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石炭火力発電の廃止時期は明記されるか?【G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合】

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:イメージマート)

明日、4月15日と16日にG7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合が開催されるが、国内での報道は少なく、注目度は低い。

しかし、パリ協定で示された1.5度目標を達成できるか、瀬戸際に立っており、極めて重要な会合となっている。

なぜ重要なのか、注目ポイントはどこなのかまとめたい。

2020年代が勝負

3月20日、IPCC(気候変動に関する政府パネル)が公表した第6次評価報告書は、危機感にあふれたものだった。

パリ協定を受けて、各国はCO2削減目標(NDC)を発表し、それぞれコミットしているが、このままだと継続的なCO2排出により、2030年代の初頭までに平均気温の上昇は1.5度に達することが推定された。

そして、目標実現には、少なくとも2025年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少に転じさせ、2030年には2019年と比べて43%程度削減する必要があるとしている。

今後10年間の対策が人類や地球に「現在から数千年に先まで影響を与える」とし、抜本的な対策を急ぐ必要があると警鐘を鳴らしている。

これを受けて、国連のグテーレス事務総長は、「過去半世紀の気温の上昇率はこの2000年で最も高い。二酸化炭素の濃度は少なくとも200万年ぶりに高い。気候変動の時限爆弾は刻々と進んでいる」と警告し、「報告書が示すように世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることは可能だ。しかし、そのためには対策の飛躍的な進歩が必要だ。世界はあらゆる面で気候変動対策が必要ですべての国が解決への役割を果たさないといけない」と訴えた。

こうした危機感から、今回のG7は非常に重要な会となっており、各国は目標の引き上げを訴えている。

一方、日本はやや温度感が異なる。

まず国内世論は、いまだに地球温暖化と人間の活動が関係ないという非科学的な言説が跋扈しており、危機感は弱い。

たとえば、電通総研が実施した気候不安に関する意識調査では、日本のZ世代が最も気候変動を深刻に捉えていない結果となっている。

しかも下図を見ればわかるように、日本だけ、極端に心配している割合が少ない。

出典:電通総研コンパスvol.9 気候不安に関する意識調査(国際比較版)
出典:電通総研コンパスvol.9 気候不安に関する意識調査(国際比較版)

こうした世論もあってか、政府の危機感も弱い。

現在、国会ではGX関連法案(GX推進法案、GX脱炭素電源法案)が審議されているが、時間軸が根本的にズレている。

法案の大きな目玉は、原発の次世代革新炉の開発や、民間の新技術開発支援(水素・アンモニアやCCUSなど)、カーボンプライシング導入等だが、それらの実現は2030年代を見据えており、短期的なCO2削減には貢献しない。

各国は「2020年代が勝負」と捉え、再生可能エネルギー導入やEV開発を進めている潮流とは大きくズレている。

結果的に産業政策の観点からも失敗となる可能性が高い。

日本がG7の足を引っ張っている?

当然、そうした認識のズレから、G7の中でも日本は浮いている。

ドイツが議長国だった2022年G7では、2030年までの国内の石炭火力全廃を明記する案に日本が反発し、声明に盛り込まれなかった。

そして、今回も、他国が求める中、閣僚会合の声明原案に廃止時期を明記していないと報道されている。

日本は、「カーボンフリー火力」という、アンモニアを石炭火力発電所で混焼する取り組みに力を入れている。

しかし、再生可能エネルギーはもちろん、ガス火力発電所よりもCO2排出量が高く、CO2削減効果は非常に低い。

それどころか、アンモニアは、二酸化炭素よりも273倍温暖化を引き起こす亜酸化窒素を排出する可能性もあるため、悪影響は大きい。

こうした背景から、他の国々は、今回の声明原案から「アンモニア活用」を削除するよう要請しており、やはり日本は浮いている。

議長国として、本来はリーダーシップを取るべき立場であるにもかかわらず、足を引っ張る立ち位置になっている(LGBTQの差別禁止法にしろ、この30年で日本はあらゆる分野において“最後”になってしまった)。

そして今回の最大の焦点はやはり、石炭火力発電の廃止時期を明記できるかだ。

先進国であるG7が石炭火力の全廃にコミットしなければ、当然他の国々はついてこないだろう。

「2020年代が勝負」という共通の認識のもと、目標を引き上げられるか、議長国である日本の役割は大きい。

G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合および広島サミットに向けた意見書を公表

そして、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、このG7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合および広島サミットに向けた意見書を公表した。

G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合および広島サミットに向けた意見書を公表(日本若者協議会)

将来世代に甚大な影響を及ぼす気候変動。

今の現役世代、特に重大な意思決定に関わっている政府や政治家の責任は重い。

将来恥じない意思決定を期待したい。

令和5年4月13日

日本若者協議会 環境/SDGs政策委員会

G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合および広島サミットに向けた意見書

 日本若者協議会は、若者の声を政府や社会に届ける「窓口」として、若者政策の立案、各政党との政策協議、政策提言を行っている若者団体です。

 2023年4月15日〜16日に開催されるG7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合および広島サミットは、日本が議長国として、1.5度目標を達成するために、リーダーシップを発揮し、国際社会における存在感を高めるまたとない機会です。

しかし現実には、日本が足を引っ張っていると言っても過言ではない状況です。ドイツが議長国だった2022年G7では、2030年までの国内の石炭火力全廃を明記する案に日本が反発し、声明に盛り込まれませんでした。報道によると、今回も、他国が求める中、閣僚会合の声明原案に廃止時期を明記していないと言われています。

このままではますます日本に批判の目が向けられ、気候変動対策を進める世界の潮流から遅れることによるビジネスチャンスの損失にも繋がりかねません。

そこで日本若者協議会では、G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合および広島サミットに向けた意見書を発表します。

1.石炭火力発電の廃止時期の明記

政府は、2021年に決定した第6次エネルギー基本計画において、石炭火力発電を2030年時点の電源構成のうち、19%使用するとしているが、この数字は、国連事務総長がOECD加盟国に求めている「2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止するよう求める」ことに矛盾する。さらに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が3月に公表した報告書では、2035年に2019年比で、60%減らす必要があると記されており、現行の日本の目標、2030年に2013年度比46%減よりも、大幅な削減が求められる。さらに、温暖化を1.5度に抑えるためのカーボンバジェットが刻一刻と減っている現状を踏まえれば、早期に化石燃料を全廃する必要があり、石炭火力発電の廃止時期の明記を求める。

2.2035年に電力部門の完全な脱炭素化

第6次エネルギー基本計画では、2030年時点の電力の36-38%を再生可能エネルギーで供給することを目標としているが、G7の他の国々はすでにその数字を大きく超える再生可能エネルギーを導入しており、今後さらに拡大していくことが予測されている。そのため、日本も洋上風力発電の開発加速、新築建築物への太陽光発電の設置義務化、小規模再エネ事業者や地域市民電力への支援、送電網・蓄電池の整備など、再生可能エネルギーの導入加速に向けた実効性のある施策の実施を求める。

3.発電部門のアンモニア活用の削除

 日本政府は、石炭火力発電所の維持を前提に、アンモニアの活用を進めようとしているが、CO2削減効果は全く不十分であり、化石燃料の温存に繋がる。

ブルームバーグNEF(ニューエナジーファイナンス)は、レポート「日本のアンモニア・石炭混焼の戦略におけるコスト課題」(2022年9月)において、「日本にとってアンモニア混焼は、電力部門による排出量削減において経済性に優れるというのは考えにくい」と分析し、 アンモニア混焼の平準化発電コスト(LCOE)を太陽光や風力などの再生可能エネルギーと比較し、「石炭火力発電所を改修した上でのアンモニア燃焼は、特に混焼率が高い場合、経済性が低くなる」と指摘、「他の低炭素技術に対して競争力がない」(年々再生可能エネルギーが安価になる一方で、アンモニアの製造方法に関係なくアンモニア混焼のコストは高くなる)と結論付けている。

アンモニアの供給についても課題が多く、日本が設定した2050年の需要目標は、同年のIEAの世界需要予想の約11%に相当することから、非現実的な数字となっている。

また、炭素回収・貯留の実現可能性および技術コストについても検討し、「日本が2030年までにCCS技術の普及に貢献する見込みは低い」、「この手法の技術面・経済性の観点による実現可能性は依然として不明確」であると述べている。

このように様々な指摘があるように、今からアンモニア火力発電やCCS・CCUSに過剰な期待をし、多額の投資をすることは、短期的な経済効果を生む可能性はあっても、中長期的に見れば、座礁資産になる可能性が高く、若者世代・将来世代からすれば、“無駄な”投資になりかねない。

そのため、議長声明から、アンモニア活用を削除し、石炭火力発電の段階的廃止を政府として宣言した上で、経済効率性の低いアンモニア火力発電への資金投資から、再生可能エネルギーへの資金投資へ大幅に移行することを求める。

4.カーボンプライシングの早期引き上げ

日本は2050年カーボンニュートラルの実現を後押しする「カーボンプライシング」の税率が他国と比べて極めて低い状況にある。例えば、日本では2012年より「地球温暖化対策のための税」(温対税)が導入されたが、日本の税率はtCO2あたり289円となっている。

しかし、High Level Commission on Carbon Prices(2017)によれば、「パリ協定の産業革命以前に比べ気温上昇を2度未満にする目標に一致する明示的な炭素価格の水準は2030年までにtCO2あたり50〜100ドル」である。

また、Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector(IEA、2021)によると、2050年までにカーボンニュートラルを実現するには、2050年までにtCO2あたり2万7500円の炭素税を課す必要があると述べている。日本の現在の税率は脱炭素に向けて生活形態や産業構造を転換させるには不十分であると言える。

しかし、「GX実現に向けた基本方針」で打ち出されたカーボンプライシング構想は、2033年度から発電部門だけを対象に「有償オークション」を段階的に開始する、というものである。これでは、2030年度のNDC46%の実現に間に合わず、問題を先送りしているだけと言わざるを得ない。そのため、カーボンプライシング制度をより早期に、より実効性高いものとして導入することを求める。

以上

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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