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ケガで歯車の狂った波田悠貴 W杯リード最終戦で再び表彰台に挑む [クライマーズファイル]

津金壱郎フリーランスライター&編集者
昨年のクラーニ大会の模様 (c) IFSC/Eddie Fowke

今シーズンを締めくくるリードWCクラーニ大会が開催

 4月から世界各地で行われてきたスポーツクライミングのワールドカップ(以下WC)。ボルダリングWC(以下BWC)シリーズは8月のドイツ・ミュンヘン大会で、スピードWCシリーズは先月の中国・廈門大会で幕を閉じた。そして、大トリを飾るリードWCの最終戦が、11月11日(予選・準決勝)・12日(決勝)にスロベニア・クラーニで開催される。

 女子はヤーニャ・ガンブレット(スロベニア)が2年連続年間女王の座をすでに決めているものの、今季のBWC年間女王ショウナ・コクシー(イギリス)の参戦で注目度は高い。野口啓代、野中生萌も含め、今季のBWCシリーズを盛り上げた4選手が舞台をリードに変えてどんな勝負を繰り広げるか興味深い。

ルート上部は双眼鏡を使ってオブザベするロマン・デグランジュ (c) IFSC/Eddie Fowke
ルート上部は双眼鏡を使ってオブザベするロマン・デグランジュ (c) IFSC/Eddie Fowke

 男子はロマン・デグランジュ(フランス)が2位に78ポイント差をつけて首位に立っている。2003年のリードWCデビューから15シーズンを戦ってきた35歳の大ベテランが、WC出場通算112戦目となるクラーニ大会で自身初の年間王者のタイトルに挑む。

 

 日本からは男女合わせて13選手が出場し、先日発表された東京五輪の第1期強化選手12名のうち7選手もエントリーしている。注目は廈門大会でリードWC初優勝した是永敬一郎だ。WCデビューから5年目、23戦目での栄冠で、ポイントを大きく上積みして年間ランクは3位。年間王者の芽はないものの、2012年、2013年に安間佐千さんが2連続年間王者になって以降、日本勢には遠かったリードWCでの年間3位以内の成績に期待がかかる。

リードWC中国・廈門大会で優勝した是永敬一郎と2位・楢崎智亜(左)(c) IFSC/Eddie Fowke
リードWC中国・廈門大会で優勝した是永敬一郎と2位・楢崎智亜(左)(c) IFSC/Eddie Fowke

起伏の激しいシーズンを送った波田が最終戦を笑顔で終えられるか

 見どころをあげたらキリのない顔触れが揃うクラーニ大会にあって、目を留めたいのが波田悠貴だ。リード種目を主戦場にする波田は、今季はジェットコースターのような浮き沈みを味わってきた。

 1月のボルダリング・ジャパンカップで初めて決勝まで進んで3位になると、3月のリード日本選手権でも3位。WCシーズンに向けて幸先の良いスタートを切ったものの、4月から始まったBWCでは苦しんだ。開幕戦のスイス・マイリンゲン、第4戦の東京・八王子、第6戦のインド・ナビムンバイに出場したが、3戦とも21位。準決勝に進める20位にあと1歩届かず予選落ちし、日本勢の快進撃が目立った大会でひとり肩を落とした。

シャモニー大会で3位になり初の表彰台を手中にした波田(c) IFSC/Eddie Fowke
シャモニー大会で3位になり初の表彰台を手中にした波田(c) IFSC/Eddie Fowke

 しかし、7月に本職のリードWCが開幕すると再び勢いを取り戻す。初戦のスイス・ヴィラール大会で、キャリア2度目の決勝に進出して5位になると、続く第2戦のフランス・シャモニー大会でも決勝進出。決勝戦前のオブザベーション(ルートの下見)中には、デグランジュに話しかけられて一緒にルートを見上げて手を動かしながらホールドを確認した。

「声をかけられたから横を向いたらデグで、少し驚いたし、うれしかったですね。彼はレジェンドですから。一緒にオブザベをしましたが、彼と僕では体の大きさが全然違うんで、実際に登りだしたら手が届かないとかありましたけど」

 キャリア最高の3位になったシャモニー大会を笑顔で振り返る波田だったが、この後ふたたび試練に直面する。

勢いが寸断された予期せぬケガ

 8月のBWC最終戦ミュンヘン大会で目標にする準決勝進出を実現するために練習に励んでいた波田は、大会5日前に左膝外側靭帯を部分断裂して出場を取りやめることに。それでも、BWCミュンヘン大会の翌週に行われたイタリア・アルコでのリードWCには、左膝にテーピングを幾重に巻いて臨んだ。ケガをおして予選は通過したものの、準決勝で敗退して23位に終わった。

 リードWCは9月にスコットランド・エジンバラ大会、10月7日から中国・呉江大会が行われたが、波田は当初から出場予定がなかった。そして、10月14日からの廈門大会で再びリードWCに参戦。16位で準決勝敗退となったが、波田は手応えを手にした。

「廈門大会は膝がどうこうではなくランジ(ジャンプ)で失敗しました。あそこが止まっていれば決勝には行けた気はします。左膝はアルコ大会のときは痛みがあったし、ヒールフックをしたり、乗り込んだりが厳しかった。でも、廈門大会では痛みがなかったし、まだ乗り込んだりすると違和感は少しありますけど、それは仕方ないと割り切っています」

 左膝の状態が上向いていることが確認できた廈門大会では、もうひとつ収穫もあった。これまで漠然としていた表彰台中央までの距離感が、中学生の頃から一緒に練習し、国体の埼玉チームではペアを組む2学年上の是永の優勝でつかむことができた。

「是永君の優勝はうれしかったですね。最近はスケジュールが合わなくて一緒に練習する機会は減りましたけど、昔からのトレーニングパートナーですから。僕にも優勝できる可能性があるとわかりました」

波田悠貴・1997年5月10日生まれ、埼玉県出身。 身長 164 cm (c) IFSC/Eddie Fowke
波田悠貴・1997年5月10日生まれ、埼玉県出身。 身長 164 cm (c) IFSC/Eddie Fowke

 今季はリードWCで表彰台に2回以上立つことを目標にしてきた波田にとって、目標達成のために残されたチャンスはクラーニ大会しかないが、最終戦の舞台は波田が昨年初めてリードWC決勝に進んだ思い出の大会でもある。表彰台に立つことができれば、年間ランク10位以内に入る可能性は大きく高まる。

「リードWCはいい流れだったのが途中で壊れちゃいましたけど、最終戦で立て直したいです。ルートをつくるセッター陣に去年と同じ人がいるので、運はまだあるかもしれませんね。クラーニは決勝戦で観客がすごく増えるし、ライトアップもすごいんです。海外勢もすごい選手たちが出場してくるし、地元のドーメン(・スコフィック/昨年のリードWC年間王者)も今年はさっぱりだったから気合が入っていると思うので、そのなかで決勝に進みたいですね。来シーズンにつなげるためにも表彰台を狙っていきます」

 世界トップと競える手応えをつかみながらもケガで苦しんだ波田の目は、すでに来季を見据えている。リードWCの舞台で来年こそシーズンを通して存分に暴れる権利を手にするために。

リードWCクラーニ大会に出場する日本代表

[男子]

  • R3 是永敬一郎☆(これなが・けいいちろう/21歳)
  • R13 楢崎智亜☆(ならさき・ともあ/21歳)
  • R14 藤井快☆(ふじい・こころ/24歳)
  • R14 波田悠貴(はだ・ゆうき/20歳)
  • R16 樋口純裕(ひぐち・まさひろ/24歳)
  • R20 緒方良行☆(おがた・よしゆき/19歳)
  • R39 野村真一郎(のむら・しんいちろう/20歳)
  • −  楢崎明智☆(ならさき・めいち/18歳)

※楢崎の「崎」は正しくは「大」の部分が「立」

[女子]

  • R13 大田理裟(おおた・りさ/24歳)
  • R17 野口啓代☆(のぐち・あきよ/28歳)
  • R31 小武芽生(こたけ・めい/20歳)
  • R32 義村萌(よしむら・もえ/20歳)
  • 野中生萌☆(のなか・みほう/20歳)

☆=東京五輪強化選手 R=リードWC年間ランキング。順位なしは今季リードWC初出場

フリーランスライター&編集者

出版社で雑誌、MOOKなどの編集者を経て、フリーランスのライター・編集者として活動。最近はスポーツクライミングの記事を雑誌やWeb媒体に寄稿している。氷と岩を嗜み、夏山登山とカレーライスが苦手。

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