ようやっとイスラーム国殲滅に注力するようになったロシア、シリア、そしてイスラエル:錯綜する陰謀論
シリア軍は26日、イスラエルとの停戦ラインに面するクナイトラ市に進駐した。これにより、反体制武装集団の投降・退去や、西側諸国によるホワイト・ヘルメットの救出作戦によって縮小していたシリア南部の反体制派支配地域は完全に消失、同地でシリア政府の支配が及ばないのは、イスラーム国に忠誠を誓うハーリド・ブン・ワリード軍が活動するダルアー県南西部(そしてクナイトラ県南部)のヤルムーク川河畔地域のみとなった。
反体制派支配地域の消失と並行して、ロシア・シリア両軍は、ハーリド・ブン・ワリード軍に対する攻勢を強め、24日には21カ村を、25日には14カ村を、そして26日には戦略的要衝のジャムーア丘と、主要拠点のサフム・ジャウラーン村、タスィール町など9町村を順調に制圧していった。
イスラエルがハーリド・ブン・ワリード軍を爆撃
だが、ハーリド・ブン・ワリード軍掃討戦に注力するようになったのは、ロシア・シリア両軍だけではなかった。イスラエルも25日、「人道支援」と称して後援を続けてきた反体制武装集団が消滅したのに合わせるかのように、ハーリド・ブン・ワリード軍への攻撃に踏み切ったのだ。
イスラエル軍は声明で、イスラエル領に迫撃砲2発が撃ち込まれたことへの対抗措置として、砲弾が発射されたシリア領内の砲台1カ所を爆撃・砲撃したと発表した。ロシア国防省も26日、次のように発表した。
シリア軍戦闘機がイスラエルによって撃墜された24日には、ハーリド・ブン・ワリード軍掃討戦の行方に暗雲が立ちこめたかに見えた(拙稿「イスラエルはシリアでイスラーム国を支援しているのか?」を参照)。だが、この「不意の出来事」(The Jerusalem Post, July 26, 2018)によって、ロシア、シリア、イスラエルの連携は逆に促されたかたちとなった。
シリア政府は、イスラエル軍によるハーリド・ブン・ワリード軍への越境攻撃を非難せず、完全に黙認した。ロシアがとった対応はより大胆だった。ロシア軍戦闘機は25日、イスラエル占領下のゴラン高原上空に進入させ、爆撃を実施したのだ。シリア軍による侵犯とは対象的に、イスラエルはこの領空侵犯を黙認した。
イスラーム国の反撃
イスラーム国も黙ってはいなかった。25日、スワイダー市で連続自爆テロを敢行し、シリア人権監視団の発表によると、民間人135人を含む246人が死亡した。それだけではない。イスラーム国はこの連続自爆テロ実行の直後にスワイダー県東部に侵攻し、ドゥーマー村、シブキー村、シュライヒー村、タッル・バスィール村を一時占拠、30人弱を殺害したのだ。
スワイダー市連続自爆テロをめぐる陰謀論
事件をめぐって、アサド大統領は次のように述べ、米国をはじめとする西側諸国を暗に非難した。
一方、レバノンにおける反シリア派の急先鋒の一人ワリード・ジュンブラート進歩社会主義党首は、ツイッターで以下のように綴り、シリア政府の自作自演を疑った。
弔意を示す米国、分析や解釈の遡上に乗せるべきでない陰謀論
しかし、実際に起きたことは、こうした陰謀論とは逆だ。
米国務省のヘザー・ナウアート報道官は、スワイダー市での連続自爆テロを非難し、「無実の犠牲者」の遺族に弔意を示した。このコメントは、イスラーム国殲滅に向けたドナルド・トランプ米政権の強い意志表明をもって締めくくられたが、ヤルムーク川河畔地域に取り残された無垢の市民を巻き込むかたちで行われているシリア軍の軍事作戦に言及しないことで、それを事実上追認した。
シリア政府、西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)、アル=カーイダ系組織と連携する反体制派、イスラーム国が四つ巴となってきたシリア内戦をめぐっては、シリア政府とイスラーム国が結託し、反体制派を追い詰めようとしているといった陰謀論が散見される。ロジャヴァとイスラーム国の関係をめぐっても似たようなプロパガンダが見られる。だが、シリア南西部の情勢について陰謀論を唱えるのであれば、「ロシア、米国、イスラエル、シリアがイスラーム国を倒すために連んでいる」と言った方が面白みがある!
むろん、これら一連の陰謀論は、そのいずれかが真実だったとしても、憶測の域を脱しておらず、事実として分析や解釈の遡上に乗せたり、吹聴したりする類いのものではない。そうしたことが行われることで、シリアの現状は常に見誤られてきたのだ。