Yahoo!ニュース

部下をメンタル不調に追い込む「目標設定」TOP3 ダメ上司と優秀な上司の決定的な差とは?

横山信弘経営コラムニスト
目標が曖昧だと「わからない状態」から抜け出せない(写真:イメージマート)

部下には健全に成長してほしい。そしてやりがいをもって会社に貢献してもらいたい。そう思って丁寧に、丁寧に接してきたつもりだが、いつの間にか「メンタル不調」を訴え、会社にこなくなってしまった――。

そんな嘆きを訴える上司が急増している。なぜ、こんなことが起こるのか?

そこで今回は、部下指導――とくに目標設定について焦点を合わせる。部下をメンタル不調に追い込む目標設定とはどんなものがあるか? そして、どのように目標を設定したら部下は健全に成長するのか、しっかり解説する。

部下指導に悩んでいる多くの経営者、マネジャーはぜひ最後まで読んでもらいたい。

■メンタル不調を起こす「目標設定」TOP3

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。「目標を絶対達成する秘訣とは?」と聞かれたら、「秘訣は目標設定の仕方」だと即答する。目標の設定を間違えたら、絶対達成なんてあり得ない。では、どんな目標設定はダメなのか? TOP3を紹介しよう。

(1)目標がない
(2)目標が曖昧
(3)目標が高すぎる

まず(1)について解説する。

「え? 目標がない?」

と驚く人がいるかもしれないが、最近はとても増えている。上司が「過度のプレッシャーを与えたくない」と思うからだ。

しかし、これは完全に間違っている。なぜなら、目標がないことによって部下たちは「どうしたらいいか、わからない」状態から抜け出せないからだ。目的地を教えずに地図だけ渡される人の気持ち、わかるだろうか?

目標を言わずに、

「ボチボチやればいいから」

「徐々にステップアップしていこう」

などと心掛けだけを伝えても、部下はどうすればいいかわからない。覚えてほしいことがある。目標には、必ず次の2つの要素がある。

・具体的なゴールイメージ

・期限

資料を作ってもらうのも、お客様に電話してもらうのも、何か企画を考えてもらうのも、

「いつまでに、何がどうなっていたら達成なのか?」

を上司はハッキリさせるべきだ。そうでないと、部下は迷子になってしまう。それに仕事の依頼をする上司も、期待通りの仕事が見られなかったら、ダメ出しをするか、

「ありがとう。あとはこっちでやるから」

といって、見切りをつけて仕事を引き取ってしまうだろう。目標を与えていないのだから、上司の期待通りの成果を出せないのはあたりまえだ。当然、部下は気分よく仕事をすることができない。

■部下を「迷子」にさせる曖昧な目標とは?

次に(2)についてだ。曖昧な目標を言い渡すのはやめよう。

「この資料、なるはやで頼む」

「いい感じでやっておいてくれ。Bさんのやり方を真似たらいいから」

これでは、具体的なゴールイメージを持つことができない。上司の頭の中にはイメージがあっても、部下の頭にはそれがない。これを「情報の非対称性」と呼ぶ。

深い霧の中で歩いていたら、誰だって気持ちが萎えてくる。そのような場所に導いたのが上司だったら、どうか? 当然、上司に対する信頼も揺らぐことだろう。曖昧な目標を言い渡すということは、そういうことだ。

また、部下に強く言えないので、優柔不断な目標を口にするダメ上司もいる。

「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人は集客してほしい。ただ、あくまでも目標は目標だから、難しいのなら、それはそれで問題はない。もちろん私としては、10人は集客してほしいんだけど……」

これを言い換えれば、次のようになる。

「今夜7時までに、新宿駅東口のAというビルのエントランスまで来てほしい。もし難しいのなら、新宿駅の東口の辺りまででもいいし、何なら新宿駅まで来るだけでもいい。JRの改札でもいいし、小田急のほうでもいい」

こんなことを言われたら、頭を揺さぶられているようなものだ。当然、以下のように伝えられたほうが部下は安心する。

「今夜7時までに、新宿駅東口のAというビルのエントランスまで来てほしい」

曖昧な目標は、相手を「どうしたらいいか、わからない」という状態に追い込んでしまうものだ。

■「高すぎる目標」など現実的には、ない

最後に(3)について。「目標が高すぎる」だ。

おそらく多くの人が、「ダメな目標設定」と聞いたら、最初に(3)を思いつくのではないか。しかし目標達成の専門家からすると、それはあり得ない。単なる印象で決めつけているに過ぎない。

そもそも「高すぎる目標」とは何なのか? 現実的には、あり得ないと私は考えている。あり得るのは、

「不可能な目標」

「非現実的な目標」

である。日本の東京に住んでいて、

「これから1時間以内にニューヨークへ行ってくれ」

と言われたら「目標が高すぎる」だなんて思わないだろう。「不可能だ」「非現実的だ」と笑って言い返すことができる。

「どうしたらいいか、わからない」

なんて、頭を悩ますこともない。では、

「東京から大阪まで、車で6時間で行け」

と言われたら可能かもしれない。高速道路の状況にもよるが、理論上は達成可能だ。しかし、

・10年間、車の運転をしたことがない

・高速道路を走行した経験がない

・出発する時間が夜の11時

このような条件が加わると、「不可能」ではないが「難しい」となる。目標が高すぎるので、もっと低くしたらいいだろう。

「休みながら運転して、10時間かかってもいい」

「出発は朝でもかまわない」

などと条件を緩和すれば、「高すぎる目標」を防ぐことはできる。ただ、こんな目標を設定する上司がいるだろうか? 現実的にあり得ない。もしあったとしたらイジメである。

しかも経験が浅い人は、目標の妥当性などわからない。どんな目標を言い渡されても「本当に達成できるだろうか」と悩むはずだ。だから、

「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人は集客してほしい」

と言われても、この目標が高いか、妥当なのか、わかりようがないのだ。ストレスを感じるのは、目標の高さではなく、慣れない仕事を任されたからだ。

■絶対に守ってほしい「目標設定」3つのポイント

以上、3つの理由から、目標設定を間違えると部下は

「どうしたらいいか、わからない」

となる。最悪の場合、メンタル不調を起こすだろう。

それでは、どのように目標を設定すればいいのか。ポイントを3つ紹介したい。

(1)目標より指標を決める
(2)指標を低くする
(3)小さな達成体験を意識する

まず(1)について解説する。

目標をKGI(Key Goal Indicator)とすると、指標はKPI(Key Performance Indicator)である。目標を目的地とすると、指標は経由地である。

たとえばフルマラソン(42.195キロ)を5時間以内で走りたいと思っても、経験が浅ければ

「どうしたらいいか、わからない」

となるはずだ。しかし、

「1キロあたり7分のペースで」

と言われたら、イメージがつく。つまりゴールイメージが湧くぐらいに目標を細分化(指標)するのだ。

「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人の集客をする」

であれば、

「8日間で100人だから、毎日15人に電話する。そのうち1~2人集客できればいい」

と変換する。そうすれば思考停止状態からは抜け出せる。

■指標を低くする意外な手法

次に(2)の「指標を低くする」についてだ。

「8日間で100人だから、毎日15人に電話する。そのうち1~2人集客できればいい」

このように考えたとき、「毎日15人に電話する」は可能だが、「毎日1~2人を集客する」が可能かどうか。経験がある上司なら判断がつくだろう。

「毎日コンスタントに1~2人を集客するのは、ちょっとハードルが高いか」

そう判断したら「毎日15人に電話する」を「毎日30人に電話する」に修正するのだ。ハードルが高いからといって「毎日1~2人を集客する」から「2日で1~2人を集客する」としてはならない。

目標を下げてしまえば、部下の成長意欲は落ちてしまう。テストで「80点」を目指している生徒に「60点にしよう」と言っているようなものだ。だから、そこまでの努力の指標を落としてやるのだ。このケースでいえば、集客のコンバージョン率を低くすればいい。

「15人に電話して1~2人の集客」より「30人に電話して1~2人の集客」のほうが半分のコンバージョン率で済む。

プロ野球で表現するなら、

「打率3割ではなく、打率1割5分で」とするのだ。

(※もちろん、毎日30人に電話することが物理的に可能であることが条件だ)

■絶対達成に不可欠な「小さな達成体験」

最後に(3)について。「小さな達成体験」だ。私がクライアント企業を支援するとき、最も重要視している要素でもある。

私は20年近く「絶対達成」をコンセプトに企業を支援してきた。

「絶対達成」というフレーズを聞くと、「厳しい」「怖い」というイメージを持つ人が多い。しかし、目標設定を間違えなければ「絶対達成」は難しくない。それどころか達成感を覚えられ、やりがいを感じたり、仕事そのものが楽しくなったりするものだ。

名著『7つの習慣』にも書かれてある通り、「終わりを思い描くことから始める」という習慣は本当に重要だ。イメージができない目標は、達成しようという意欲も落とす。

「フルマラソンで5時間を切ろう!」

というのは、単なるスローガンであり、意気込みだ。具体的なイメージを持つためには、目標そのものを細かく、小さくすることだ。

「1キロ先のあの場所まで、7分で行こう」

このように決めることで「達成体験」を多く積み重ねることができる。

「よし!7分で行けた」

「4回連続で7分ペースで行けた!」

ハーズバーグの二要因理論の「動機付け要因」で最もインパクトが強いのが「達成体験」である。達成感を味わうことでモチベーションは上がるものだ。

このように「小さな達成体験」を重ねることで自信が芽生え、大きな目標を達成できるようになる。

■なぜ「小さな成功体験」は積み上げられないのか?

昨今「メンタル不調」になる部下が増えている。その原因の一つに、上司の目標設定があると私は考えている。

そのために3つのポイントを意識していくことが重要だ。その3つが、

(1)目標より指標を決める
(2)指標を低くする
(3)小さな達成体験を意識する

である。ここでワンポイントアドバイスをしたい。最も重要なのは「小さな達成体験」である。一般的には「小さな成功体験」と言うが、なかなか難しい。なぜなら「成功」という概念がとても曖昧だからだ。ダメ上司は曖昧なことばかり繰り返す。曖昧なものはイメージしづらいと覚えよう。

したがって「小さな成功体験」ではなく「小さな達成体験」を意識しよう。優秀な上司は必ず「数字」を使う。そしてどんな仕事であっても、目標さえ適正であれば、必ず達成できる。

上司は小さな目標を設定し、小さな達成体験を意識していこう。部下を健全に育てるうえで、とても重要な考え方だ。

<参考記事>

【大作】頭の回転が遅い人・速い人の違い 「仮説思考」を身につける6つの基本手順

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

横山塾~「絶対達成」の思考と戦略レポ~

税込330円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

累計40万部を超える著書「絶対達成シリーズ」。経営者、管理者が4万人以上購読する「メルマガ草創花伝」。6年で1000回を超える講演活動など、強い発信力を誇る「絶対達成させるコンサルタント」が、時代の潮流をとらえながら、ビジネスで結果を出す戦略と思考をお伝えします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

横山信弘の最近の記事