」を防ぐことはできる。ただ、こんな目標を設定する上司がいるだろうか? 現実的にあり得ない。もしあったとしたらイジメである。
しかも経験が浅い人は、目標の妥当性などわからない。どんな目標を言い渡されても「本当に達成できるだろうか」と悩むはずだ。だから、
「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人は集客してほしい」
と言われても、この目標が高いか、妥当なのか、わかりようがないのだ。ストレスを感じるのは、目標の高さではなく、慣れない仕事を任されたからだ。
■絶対に守ってほしい「目標設定」3つのポイント
以上、3つの理由から、目標設定を間違えると部下は
「どうしたらいいか、わからない」
となる。最悪の場合、メンタル不調を起こすだろう。
それでは、どのように目標を設定すればいいのか。ポイントを3つ紹介したい。
(1)目標より指標を決める
(2)指標を低くする
(3)小さな達成体験を意識する
まず(1)について解説する。
目標をKGI(Key Goal Indicator)とすると、指標はKPI(Key Performance Indicator)である。目標を目的地とすると、指標は経由地である。
たとえばフルマラソン(42.195キロ)を5時間以内で走りたいと思っても、経験が浅ければ
「どうしたらいいか、わからない」
となるはずだ。しかし、
「1キロあたり7分のペースで」
と言われたら、イメージがつく。つまりゴールイメージが湧くぐらいに目標を細分化(指標)するのだ。
「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人の集客をする」
であれば、
「8日間で100人だから、毎日15人に電話する。そのうち1~2人集客できればいい」
と変換する。そうすれば思考停止状態からは抜け出せる。
■指標を低くする意外な手法
次に(2)の「指標を低くする」についてだ。
「8日間で100人だから、毎日15人に電話する。そのうち1~2人集客できればいい」
このように考えたとき、「毎日15人に電話する」は可能だが、「毎日1~2人を集客する」が可能かどうか。経験がある上司なら判断がつくだろう。
「毎日コンスタントに1~2人を集客するのは、ちょっとハードルが高いか」
そう判断したら「毎日15人に電話する」を「毎日30人に電話する」に修正するのだ。ハードルが高いからといって「毎日1~2人を集客する」から「2日で1~2人を集客する」としてはならない。
目標を下げてしまえば、部下の成長意欲は落ちてしまう。テストで「80点」を目指している生徒に「60点にしよう」と言っているようなものだ。だから、そこまでの努力の指標を落としてやるのだ。このケースでいえば、集客のコンバージョン率を低くすればいい。
「15人に電話して1~2人の集客」より「30人に電話して1~2人の集客」のほうが半分のコンバージョン率で済む。
プロ野球で表現するなら、
「打率3割ではなく、打率1割5分で」とするのだ。
(※もちろん、毎日30人に電話することが物理的に可能であることが条件だ)
■絶対達成に不可欠な「小さな達成体験」
最後に(3)について。「小さな達成体験」だ。私がクライアント企業を支援するとき、最も重要視している要素でもある。
私は20年近く「絶対達成」をコンセプトに企業を支援してきた。
「絶対達成」というフレーズを聞くと、「厳しい」「怖い」というイメージを持つ人が多い。しかし、目標設定を間違えなければ「絶対達成」は難しくない。それどころか達成感を覚えられ、やりがいを感じたり、仕事そのものが楽しくなったりするものだ。
名著『7つの習慣』にも書かれてある通り、「終わりを思い描くことから始める」という習慣は本当に重要だ。イメージができない目標は、達成しようという意欲も落とす。
「フルマラソンで5時間を切ろう!」
というのは、単なるスローガンであり、意気込みだ。具体的なイメージを持つためには、目標そのものを細かく、小さくすることだ。
「1キロ先のあの場所まで、7分で行こう」
このように決めることで「達成体験」を多く積み重ねることができる。
「よし!7分で行けた」
「4回連続で7分ペースで行けた!」
ハーズバーグの二要因理論の「動機付け要因」で最もインパクトが強いのが「達成体験」である。達成感を味わうことでモチベーションは上がるものだ。
このように「小さな達成体験」を重ねることで自信が芽生え、大きな目標を達成できるようになる。
■なぜ「小さな成功体験」は積み上げられないのか?
昨今「メンタル不調」になる部下が増えている。その原因の一つに、上司の目標設定があると私は考えている。
そのために3つのポイントを意識していくことが重要だ。その3つが、
(1)目標より指標を決める
(2)指標を低くする
(3)小さな達成体験を意識する
である。ここでワンポイントアドバイスをしたい。最も重要なのは「小さな達成体験」である。一般的には「小さな成功体験」と言うが、なかなか難しい。なぜなら「成功」という概念がとても曖昧だからだ。ダメ上司は曖昧なことばかり繰り返す。曖昧なものはイメージしづらいと覚えよう。
したがって「小さな成功体験」ではなく「小さな達成体験」を意識しよう。優秀な上司は必ず「数字」を使う。そしてどんな仕事であっても、目標さえ適正であれば、必ず達成できる。
上司は小さな目標を設定し、小さな達成体験を意識していこう。部下を健全に育てるうえで、とても重要な考え方だ。
<参考記事>