2050年になくなる仕事 自動運転で違反が減れば警察庁が困る?
産業革命が起こった英国では、機械の普及によって職を失うことに危機感を覚えた労働者らが機械を破壊した「ラッダイト運動」が起こった。いつの時代にも、技術革新によって、消える仕事は必ずあるので、既得権者からの反発を食らう。
モビリティの世界でも、馬車からクルマに変わったことで、馬を取り扱う仕事が減った。日本でも江戸時代は駕籠屋(かごや)がいたが、不要になった。急速に普及した自動改札機によって、切符を切る人の仕事がなくなってしまったことは分かりやすい事例だろう。
同時に新しい仕事も発生する。自動改札機の登場によって、SuicaやICOCAなどのカード(電子マネー)が普及して新しいビジネスが生まれている。フランスの高級ブランド、エルメスは馬具を造ることが創業の原点にあったが、自動車の登場による馬車の減少を見越しバッグなどの革製品に事業を移したことで生き残ってきたと言われる。最近では、AI(人工知能)の発達によって医師や薬剤師の仕事までがなくなってしまうのではないか、といった議論もされている。
GS、駐車場、信号機、免許証が不要に
このAIの進化と密接に絡みながら地殻変動的に変化している業界がモビリティ産業だ。馬車からクルマに切り替わった時のような大きな変化が起こっている。
「2050年に消えるものは、ガソリンスタンド、運転免許証、信号機、自宅の駐車場ではないでしょうか」
個人的な見解と断ったうえでこうした持論を語るのは、産業革新機構会長の志賀俊之氏(64)だ。日産自動車で最高執行責任者(COO)を歴任し、現在も日産取締役を兼任している。
最近の自動車産業の動向は、「CASE」というキーワードで端的に象徴される。Connected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転車)、Shared(配車サービスなど)、Electric(電気自動車)の頭文字を合わせたもので、ドイツのダイムラーが使い始めた。
進化するCASEとは
CASEはますます進化していく。電気自動車の普及によって多くのガソリンスタンド(GS)は不要になるだろう。自家用車がインターネットに常時繋がり、そこから指示を受けて無人の完全自動走行によって借りたいお客のところに動いて行き、使わない時間はシェアカーとして貸し出す時代が来るのも近い。そうなれば、自宅の駐車場は不要同然だ。
自宅の駐車場に限らず、社会全体でのクルマの保有台数は減少するとの見方もある。そうなると、一部の地域では都市部の駐車場も今ほどの広さは不要になるかもしれない。不動産の新しい利用方法を考える必要性が出るだろう。
さらに、優れた予知機能を持つ人工知能が搭載された完全自動運転車であれば信号の指示に従わなくても事故は起こらない。そして人間が運転しないので、現在のような免許証も要らなくなるのではないか。交通インフラシステムの在り方も変わってくるし、教習所の経営スタイルも変わらざるを得ない。
過剰な取り締まりに引っ掛からないクルマ
CASEとは別に「SPACE」をキーワードに挙げる企業もある。ACEは同じで、Security(セキュリティ)とPlatform(プラットホーム)が付け加わった。つながるクルマになってクルマのハッキング対策も重要になるだろうし、クルマがスマホのようなプラットホームビジネスになる可能性もある。こうした動きによって新たな産業も誕生するだろう。
こうして産業が大きく変化している時に危惧すべきは、変化に対応できない既得権者が、消費者の意向を無視して新しい技術の導入を邪魔することや、時代の流れを受け入れた規制や法律を作ることに役所が躊躇することだ。これらによってイノベーションが阻害されてしまう。
これも英国の事例だが、自動車が誕生した19世紀に「レッドフラッグ法」と呼ばれる規制ができて、公道では歩行者保護のため、人間が赤旗と笛で自動車を先導しなければならなかった。これが英国での自動車開発を妨げた一因とも言われている。
これを昔の話だからと言って笑うことはできない。高度な自動運転が普及すれば、過剰な交通取り締まりにクルマは引っ掛からなくなる。年間の交通違反の反則金は総額800億円程度あり、それが信号機や道路標識などの設置に使用され、警察庁のひも付き予算に化けているとも言われる。反則金がなくなることは本来世の中にとって良いことだが、警察庁の幹部の本音はさてどうだろうか。